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2019年W杯で腹の底から笑うために、ジャパンは敗因を徹底分析すべし!

永田洋光スポーツライター
アマナキ・レレイ・マフィやトンプソン・ルークの活躍も通じず、ジャパンは連敗(写真:ロイター/アフロ)

ライオンズに主力を取られたチームに勝ったジャパンだけがW杯で勝った、という事実を覆せるか?

2019年、日本のラグビーファンは果たして本当に心の底から喜び、W杯が自国で開催されたことを感謝できるのだろうか。

誰もが強くそう望み、願っているのは間違いない。

しかし、10日のルーマニア戦から24日のアイルランドとの第2テストマッチまで、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)が「スプリント勝負」と位置づけた6月のテストマッチ3連戦を見て、なんとも不安になってきた。

結果は1勝2敗。

ヨーロッパの古豪ルーマニアには、前半からトライをたたみかけ、後半の追い上げをかわして33―21と勝利。しかし、17日にはアイルランドに22―50と大敗。先発メンバーを8名入れ替え、気合いを入れ直して臨んだ最終戦も、前半にアンラッキーなトライを奪われるなどして13―35と敗れた。

アイルランドが、世界ランク3位の強豪国であることは対戦前からわかっていたが、主力メンバーが11名ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズのニュージーランド遠征に取られての来日だ。まして、先月の抽選会で19年に同じプールAで戦うことが決まったばかりの相手。

ここは是が非でも勝ちに行かなければならなかった。

それなのに第1戦も、第2戦も、前半から点差を離された。

確かにユース世代から着実に強化しているアイルランドは、主力抜きでも十分に強かったが、それはなんの言い訳にもならない。

ジョセフHCはこういう比較を嫌がるだろうが、過去、同様にライオンズに主力を取られて来日したホームユニオン(=イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4協会)の代表チームに勝ったのは、89年5月に宿澤広朗監督が率いたジャパン(対スコットランド、28―24)と、13年6月、エディー・ジョーンズHC率いたジャパン(対ウェールズ、23―8)の2チームだけ。そして、勝ったジャパンは、どちらもその2年後に行なわれたW杯で勝利している。歴史上この2チームだけが、W杯で白星を挙げたのである。

もちろん、W杯の2年前にこうしたホームユニオン勢との対戦が定期的に組まれているわけではないので単純な比較はできないし、だから今のジャパンが19年W杯で勝てないと言いたいわけではないが、強化のギアを上げるタイミングを逸したことは間違いない。

「ゲームをもっと理解しないといけない」とリーチは言った

試合後、薫田真広・強化委員長は「今年は課題をすべて出し切って、来年以降の強化につなげたい」と話したが、問題は、それで19年に間に合うかどうか、だ。

当たり前の話だが、ラグビーは常に相手と自分たちの相対的な力関係のなかで勝敗が決まる。つまり、課題を修正して、強さの絶対値が増したとしても、相手の絶対値が上がれば相対的な力関係に変化は訪れず、差はいつまでもキャッチアップできないままになる。

だからこそ、これまでの力関係になかった要素を戦術的に取り入れ、差を無化するようにコーチたちは知恵を絞る。それが今回のジャパンでは「キックによってアンストラクチャーな状況を作る」ことだったわけだが、アイルランドに詳細に分析されて、ほとんど効果は得られなかった(第1戦)。第2戦では、「どん欲さ」をテーマにメンタル面でテコ入れして、ディフェンスはいくらか改善されたが、獲得したトライは2にとどまった。

これまでの力関係を決定的に覆すような可能性を見いだすことができなかったのが、6月のジャパンだったのである。

第2戦でゲームキャプテンを務めたリーチ・マイケルは試合後にこう言った。

「今日経験した差を埋めるために、一番変えなければならないのは1人ひとりのメンタリティ。1人ひとりがもっとスタンダード(プレーの水準)を上げる必要がある。また、そういうスタンダードを作らないといけない。チームがやろうとしていることは間違ってはいないが、それをゲームのどこで使うか、ゲームをもっと理解しないといけないし、判断を磨かないといけない……」

要するに、キックを使うなら使うで、自陣からアタックを仕掛けるなら仕掛けるで、どういう局面で、どんな判断のもとでそのプレーを選択するかについて、選手たちがもっと判断力を高めないといけないと言っているのだ。そして、このコメントは、試合直後にテレビのインタビューで述べた「戦術面はもう少し磨く必要がある」という言葉に対応している。

もっと言えば、W杯でトップレベルのチームから勝利を狙うには、まだまだゲームに対する理解度が低いと、チーム全体に苦言を呈しているようにも聞こえる。

「いいプレー」と「悪いプレー」の判断基準は共有されているか?

記者席から見ていても、今の日本代表における「いいプレー」と「悪いプレー」を分ける価値基準が、まだ明確に定まっていないように感じられた。

たとえば、試合開始直後にジャパンは、36歳ながら24回のタックルを決めてベテランの存在感を発揮した――というかジャパンで一番際立っていた――トンプソン・ルークが鋭いタックルでアイルランドを後退させ、ラックでターンオーバーを勝ち取った。

ボールはすぐにオープン側に展開されて、アマナキ・レレイ・マフィが長いパスを放ったが、このパスがワンバウンドしたところを、走り込んだアイルランドCTBギャリー・リングローズにインターセプトされて痛い先制パンチを浴びた。

不運と言えば不運な失点だが、このトライを単なる「不運」で片づけていいのか。

ターンオーバーしたボールを外に動かしたマフィの判断は、果たして「悪いプレー」だったのか。

それとも、判断は的確で、パスするという発想も「いいプレー」だったが、パスが悪かったのか。

それとも、マフィがパスしようとしたところで誰かがストップをかけるべきだったのか……。

パスミスからトライを奪われたという結果を論じるのではなく、そのプレーのどこが良くてどこが拙かったのかまで突き詰めて議論しなければ、チームになにが「いいプレー」でなにが「悪いプレー」なのかという共通理解は生まれない。そこまで踏み込んで詳細に分析し、次に同じような状況が訪れたときに、ピッチ上の15人全員が同じ判断を共有できるところまで意思統一を図るのが、課題を修正するという行為なのである(ちなみにいいプレーと悪いプレーを共通認識として徹底したのがV7神戸製鋼だった)。

一方のアイルランドが、こういうピンチのときは、ジャパンにすれ違われるリスクを覚悟でプレッシャーをかけると意思統一していたことは明らかで、ジョー・シュミットHCは「ボールキャリアにプレッシャーをかけるよう指示した。長いパスに対しても、早く上がって(前に出て)プレッシャーをかけるように指示した」と試合後に明かしている。

この場面はたまたまそうなっただけなのかもしれないが、アンストラクチャーな状況からのアタックを戦術的な柱に据えたジャパンが、ターンオーバーという願ってもない状況を作り出しながらミスを犯し、そういう状況でのディフェンスを想定していたアイルランドは相手のミスをしっかりと先制点に結びつけた。

これは、HCが意図したラグビーがチームにどこまで浸透したか――その度合いで、ジャパンがアイルランドに及ばなかったことを意味しているのではないか。

前の試合から1週間という準備期間の短さは両チームにイコールでも、その間に相手を分析し、細かい戦術に落とし込めたかどうかを比較すれば、明らかに上回っていたのはアイルランドであり、ジャパンはそこで後塵を拝した――というのが、この試合の総括なのである。

それなのに、ジョセフHCも薫田委員長も「ティア1との差は大きい」と総括しているようでは、修正のための方向を見誤る。

差の大きさを嘆くのではなく、なぜ差を縮められなかったのかにフォーカスしなければ、ジャパンに進歩は望めない。

初期のエラーにきちんと対応しなければ“タカタ”の二の舞になる

この26日、自動車のエアバッグの欠陥問題で経営危機がささやかれていた株式会社タカタが、東京地裁に民事再生法の適用を申請して大きなニュースとなったが、この間、言われていたのがタカタの初期対応の拙さだった。

自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は、これに先だつ20日付のコラムで、問題が取りざたされた08年時点で「開発体制や品質管理にメスをしっかり入れていれば、傷口は浅くてすんだであろう」と述べた上で、問題が大きくなった背景をこう指摘する。

「問題を隠蔽すること、問題を放置すること、味方になってもらうべき相手を敵に回すこと、無意味な時間稼ぎをすること……タカタを絶体絶命の状況に追い込んだのは―略―リスクマネジメントでやってはいけないとされることをフルコースでやってしまった経営陣の無明のなせるわざだったと言えようか」(引用はいずれも『タカタ経営陣 やってはいけない危機管理のフルコースだった』より)

まさかジャパンが同じ轍を踏むとは思わないが、それでもアイルランド戦では、第1戦で、キックの使い方が拙くて相手にボールを与えるという欠点が明らかになった。第2戦は、全員が一所懸命戦いながらも、チームの意思統一の確かさで明らかに後れを取った。致命傷とまでは言わないが、すぐに修正すべきポイントが数多く見つかったのである。

この教訓を、どう建設的に19年へと生かすのか。

ジャパンに今、必要なのは、体格差やティア1の壁といった常套句に負けた理由を求めるのではなく、なぜその差を埋められなかったのかを緻密に分析することだ。そのための議論に“タブー”があってはならない。

19年W杯開幕まであと2年3か月を切った今、真摯で冷静、かつ謙虚な敗因分析こそが求められている。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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