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ヘンク移籍から2ヶ月余り。伊東純也は瞬く間にサポーターの人気者に

中田徹サッカーライター

■ 守備能力の高さも伊東の武器

 4月14日、ベルギーリーグ1位のヘンクは2位クラブ・ブルージュとの首位攻防戦を3−1で制し、勝ち点差を4に広げた。後半、勝ち越しゴールにつながったPKは、かなり微妙な判定だったが、それでも両チームの監督が「試合内容を鑑みても、ヘンクの勝利は妥当なものだった」と認めたほど、攻守に渡ってヘンクが相手を凌駕した。

 

 2月上旬、ヘンクに電撃移籍した伊東純也は3月に入ってから右ウイングのレギュラーポジションを掴み取り、早くもベルギー国内で大きな注目を集める選手になっている。爆発力、テクニック、ゴールへ最短距離で突き進む勢い、サイドからのクロスといったウインガーとしての能力に加えて、相手DFへのプレス、相手ボールを絡め取る技術といった守備能力も現地で高く評価されている。クラブ・ブルージュ戦は、彼の良さが惜しみなく発揮されたゲームだった。

 3バックシステムを採用するクラブ・ブルージュの左CBデンスウィルを消せ――。フィリップ・クレマン監督から伊東が与えられたタスクは明確だった。デンスウィルは、クラブ・ブルージュのビルドアップのキーマンの一人である。そのデンスウィルに対し、伊東は途切れること無くプレッシングをかけ続け、とりわけ得意の左足でパスを出させまいとした。伊東の気配を感じたデンスウィルが慌てるシーンが幾度もあった。

「自分の速さが生きた。相手が嫌がるように執拗にプレッシャーをかけました」(試合直後の伊東)

 13分、ヘンクは左ウインガーのトロサールが、デンスウィルのフィードをインターセプトして、そのままミドルシュートを撃って先制したが、この際もしっかり伊東がデンスウィルに苦手の右足でパスを蹴らせていた。

 ベルギー人も、トロサールの先制ゴールの影に伊東の労力があったことを理解している。この日のベルギーリーグ・ダイジェスト番組では、伊東の動きに◯で印を付け、このプレッシングによってトロサールがパスをカットしたと分析していた。

■ 「忍者・伊東」

 攻撃面での伊東の貢献も光った。80分にはデンスウィルの裏を突いて縦に突破し、柔らかな球筋のクロスをファーサイドに入れて、サマタのヘディングゴールをアシストした。これで3−1。

「得意な形でした。アリ(サマタ)が良いところにいたので、ピンポイントで合わせられると思った。結構、いいボールが行きましたね」

 伊東の運動量はその後も衰えず、アディショナルタイムに入ってもプレッシングをかけ続けた。

 ヘンクは昔、炭鉱の街だったから、サポーターはハードワーカーが大好きだ。最後まで手を抜かずプレスをかけた伊東に、ゴール裏から「イトー! イトー!」の大声援が起こった。タイムアップの笛が鳴ると、一瞬、ガッツポーズを作ってから伊東はピッチに倒れ込んでしまった。

「めちゃくちゃ疲れてましたけど、やっぱり勝ちたかったので最後まで足を止めずにプレスに行こうと思ってました。相手の3バックに対してうちのFW3人でしっかりプレッシャーに行けていた。そこで相手に自由を与えなかったのが大きかったと思います」

 最近、ベルギーメディアがしばしば使うのが“ニンジャ・イトー”というフレーズだ。Junya ItoにNinjaとブラジル風の名前をかけて“Ju-ninja Itornado” という苦しい新語も先週、ベルギーのスポーツ誌で生まれている。

 クラブ・ブルージュ戦の伊東に対して、地方紙「ヘット・べラング・ファン・リンブルフ」は採点8を与え、「伊東とのデュエルに負け続けたデンスウィルにとっては悪夢。伊東はサマタへのゴールをアシスト。ファンの人気者」と寸評した。全国紙「ヘット・ニーウスブラット」も伊東に採点8を付けた上、週間ベスト11に選出した。ますます伊東への注目がベルギーで高まりそうだ。

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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