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<ガンバ大阪・定期便89>『チーム』で掴み取った、ジュビロ磐田戦での勝ち点3。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
開始4分という早い時間帯での先制点はチームを勢いづけた。写真提供/ガンバ大阪

■宇佐美の一撃で口火を切り、一森のビックセーブで締めくくる。

 最後は、粘って粘って体を張り、勝ち点3を掴み取った。後半、アディショナルタイムには一森純のビックセーブにも助けられて。

「中に人数が多くて、クロスボールにも結構人が集まっていて、ガシャガシャってなっていたので、どの選手が、どのポイントでシュートを打つのかという判断がなかなか難しくて。DF陣も、他の味方の選手も結構いてブラインドにもなっていたんですけど、ボールを目視した時に『あ、ヤバい!』って感じで体が勝手に反応しました。それまでチーム全員がハードワークをして、シュートブロックもしてくれていたので、そこに勇気をもらいました(一森)」

 ガンバ大阪にとっては2週間ぶりのJ1リーグとなったJ1リーグ第4節・ジュビロ磐田戦は、立ち上がりからこの2週間で『準備してきたこと』がしっかりと表現された試合になった。

 まず、4分という早い時間帯にチームを勢いづける先制点を奪ったのは、エース・宇佐美貴史だ。右ウイングの岸本武流が前線からの圧力をかけて相手DFからボールを奪うとすかさずゴール前へ。小刻みのステップから「(相手の)股が開くのだけを待って狙った」シュートはゴール右下を捉え、今シーズン初めて流れの中からゴールを奪う。以降も磐田を圧倒。攻守の切り替えの早さから相手陣地でボールを奪い、フィニッシュまで繋げるシーンも多く、理想的に試合を運ぶ。

 そうした流れは後半にも受け継がれ、57分には宇佐美からのクロスボールに頭で合わせたダワンが追加点を奪い、磐田を突き放す。

「ダワンも見てないし、誰も見てない。ただ、そこに誰かいないとダメよね、っていう思いで(クロスボールを)上げたら、ちゃんとダワンがいてくれた(宇佐美)」

「貴史(宇佐美)にボールが入ると、彼のクオリティ、キックの質から何かが起きるということはわかっていました。ああいうシーンは、トレーニングの中でもありましたし、貴史も僕たちをサポートしてくれて、僕たちも貴史をサポートするという関係性を築けていた中で、あの瞬間もボールがくると感じられていた。しっかりそこに入って合わせるだけでした(ダワン)」

2試合ぶりの先発出場となったダワンは「ウェルトンが初スタメンだったので、チームにアダプトできるようなサポートも心掛けていた」と話した。写真提供/ガンバ大阪
2試合ぶりの先発出場となったダワンは「ウェルトンが初スタメンだったので、チームにアダプトできるようなサポートも心掛けていた」と話した。写真提供/ガンバ大阪

 だが、その直後、60分に磐田のジャーメイン良にゴールを許すと、勢いづいた相手に押し込まれる展開に。それでも、途中出場の鈴木徳真が試合の流れを汲みながら試合のテンポ、リズムを変化させて絶妙に磐田をいなすなど、交代選手が役割を果たして時計の針を進めていく。アディショナルタイムも終わりに近づいた90+6分には右サイドからのクロスボールに反応したジャーメインに頭で合わせられるも、ゴール左上を狙ったシュートは、一森のビッグセーブで阻止。そのこぼれ球からのシュートにも最後まで全員が集中して体を張り、試合を締めくくった。

90+6分の一森のビッグセーブは「チーム全員に勇気をもらった」中で生まれた。 写真提供/ガンバ大阪
90+6分の一森のビッグセーブは「チーム全員に勇気をもらった」中で生まれた。 写真提供/ガンバ大阪

■準備してきた攻撃の形。その中で岸本がつけた『1』。

 この一戦に向けて『準備してきたこと』の1つが、右サイドでの連係だった。2節・アルビレックス新潟戦はどちらかというと左ウイングに入ったファン・アラーノの特性を活かして、アラーノが中に切り込んでプレーすることが多く、それによって左サイドバックの黒川圭介が高い位置でプレーすることも多かったが、磐田戦はどちらかというと、その機能を右サイドで求めることに。これは磐田の守備の特性と、初先発となったウェルトンのプレースタイルを活かすため。右ウイングを預かった岸本武流によれば「この1週間繰り返し練習してきた形」だという。

 試合3日前にプレーイメージを話していた。

「左ウイングでウェルトンが出場する可能性もある中で、彼はサイドに張って縦への突破を得意とする選手なので。右も(外に)張ってしまうとバランスが悪くなるし、ワイドの選手がゴールに近づいていかないと中の枚数も増えない。それを踏まえて、この2週間は特に右サイドからのいろんな攻撃の形を練習してきたので、今節はより一層得点に絡むシーンが増えれば理想だと思っています。僕自身も中に切り込んでいく回数が増えれば、よりゴールに近づけるので、FW時代の嗅覚を活かせたらいいなと思っています(岸本)」

 宇佐美の先制点は、この日がシーズン初先発となった福岡将太が右サイドの深い位置へロングボールを送り込み、それに反応した半田陸、岸本が高い位置でプレーする中で、最後は岸本が圧力をかけてボールを奪ったシーンから生まれたが、そうした右サイドでの機能は前半、数多く見られることに。右サイドバックの半田との関係性もよく、互いの動きを意識した連動で右サイドを活性化させ、シュートチャンスを作り出した。

「スカウティング映像でも、ジュビロの守備が内側を締めてくる分、外側のスペースが空いてくるということへのチームとしての共通理解もあったので、前半は特に僕が縦に上がって、シンプルに速いボールを入れて相手を剥がすプレーを心掛けた。武流くん(岸本)ともいい関係性を作れたのかなと思います。ただ、後半はボールが落ち着かず、ずっと守備に追われる感じになってしまったので。自分たちの動き自体も少なくなってしまったしもう少しサイドに人数をかけて時間を作れれば良かったなと感じました(半田)」

「陸(半田)といいコミュニケーションを取りながら、いいローリングができて、右サイドを活性化させられたし、いい攻撃も作れたのでそこはすごく良かったと思っています。ただ後半は、前半はいい形で奪えていたようなシーンでも押し込まれてしまったところも多かった。僕らの体力も無限じゃないという中で今後、そういった状況をどうやって乗り越えていくのかは課題として残りました(岸本)」

 一方、左サイドのウェルトンも、持ち味である縦への仕掛けを再三にわたって披露。来日後、初先発、フル出場ということもあり終盤は息切れするシーンも見受けられたものの、攻守に一定の存在感を示したと言っていい。本人も手応えを口にした。

「先発の機会を与えてくださった神様に感謝します。今日の出場によって、ガンバがどういうサッカーをしたいのかを肌で感じ取ることができました。今日は左サイドに張って、縦に仕掛けるシーンが多かったですが、これは監督のプランと自分のプレースタイルが合致した中で生まれたプレーでした。今日のためにトレーニングで取り組んできたこともピッチで数多く出すことができたと思っています。言葉のところでの難しさはまだ感じていますが、サッカーでのコミュニケーションの取り方は理解しているので、自分にできる方向で、みんなとうまくやっていこうと考えています。この先、試合数をこなしていくことでさらにこのチームに自分をフィットさせていけると思っています(ウェルトン)」

 余談だが、先制点をアシストした岸本は1週間前に非公開で戦った練習試合でハットトリックを達成していたと聞く。ただし、その勢いを追い風にするというよりは、逆に危機感を募らせて磐田戦に臨んでいた。

「大学生相手だったのと、ハットトリックと言ってもどちらかというとまぐれのシュートが多かったので、自信になったとかはぜんぜんないです(笑)。どれもバチンと決まったというより、チョロチョロって入った感じで運が良かったんだと思います。僕としては、ここで(運を)使っちゃうなよ、って自分につっこんでいました(笑)。プレシーズンマッチから続けて先発で出してもらっている中では、そろそろ明確な数字を残さないと、という危機感もあるので、磐田戦はそこもめちゃめちゃ意識して臨みます(岸本)」

 であればこそ、初めての『1』を喜んだ。

「どんな形でもゴールにつながったのは嬉しいです。この試合に限らず、前線から圧力をかけてボールを奪えたらチャンスになるということは意識していたし、狙っていました。やっと1がつきました。今年はまず10ポイントが目標なので、とりあえずあと9、頑張ります(岸本)」

3試合連続の先発出場に「目に見えた数字を残さなければいけない」という危機感のもとで臨んだ岸本。 写真提供/ガンバ大阪
3試合連続の先発出場に「目に見えた数字を残さなければいけない」という危機感のもとで臨んだ岸本。 写真提供/ガンバ大阪

■チームとして徹底された攻守の切り替え。気の緩みなく、次へ。

 そして、宇佐美だ。自身としては3戦連発、プラスこの日はアシストでも貢献したが、本人は「チームが勝てたのが全て。みんなでボールを奪ったところから生まれたゴールなので、チームのおかげです」と涼しい顔だったが、キレの良さはピッチで躍動する姿を見れば明らかだ。

 特に目を惹くのがゴール前での質もさることながら、守備での貢献だろう。もちろん、本人の言葉にもある通り、彼だけが前線からの守備や攻守の切り替えを意識しているわけではなく、チームとしてのそれが徹底されている中で、宇佐美も自身の役割をきっちりと果たしているに過ぎない。トップ下を預かる山田康太の圧巻の運動量に助けられている部分も多い。だが最後尾からチーム全体を見渡す一森は「一番前のFWがあのプレーをするチームは間違いなく強くなる」と語気を強める。

「プレシーズンマッチのサンフレッチェ広島戦でもイッサム(ジェバリ)が最後、仕掛けてカウンターを受けた際に、貴史が一番前からグワ〜っとものすごい勢いで追いかけてくれたし、2節・新潟戦の前半でも貴史が最終ラインまで戻ってきて守備をしてくれた。貴史のミスではなかったとはいえ、ああやって一番前の選手が(プレスがかからなかった時に)責任を持って追いかけてきてくれて、守備をしてくれるというのは、強い思いがないとできないプレー。今シーズンの彼には同じピッチに立っていても特別な覚悟を毎試合のように感じているし、ああいうプレーを見て自分自身もやらなきゃ、という気持ちにさせられている。フィールドの選手もその姿に引っ張られていることは多いはずです(一森)」

 そんな宇佐美は、試合後、ガンバクラップの先頭に立つ役目をこの日、初先発となったウェルトンとダワンに譲るという『アシスト』も。試合後、二人も「特別な時間になった」と表情を緩めた。

「僕自身はこれまでも何度かやらせてもらったことがありますが、ウェルトンにとってはあんなふうにサポーターの皆さんと喜びを分かち合うのは初めてだったと思うので、僕ら二人にとってはすごく特別な時間でした。そのチャンスをもらえたことも嬉しかったし、サポーターの皆さんの喜ぶ顔を見ることができて僕たちも幸せな気持ちになりました(ダワン)」

「サポーターの皆さんがフェスタのような、素晴らしい雰囲気を作ってくれた。今日の試合に勝てたのも彼らのおかげ。これからもみんなでこういう楽しい雰囲気をたくさん作っていけたらいいなと思います(ウェルトン)」

試合後、ガンバクラップの先頭に立ったダワン(右)とウェルトン。サポーターとの特別な瞬間を喜んだ。 写真提供/ガンバ大阪
試合後、ガンバクラップの先頭に立ったダワン(右)とウェルトン。サポーターとの特別な瞬間を喜んだ。 写真提供/ガンバ大阪

 そういえば、3節・横浜F・マリノス戦が延期になったことを受け、この2週間のインターバルでは、選手全員での食事会を実施し、改めて結束を強めたと聞く。いや、正確には「誰かが音頭をとってやろうとなったというより、なんかみんなで行きたいねって盛り上がったところから外国籍選手も含めて全員で食べに行ったって感じ」だとキャプテン、宇佐美。そうした空気感が自然発生的に生まれているのもチームの雰囲気の良さを示すものだと言えるだろう。何より、ケガ人等々が出るアクシデントはありながらも、目の前の1試合に気持ちを注ぎ、『チーム』としての戦い、やるべきことを全員でしっかりと共有しながら公式戦の中で表現できる時間が増えていることも。

 これでリーグ戦は3戦負けなし。この勢いのままに、ガンバは2週間後、5節・広島戦に臨む。先も、順位も見ない。「チームも、個人もいい状態というのは一瞬の気の緩みで崩れることはわかっている(宇佐美)」からこそ、今はただ目の前の1試合に向けて全てを注いで準備をし、勝利を目指す。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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