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ショーン・ペン「ワクチン未接種の人は僕の映画を見に来るな」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ショーン・ペンと娘のディラン・ペン(写真:REX/アフロ)

 パンデミックが始まって以来、PCR検査やワクチン接種の拡充に大活躍してきたショーン・ペンが、反ワクチン派を冷たく拒絶した。彼が監督した最新作を映画館に見に来るのはワクチンを接種した人だけにしてという、大胆な発言をしたのである。

 彼がこのコメントをしたのは、深夜のトーク番組「Late Night with Seth Meyers」。今年のカンヌ映画祭でプレミア上映され、先週末に北米公開された「Flag Day」について語るための出演で、ペンはまず、実の娘ディラン・ペンと父娘役で共演したことや、自分自身を監督したことなどについて語った。

 だが、途中、ホストのマイヤーズから、「(パンデミックで配信直行になる作品が多い中)、今作が劇場公開されるのは嬉しいことですか?」と聞かれると、「ああ、劇場だけで公開されるのは(嬉しい)。僕は、何か見たい時、(テレビという)小さな箱で便利に見たいとは思わないのでね。『Flag Day』はビッグスクリーンのために作った。今の状況で、僕と同じことを信じる会社MGMに自分の映画を配給してもらえる僕はとてもラッキー。最終的には配信されるが、最初は劇場のみで上映されるんだ。ただし、言っておかなくてはいけないことがあるよ。僕は、ワクチンを受けていて、自分にも他人に対しても安全である人たちだけに映画館に行ってほしい。そのうち配信もされるのだし。まあ、ワクチンを受けていない人はどうせ僕の映画になんか興味ないだろうけれど」と述べたのだ。

 ペンがこんなコメントをしたのは、まったく驚きではない。先月も、ペンは、撮影現場の全員がワクチンを受けているのでないかぎり、自分が主演するドラマ「Gaslit」のセットに戻らないと発言して注目を集めたばかりなのだ。ハリウッド全体としては、撮影現場でのワクチン接種を義務付けるにはいたっておらず、最近になってようやく、作品ごと、あるいは会社単位で、俳優に最も近い「ゾーンA」で仕事をする人たちに義務付けられるようになった状況。しかし、ペンは、それでは十分でないと、「ゾーンA」以外の人も含めた全員に接種してほしいと言ったのである。未接種の人がスムーズに受けられるようにするため、彼の非営利団体Community Organized Relief Effort(CORE)がその業務を担っても良いとも、彼は申し出てもいる。

パンデミックにおける活動で公共サービス賞を受賞

 COREは、2010年にハイチ地震が起きた時、救済活動をするためにペンが共同創設した団体。昨年パンデミックが起きると、ペンはすぐ、エリック・ガーセッティL.A.市長に「何かできることはないか」と自ら連絡をし、助けを差し伸べている。当初はかぎられていたPCR検査が急速に拡充し、あっというまにいつでも誰でも受けられるようになったのは、まさにペンと彼のスタッフのおかげ。彼らはまた、車という足がない人たちが住む不便なコミュニティにも出張検査場を作るなど、受け身にならず、常に先回りをして動いてきた。当時のニューヨーク州知事アンドリュー・クオモからも名指しで感謝され、「次はぜひ食事を奢らせてほしい」と言わしめている(もっとも、クオモがセクハラ暴露で政治生命を絶たれた今、そのお誘いが実現することはもはやないと思われる)。

 COREのウェブサイトによると、8月11日までにCOREが行ったPCR検査は539万2,000件。ワクチンは174万8,000回分の接種を手がけた。シカゴやネイティブ・アメリカンのコミュニティなどでも重要な活動をしたが、とりわけお膝元のL.A.においてはヒーローだ。その活動に感謝の意を表し、筆者も所属するロサンゼルス記者クラブ(LAPC)は、先週、2021年のビル・ローゼンダール公共サービス賞を、ペンと、やはりCOREの共同創設者でCEOの女性アン・リーに授与すると発表した。「コロナが世界を苦しめる中、ショーンとアンはすぐに行動し、南カリフォルニアとそれ以外の地域に、大規模な検査体制を整えてくれました。彼らは今もケアが行き届きにくいコミュニティを手助けし、パンデミックと闘い続けています」と、LAPCのプレジデント、リサ・リッチワインは声明で述べている。授賞式は10月16日。

今年1月、L.A.のドジャースタジアムに大型接種会場が作られた。記者会見ではショーン・ペン、ギャヴィン・ニューサム州知事、エリック・ガーセッティ市長が顔を合わせた。
今年1月、L.A.のドジャースタジアムに大型接種会場が作られた。記者会見ではショーン・ペン、ギャヴィン・ニューサム州知事、エリック・ガーセッティ市長が顔を合わせた。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 そんなふうに一生懸命コロナ撲滅のために努力してきたからこそ、ペンは、受けようと思えばいつでも受けられる状況なのに、いまだにワクチンを打たない人たちが我慢ならないのだ。あちらからも煙たがられているのはおそらく承知で、だからこそ「ワクチンを受けていない人はどうせ僕の映画になんか興味はないだろうが」と言ったのだろう。だが、同時にペンは「そのうち配信でも見られるようになるし」とも言っている。つまり、ワクチンがそこまで嫌ならば、せめて人に迷惑をかけないでということ。それくらいなら、聞く耳を持ってくれても良いのではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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