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最悪なら「銃殺」も…北朝鮮と中国の国境地帯に不穏な空気

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 北朝鮮の社会安全省(警察庁)は2020年8月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐためとして、国境と接する緩衝地帯に無許可で近づく者には、無差別に銃撃を加えるとの布告を出した。その後、射殺される人が相次いだ。

 中国との国境に接する地域、中でも両江道(リャンガンド)ではコロナ前、密輸が主要産業と言っても過言ではないほど盛んで、持ち込まれた品物は北朝鮮各地に流通していた。

(参考記事:北朝鮮国民が目を背ける「見せしめ射殺体」の衝撃の現場

 コロナの国内流入を極度に恐れる当局は、密輸を通じた中国人や物品との接触に異常なほど神経を尖らせ、強硬策で恐怖を煽った。

 密輸の手助けをしていたのが、取り締まりに当たるべき国境警備隊だった。世界保健機関(WHO)が、コロナの緊急事態宣言の終了した今、徐々に輸入が再開されると同時に、密輸も再び行われるようになっている。これに対して当局が警告を発したと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 今月初旬、国境警備隊第25旅団第4大隊で指揮官緊急会議が開かれた。会議では「国境警備隊の軍人たちが軍人としての使命と義務を果たし国境沿線(沿い)を鉄のように固く守るよう指揮官たちの役割を高めるべき」とする上層部からの指示が伝達された。また、指揮官は部下の思想教育に力を入れ、密輸や脱北などの事件事故を発生させてはならないと強調された。

 大隊のある中隊では、指揮官がすべての隊員を集め、こう言い伝えた。

「密輸や脱北行為を幇助し金儲けをして摘発されれば、銃殺に近い処罰を受けるだろう」

 この「銃殺に近い処罰」とは具体的に何を指すかは謎だ。わざわざ「銃殺」に言及しているのだから、「最悪ならそうなる」という意味だろう。

 情報筋によると、国境警備隊員や密輸業者は、密輸の機会を虎視眈々と狙い、中には金(ゴールド)や銀といった貴金属の密輸を密かに行う者もいる。金は、密輸はもちろんのこと、個人の所有も禁じられており、発覚すれば死刑は免れない。しかし、非常に儲かることから、手を出す者が後を絶たない。

 今回の指示は、そのような密輸再開の動きを察知して、コロナ前のような違法行為が横行する状態に戻るのを未然に防ごうとする意図があるのだろう。

(参考記事:金正恩の「財宝」を盗み続けた犯罪グループの残酷な末路)

 密輸業者は「いつまでも待っていられない」「いつ(当局から)やれと言われて(密輸を)やったのか」などと口々に語り、誰かが密輸を再開すれば、皆が一斉に密輸に乗り出す空気だという。

 今回の指示を受けた国境警備隊はただならぬ空気を漂わせており、密輸業者は彼らの顔色をうかがっているようだ。といっても、それはいつものようにほとぼりが冷めるのを待っているだけだという。

「3年以上続く国境封鎖でカネがなくなり、金庫にクモの巣が張るほどになった密輸業者たちを止めるのは難しいだろう。国境警備隊の隊員たちも、今の困窮から抜け出すために、密輸に加担するより他にない」(情報筋)

 国境警備隊員は、密輸業者からワイロを受け取って密輸を黙認したり幇助したりすることで、収入を得ていた。中には、直接密輸に加担する者もいたほどだ。それで儲けたカネを除隊後に持ち帰り、商売の種銭にしていた。

 一方の密輸業者はリスキーな貴金属ではなく、電化製品、穀物や野菜、生活必需品などを密輸していた。地域の住民のみならず、地方政府なども多かれ少なかれその恩恵に預かっていた。

 そんな状況を苦々しく思っていた中央政府は、コロナ鎖国をきっかけに、従来の密輸やり放題の状態を廃し、すべての貿易を国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」の確立を目指している。

 しかし、極度の食糧と物資の不足、餓死者の多発、地域経済の崩壊をもたらし、両江道が永遠に貧困から抜け出せなくなる国のやり方を、地域の人々が黙ってみているわけがない。

 なんとかして元の状態に戻そうとする地方と、戻すまいとする中央の争いがしばらくは続くだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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