ルノーの「ゴーン氏不正調査」での「結婚披露宴620万円問題」をどう見るか
1月11日に、特別背任等で追起訴された後も、2度の保釈請求が却下され、勾留が100日近くにも及んでいるカルロス・ゴーン氏の事件、まさに日本の「人質司法」の悪弊を海外にさらす状況が続いている。
一方、その後の検察の捜査には、あまり進展がないのか、検察側のリークによると思える「有罪視報道」はめっきり減り、最近ではゴーン氏のことがマスコミで報じられることも少なくなっている中、フランスから、今週のゴーン氏に関するニュースとして報じられたのが、ルノーが2016年にベルサイユ宮殿内の大トリアノン宮殿で夕食会を開いた際、会社の資金が流用されたという件だった。ルノーがこの問題をフランスの検察当局に通報したと発表したと報じられたことで、「ルノーもゴーンの不正を暴き始めた。やはり“強欲ゴーン”は本当だった」と思った人も多かったはずだ。
ルノーは、ゴーン氏解任を拒否するなど日産と方針を異にしてきた。また、フランスのメディアも、日本の検察捜査に批判的だった。ところが、今回、ルノーがゴーン氏の不正を検察当局に通報し、それについてフランスのメディアが報じていることから、フランス側も、ゴーン氏の不正追及に動き出したかのような見方が多いようだ。しかし、今回の「結婚披露宴問題」は、果たしてそのように見るべきことなのだろうか。
この話は、「資金流用」と報じられているが、正確には、ルノーが、企業が文化芸術を支援する「メセナ」契約をベルサイユ宮殿と結び、宮殿の改修費用の一部を負担する代わりに、城館を借りられる取り決めがあったところ、ゴーン氏の結婚披露宴での宮殿の使用が、そのメセナ契約の対価として無償とされ、その価値が5万ユーロ(約620万円)相当だったということのようだ。
そのような話であったとしても、会社が行ったメセナの対価が、ゴーン氏の結婚披露宴という個人的用途に充てられたということであれば、「会社の権利の私的流用」であることは否定できないので、ゴーン氏に不正の疑いが生じることは致し方ないであろう。
しかし、少なくとも、会社から資金を不正に支出させ、結婚披露宴の資金に充てたという話ではない。しかも、代理人弁護士によれば、ゴーン氏は「請求書を受け取らなかったため支払い義務があることを知らなかった」「無償だと思っていた」と説明したとのことである。
ベルサイユ宮殿への「メセナ」自体が、結婚披露宴での施設無償使用を目的とするものであった場合には、「メセナ」自体が重大な資金流用ということになるが、少なくとも、ルノーが「メセナ」を行った目的は、純粋な文化芸術の支援だったようである(ジュネーブ在住のjunko@junko1958氏のツイートによれば、現地の新聞では、このメセナはベルサイユ宮殿側がルノーに要請したものと報じられているとのこと)。仮に、ゴーン氏側で、施設の無償使用の認識があったとしても、「会社の出張で貯めたマイルを使って個人的な旅行をした」というのと同程度の行為だと言えよう。
ゴーン氏の逮捕当初、このベルサイユ宮殿での結婚披露宴に関しては、総額数十億円の費用をすべて日産に負担させたかのような報道があふれ、「強欲ゴーン」が印象づけられていたことを想起する必要がある。以下は、「女性自身」2018年11月30日のネット記事だ。
ゴーン氏はベルサイユ宮殿の離宮・大トリアノン宮殿を借り切ったのです。ソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』にインスピレーションを得たそうで、俳優を雇って18世紀風のコスチュームを着せるなど、豪華絢爛なものでした。アンティークの銀器や陶器をふんだんに使用。もちろんシャンパンやケータリングされた食事も超一流で、120人の招待客を驚かせたのです。
皇帝・ゴーンの心を奪い、“日産の女帝”となったキャロル夫人に捧げられたベルサイユ挙式。宮殿貸し切り料などを含め、費用は総額80億円とも報じられているが、まさかそれも日産の負担だったのか。
これと同趣旨のことが、テレビのワイドショーなどで連日報じられた。この当時報じられていたことと、今回のゴーン氏の披露宴に関する「不正」の内容とは、大きな乖離がある。
重要なことは、今回のルノーの発表は、ゴーン氏逮捕以降3か月にわたって調査を続けた結果出てきた「不正」が、今のところ、結婚披露宴の費用620万円の問題しかないということを示していると考えられることだ。
「検察への通報」というのも、告発して処罰を求めるというよりは、ルノーの社内調査で把握した事実について、法律上の問題がありうることから、それが不正に当たるかどうか判断を委ねるものだろう。
その後、仏紙の報道として、2014年に日産とルノーの提携15周年を祝うパーティーがベルサイユ宮殿でゴーン氏の60歳の誕生日に開かれ、ゴーン氏の友人らも招かれて約7500万円に達した費用を両社の統括会社「ルノー・日産BV」が負担したことなども報じられているが、日産・ルノーのイベントの開催の趣旨と、招待客などが具体的に明らかにならないと「不正」と言えるかどうかは判断できない問題だ。
ルノーは、ゴーン氏が日本の検察に逮捕されても、「推定無罪の原則」を尊重し、ゴーン氏の会長職を維持していたが、日本の「人質司法」の悪弊のために、身柄拘束の解消の見通しが立たないことで、やむなくゴーン氏を解任した。その後、フランスのメディアでゴーン氏に関する報道が相次いでいるのは、絶対権力者が経営トップの座を降りた後に、社内の敵対勢力などからの、様々な批判の動きによるものとみることもできる。
フランスでの結婚披露宴の費用負担に関する問題も、日産とルノーの提携15周年を祝うパーティーの話も、日産経営陣によるコーポレート・ガバナンスを逸脱したクーデターと、日本の検察当局の不当極まりない捜査・起訴に対する評価に影響を与えるようなものではないことは明らかだ。