コロナ禍だから気付けた社会人の本気。働きながらダンスで誰かを魅了する慶應大学OBが語るダンスの世界。
コロナ禍3年目の夏、全国で夏祭りや音楽イベントなどの再開の動きがみられ、感染対策との両立を目指す形で、行楽の「Withコロナ」が進んだ。しかし、各地で感染者数の最多更新が相次ぎ、急きょ中止や延期を決断する自治体、イベント主催者も出てきている。そんな中、キッズダンスの盛り上がり、ダンス甲子園、ダンスユニットオーディション、チアリーダーのきつねダンスなど何かとダンスがメディアを騒がせている。
ストリート・ヒップホップダンスの必修化
平成20年に文部科学省が発表した学習指導要領により2011年から小学校、2012年から中学校、2013年には高校において表現運動・リズムダンスと称してロックダンス、ヒップホップダンスが体育に導入された。日本には日本舞踊や盆踊り、社交ダンスなど幅広くある中でなぜか義務教育化となったのはヒップホップダンスだ。
なぜ?ヒップホップダンスが義務教育なのか
実は文部科学省がヒップホップダンスから学んで欲しいと考えているのはダンスが踊れるという運動神経ではなく、自己表現力、仲間たちと動きを合わせていく中で身につくコミュニケーション能力だ。大勢の中でいかに動きを合わせてチームプレーができるか、その中で微妙に動きを修正して、個々の特性を生かし、立ち位置や全体構成を決めることでの気配り・心配り・連帯感を養うことを文部科学省は期待しているという。
ダンス生活の集大成
そんなダンスブームの中、今回注目したのは大手企業に勤めながらもダンス活動を継続して、作品を創り出そうとしている社会人ダンサー橘和志(愛称:とまと)さん。慶應義塾大学在学中に始めたダンスを社会人になっても継続して、来る9月10・11日に慶應義塾大学ダンスサークルOBOG団体ZENONが開催する第6回公演ANSWERでは振付や衣装、選曲など幅広く責任を持ち、今回の公演をダンス生活の集大成として覚悟を決めている。
自分が今、没頭できることに集中する!
――なぜ社会人ダンサーを継続しているのか。
とまと|大学時代からダンスに熱中してきましたが、自分自身が楽しめて仲間やサークルへの恩返しができる活動という点に当時は魅力があり、自分のモチベーションになっていました。
その気持ちは今でも変わりないのですが、社会人になってからはそれらに加えて、誰かに見てもらいたい!見てくれる人に届けたい!伝えたい!という感情が生まれました。ダンスをやってる人、やってない人にかかわらず、お世話になっている人にダンスを通じて感動を届け、感謝を伝えられると考えるようになって、今ではそれがダンスを続ける一番の原動力になっています。
また、今の自分の人生観・モットーにあたるものが自分が今、没頭できることに集中する!なので、それがダンスにあたり、自然と社会人になっても継続しているのだと思います。
――大手企業に勤めながらのダンス活動で感じることは。
とまと|正直、仕事もダンスも全力なので日々忙しいですね。毎日やりたいことがいっぱいなので、あっという間に一日が終わります(笑)。
ただ、時間が有限だからこそ、より熱中できているとも感じますし、同じ状況下で日々奮闘するZENONのメンバーを尊敬し、彼らと共に作品を創れることを心から幸せに思えます。自分が学生だったらここまでの感情は生まれてなかったと思います。
――コロナ禍で何か変化したことは。
とまと|月並みですが、ステージに立てることが当たり前ではないと感じられていることでしょうか。
私自身このコロナ禍で、長期間準備してきた公演が直前に中止になったり、観客の人数や声援を制限したり、マスクをしてステージに上がったりする経験もあり、正直ダンサーにとってはかなり苦しいことも多かったです。
今回も真夏の練習でもマスクを着用していたり、練習期間中に感染拡大の第七波が訪れてビクビクしたりと、新型コロナの脅威はあり続けましたが、おかげさまで無事本番を迎えられそうで、関係各所には感謝の気持ちでいっぱいです。
――とまとさんにとって、ダンスの魅力は。
とまと|ダンスは、体全体を使ったアートである、という点です。学校では体育で教わるのでスポーツのイメージがある方もいるかもしれません。もちろん体全体を使って試行錯誤をするものであるためスポーツとしても楽しめますしそれもダンスの魅力ではあるのですが、誰よりもはやくゴールをしたら勝ち、相手よりも点を取ったら勝ちといった世界ではなく、自分らしさの表現でありみんな違いがあって良いというアートの世界がダンスにはあります。
だからこそ自分だけの答えを導き出す探求ができたり、人の個性や表現へのリスペクトができるようになったりするところがダンスの魅力だと思っています。
多種多様な人と関わりあう必要があったり、常に何が正解かはわからなかったりするビジネスのフィールドにおいても、この感性を持っていることは非常に重要だと思っているので、社会人になって改めて気づけたダンスの魅力だなと思います。
――社会人ダンサーだからこそ見える世界観とは。
とまと|ダンスはアートなのでそこに普段から触れていると、ビジネスにおいても自分らしさを出すということを自然にできるのがメリットだと感じています。
社会に出るとルールや正攻法があったり、やらされている感覚に陥りがちだったりするものだと思いますが、ダンスに向き合うのと同じように、自分はこうやりたい、これが好き・おもしろそう、など自分ならどうするかといった思考になりやすく、自分ならではのアウトプットが出やすくなると思います。
逆に、ビジネスを経験しているからこそ学生の時とは違う形で今、作品創りができているとも感じます。
アイデアの発想方法や、思うようにいかなかったときの要因分析の仕方、ショーに出演しているメンバーへのコミュニケーションの取り方や、その他の関係者の巻き込み方など、学生の時よりもいろんな視点や武器をもってクオリティの高い作品創りに臨めるようになりました。
社会に出て人に価値を提供する側になったからこそ、人や環境への感謝や関係者への配慮といったそもそもの人間性という部分も見直すことができたと感じています。
ダンス以外のさまざまなスポーツや組織活動においても同様に、その活動で得たものが社会人として活かされるというのはもちろんのこと、その活動においてパフォーマンスをあげるためにも、ビジネスや社会について知ること・経験することはとても有意義だと思っています。本当の意味でのキャリア教育がそこにあるのだと思います。
コロナ禍だからこそ発見できた価値
コロナ禍で働く場所を変える人、趣味を深ぼる人、新しく趣味を見つける人など、働くことへの価値観や生活、キャリア、人生観も多様化しました。
一方、コロナ禍で行動、活動範囲が制限されることで視線が下がってしまった人も多い。今回のとまとさんのように、コロナ禍だから発見できた価値をカタチにして、日々の生活に落とし込むことができれば自分自身をアップデートさせることができて、コロナ禍でも日々、社会人生活を充実させることができるのだと思います。
まだまだ感染拡大の不安は残りますが、学生も社会人も一歩ずつ前に進むことで自分の人生をHappyにできるので、一度立ち止まり、自分自身を俯瞰して新しい発見をした上で一歩踏み出してはいかがでしょうか
はたらくを楽しもう。
【橘和志|とまと】
1993年生まれ 愛知県瀬戸市出身
2013年に慶應義塾大学に入学しストリートダンスをはじめる。
2017年に大手人材ビジネス会社に新卒入社し、社会人になって以降もダンスバトルの出場やショーの振付などダンスの活動を継続。
■慶應義塾大学ダンスサークルOBOG団体主催ZENON
第6回公演ANSWER@坂戸市文化会館
2022年9月10日(土)| 第1回 15:00 開場 16:00 開演
2022年9月11日(日)| 第2回 10:00 開場 11:00 開演、 第3回 14:00 開場 15:00 開演