し烈な「椅子取りゲーム」NHLを目指す平野裕志朗と三浦優希の日々。
さまざまな条件の絡むなかで、限られた椅子を勝ち取るために戦い続けるのは、どれほど厳しいことだろうかと思う。
世界最高峰のNHL(北米プロアイスホッケーリーグ)を目指す日本代表FW平野裕志朗の2022年-23年シーズンは、NHLカナックスのトライアウトキャンプに招待されることからスタートした。昨季は3部相当のECHLで圧倒的な数字を残し、2部のAHLに昇格して、30試合で5ゴール、7アシスト。日本生まれの選手として初めてAHLでゴールを決めるという快挙を成し遂げている。
今季はさらなる活躍が期待されたが、11月下旬から1月中旬まで全く出場機会を与えられなかった。NHLから降格してきた選手や、この他のNHL契約を結んでいる選手のプレー機会が優先されたからだ。明らかにずば抜けたパフォーマンスや数字を残せなかったということもあるが、平野はAHLカナックスとECHLとの2ウェイ契約を結んでおり、契約の種類が弱いことがプレー時間に影響したといってよいだろう。
平野は「悔しさとポジティブな部分を分けて考えた。こういう経験がないと上にはいけない」と自分に言い聞かせるように話した。1月末からは、試合勘を取り戻すために3部のECHLに期限つきで移籍したが「どこでやっても誰かが見ていることを自覚し、やり続けたい」と前を向いた。その言葉通りに2月16日にはAHLカナックスに再昇格を果たした。
プロの下部リーグの選手は厳しい競争を勝ちあがっていかないといけない。それと同時に、自分ががんばってもコントロールできないチームの編成方針にどう向き合うかも問われる。
同じく日本代表のFW三浦優希はECHLのアイオワハートランダーズで2年目のシーズンを送っている。三浦は相手の攻撃を食い止めることを得意としており、シュートをブロックし、スティックさばきでパックを奪うこともある。しかし、こういったプレーは、ゴール、アシストという数字に表れにくい。
三浦は「守りの部分ですごく評価されていると思う。点を取ることはもちろん大事だが、フォワードとして点を防ぐ役割ができたらいいと思っている。ポイントがつけばいいけれど、それを実現するためにも地道な積み重ねが大事だと思う」と言う。
さらにこう続けた。「自分の今できることにどれだけフォーカスできるか。今、自分がいる場所でどれだけ戦えるかっていうところが最終的にはその前の方に繋がっていく」
1試合ずつ、目の前の試合に集中して全力を出し切ること、課題に取り組むことは自分でコントロールできるし、それによってプレーするチームの勝利に貢献することができる。そこから先の昇格できるチャンス、いつ昇格できるか、チームがどのポジションやどのような選手を必要とするかは、自分ではコントロールできないことだ。
2人の姿に、ある野球選手を思い出した。昨季の開幕で悲願のメジャー昇格を果たした加藤豪将(現日本ハム)だ。昨年の今ごろはブルージェイズのキャンプに参加し、メジャー当落線上の戦いをしていた。プロ10年目の加藤はメジャーに手が届きそうでもコールアップされない年月を過ごしてきて「キャリアの最初の頃は考えたが、もう慣れている。自分はもうプレーするだけなので、緊張とか全然しない。(チームを編成する)ゼネラルマネジャーはゼネラルマネジャーの仕事をし、コーチは指導するのが仕事、プレーヤーはプレーするのが仕事だから」と言っていた。
やるだけのことをやって、何かが起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。平野も三浦も、いるべき場所はここではないと思いながら、けれども、今、この場所で1試合1試合を戦い続けている。