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ChangeNOW:パリで描かれるサステナビリティとビジネスとの新たな風景

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
「ChangeNOW(チェンジ・ナウ)」会場風景(写真はすべて筆者撮影)

「地球の問題解決に関するもっとも大きなイベント」と言うスローガンを掲げる「ChangeNOW(チェンジ・ナウ)」が、5月25日から27日の3日間、パリで開かれました。

パリでは2015年に、地球温暖化対策をテーマにした国際環境サミット「COP21」がありました。それと前後して、具体的な多くの取組みが草の根的な動きとして始まりました。けれども単体では拡張発展に限界があるので、それらの力を結集しスピードアップする機会を作ることが不可欠ということで、2017年に「チェンジ・ナウ」が初めて開かれました。

エッフェル塔を正面に見る会場でのトークセッション
エッフェル塔を正面に見る会場でのトークセッション

今年はエッフェル塔を真正面に臨む「グランパレ・エフェメール」での開催。世界各地から集まった起業家、ビジネスリーダー、政治家、活動家など、さまざまな分野の専門家たちがスピーカーとして登壇し、活動内容を紹介したり、ディスカッションを行ったりしたほか、スタートアップのスタンドもたくさん並びました。

このイベントには、何か具体的にアクションを起こそうとする人はもちろんのこと、企業や投資家たちの熱い視線も注がれているので、ビジネスに直結する機会が期待されます。会場を回った中で、私が足を止めたスタンドのいくつかを写真とともにご紹介しましょう。

会場のスタンドでも特に目を引いていたフランス・ブルターニュの「Under The Pole」の大きなカプセルのような装置
会場のスタンドでも特に目を引いていたフランス・ブルターニュの「Under The Pole」の大きなカプセルのような装置

装置の中では、3人の乗組員が72時間生活でき、足元の開口部から出入りしながら海中での作業をする。実際にサンゴ礁の調査研究などに使われている
装置の中では、3人の乗組員が72時間生活でき、足元の開口部から出入りしながら海中での作業をする。実際にサンゴ礁の調査研究などに使われている

食品ロスの問題に一石を投じ、新しい食材を生み出しているスタートアップ「Green Spot Technologie」。フランスに拠点を置いているが、こちらの彼女はブラジル人という国際企業
食品ロスの問題に一石を投じ、新しい食材を生み出しているスタートアップ「Green Spot Technologie」。フランスに拠点を置いているが、こちらの彼女はブラジル人という国際企業

りんご、トマト、ビール醸造後の残り滓などを発酵させてパウダー状にしたもの。これが新しい食品の材料になる。上の写真のクッキーやエナジーバーも、このパウダーからできている
りんご、トマト、ビール醸造後の残り滓などを発酵させてパウダー状にしたもの。これが新しい食品の材料になる。上の写真のクッキーやエナジーバーも、このパウダーからできている

流しそうめんを連想させるような竹の装置。これはイベントのために特別にデザイナーが製作したもので、フランスの水管理の企業「Saur」、濾過と水処理技術のスタートアップ「InovaYa」の共同出展
流しそうめんを連想させるような竹の装置。これはイベントのために特別にデザイナーが製作したもので、フランスの水管理の企業「Saur」、濾過と水処理技術のスタートアップ「InovaYa」の共同出展

オーストラリアの「Erub Arts」が製作したオブジェ。海中に放棄された漁業用の網、いわゆる「ゴーストネット」からできている
オーストラリアの「Erub Arts」が製作したオブジェ。海中に放棄された漁業用の網、いわゆる「ゴーストネット」からできている

ゴーストネットはしばしば、海中の魚を傷つけ、死に至らしめるということで、このオブジェはアート作品であると同時に、海洋投棄の問題に人々が気づくきっかけにもなる
ゴーストネットはしばしば、海中の魚を傷つけ、死に至らしめるということで、このオブジェはアート作品であると同時に、海洋投棄の問題に人々が気づくきっかけにもなる

海から300キロほど内陸にある地方で養殖された海老。スペインの「Noray」という企業が開発した養殖技術は、完全にサステナブルな方法で添加物ゼロを実現したものだそう
海から300キロほど内陸にある地方で養殖された海老。スペインの「Noray」という企業が開発した養殖技術は、完全にサステナブルな方法で添加物ゼロを実現したものだそう

試食させていただいたが、大ぶりで歯ごたえがしっかりしていて、かなり美味しい海老。山でも地産地消の海老が食べられる未来がくる?
試食させていただいたが、大ぶりで歯ごたえがしっかりしていて、かなり美味しい海老。山でも地産地消の海老が食べられる未来がくる?

プロジェクトの規模は大小さまざまです。とはいえ、身近なアイディアを具体化させるベく、小さく始めているところでも、こういった場で注目を集めることが大いにありえると感じます。

また、会場内の数カ所で繰り広げられたカンファレンスでは300人余りのスピーカーが登壇。大企業のCEOや政治家もいれば、14歳のコロンビア人の環境活動家もいたりするほど非常にバラエティーに富むもので、地球環境、サステナビリティから派生するあらゆるテーマについて、広範な意見が交わされました。

オープニングのスピーカーは、フランス人仏教僧のMatthieu Ricard(マチュー・リカード)さん。細胞遺伝学の博士号を取得後、50年間チベットで学び、人道プロジェクトを積極的に推進している
オープニングのスピーカーは、フランス人仏教僧のMatthieu Ricard(マチュー・リカード)さん。細胞遺伝学の博士号を取得後、50年間チベットで学び、人道プロジェクトを積極的に推進している

とにかく盛りだくさんの3日間だったのですが、本題とは別の面で特に印象的だったのは、イベントの翻訳機能の発展です。

これまで、国際的なカンファレンスやトークイベントの場合、翻訳を希望する聞き手はイヤフォンをつけて、同時通訳者による翻訳を聞くのが定番でした。しかも、言語は主だったものに限られていました。

けれども今回のイベントには「マイクロソフト」が協賛していて、登壇者のスピーチは、考えられる限りのあらゆる言語に翻訳されて、各自のスマートフォンなどに文字情報として表示されたのです。しかも話し手とほぼ同じスピードで文字がどんどん流れてきます。

言語の選択肢の多さ、翻訳の速さは目を見張るほどで、私は(ここにもAI!)という思いを強くしました。

ただし、この機能は現時点では草創期と見え、ステージによっては機能が全くストップしてしまったり、文字翻訳されるものの、意味不明な文章だったりということもしばしば…。

とは言え、よく言われるように、こうした不具合が解消されるのは、おそらく時間の問題でしょう。

カンファレンスのステージに表示されたQRコードをスマートフォンなどでスキャンすると、自動翻訳のページが開くようになっている
カンファレンスのステージに表示されたQRコードをスマートフォンなどでスキャンすると、自動翻訳のページが開くようになっている

筆者のタブレットに表示された同時翻訳。スマートフォンでも同様のことができた
筆者のタブレットに表示された同時翻訳。スマートフォンでも同様のことができた

ところで、そもそも私がこの「チェンジ・ナウ」を訪れたきっかけは、昨年の同じ時期に「モエ・ヘネシー」の主催で開かれた「World Living Soils Forum(ワールド・リヴィング・ソイル・フォーラム)」というイベントのその後を追うためです。画期的なこのイベントは、こちらの記事で紹介していますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください。

地球環境の変化への対応、サステナビリティは世界規模の緊急の課題です。それは国際的リーダーカンパニーであるLVMHの一翼である「モエ・ヘネシー」が「ワールド・リヴィング・ソイル・フォーラム」のような大きなプロジェクトを立ち上げたことからもわかります。

これは2年に一度開催される予定で、昨年がその1回目。次は来年の開催が予定されていますが、その間にある今年は「チェンジ・ナウ」に参加するという形で、各ワイナリーで進めているプロジェクトについて、スピーカーによって、あるいはブース展示によって紹介されました。

「モエ・ヘネシー」のコーナーにはドイツ人アーティストNILS-UDOの「HABITAT 2022」が展示された。「ルイナール」の畑にあるのと同じもので、昆虫や生物の棲家としての機能もある象徴的な作品
「モエ・ヘネシー」のコーナーにはドイツ人アーティストNILS-UDOの「HABITAT 2022」が展示された。「ルイナール」の畑にあるのと同じもので、昆虫や生物の棲家としての機能もある象徴的な作品

さらに、来年の「ワールド・リヴィング・ソイル・フォーラム」のイベントは、「チェンジ・ナウ」とパートナーシップを組んで開催されるということもこの場で発表になりました。ただし、あくまでも「チェンジ・ナウ」とは別のイベントとして、夏の前か後の開催予定。来年はパリオリンピックを控えているので、その前か後のタイミングでというわけです。

「モエ・ヘネシー」サステナビリティ部門最高責任者サンドリーヌ・ソメールさん(右)と「チェンジ・ナウ」の共同創設者のケヴィン・タイバリーさん(左)が来年のプロジェクトを発表
「モエ・ヘネシー」サステナビリティ部門最高責任者サンドリーヌ・ソメールさん(右)と「チェンジ・ナウ」の共同創設者のケヴィン・タイバリーさん(左)が来年のプロジェクトを発表

パリにいると、このようなサステナビリティをテーマにした動きが活発なのを肌で感じます。それにコミットすることが社会の共通認識であるのはもちろん、ビジネスを展開する上でも核になって行くと感じます。

「チェンジ・ナウ」で登壇するスピーカーたち、そしてスタンドを出展しているスタートアップの方々から受けた印象は、インテリジェンスがあって自然体。

(こういう人たちが次の時代を動かして行くのだろうな)という、ポジティブなエネルギーが感じられました。

ところで、このイベントは日本ではまだあまり馴染みがないかもしれません。けれども、例えば東京・渋谷区から、また京都から来仏してイベントに参加しているという日本の方々もいましたので、感度の高い方たちはすでにこの世界の流れに乗っています。

とかく、私たちはセンセーショナルな出来事や惨事などに目を向けがちですが、コロナ明けのパリにはこうした長期目線の非常に前向きなエネルギーもあるというご報告でした。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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