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金正日に「皆殺し」にされた北朝鮮軍120人の壮絶な最期

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正日氏(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮では時に、酒に酔ったうえでの乱闘騒ぎが大事件に発展することがある。今年8月には爆風軍団(特殊部隊)と国境警備隊の乱闘で死傷者が出る事態となった。昨年3月には軍の将校と大学生のグループが乱闘になり、一部の将校が禁固や降格という重い処分を受けた。

しかし、これぐらいなら序の口である。北朝鮮でかつて、軍のある中隊が酒に酔って起こしたトラブルが、流血の惨劇に発展したエピソードを、脱北者で韓国紙・東亜日報の記者であるチュ・ソンハ氏が、自身のブログで明かしている。

北朝鮮は1986年から、東部の江原道(カンウォンド)の電力需要を一手に賄う大規模水力発電所「金剛山(クムガンサン)発電所」建設の一大プロジェクトを推進した。完工は2002年とされているが、チュ氏によればその後もしばらくは工事が続いたようだ。現在、同発電所は安辺(アンビョン)青年発電所に改称されている。

同発電所の建設現場では、事故により数百人、あるいは千人単位の死者が出たとされている。資材と技術の不足で難工事の連続となる中、北朝鮮当局が取りうる手段は人海戦術だけだったことも、犠牲者数の増大につながったものと見られる。

チュ氏によると、そのような状況の中で当局は同発電所建設の専門部隊を編成した。そして2005年、咸鏡南道(ハムギョンナムド)を管轄する朝鮮人民軍第7軍団傘下のある中隊も、そこに組み込まれることになった。

発電所の現場がどのようなものであるかは、もちろん兵士たちも知っている。事故も怖いが、生活環境も劣悪だ。食糧配給が滞り、仕方なく食べ物を盗もうと考えても、辺りには民家すらない。文字通り地獄である。

中隊の兵士たちは荒れた。工事現場への出発に先立ち、売れそうな持ち物はすべて市場で売り、食べ物と酒を買い込んで列車に乗った。中隊120人が乗った列車では酒盛りが続き、酔っ払いが大声で騒ぎ立てたようだ。

そこに、2人の警務隊員が見回りがやってきた。警務隊はいわば憲兵で、有力者の息子たちが多く配置されているという。チュ氏によれば、彼らは非常に生意気で、一般の将校に対してすら威張り散らすという。

しかし、このときの相手は酔っぱらった兵士120人である。日頃の警務隊への不満もあり、すぐに口論になった。警務隊が中隊長に詰め寄ると、兵士たちは「階級も下の若造が、中隊長に対して生意気に」と激高し、警務隊員たちに集団暴行を加えた。ほかの車両にいた警務隊員や保安員(警察官)が駆け付けたが、兵士たちは車両のドアを封鎖し、2人に暴行を加え続けた、2人とも内蔵破裂で死んでしまったという。

この情報は即時、軍の最高司令部に上げられた。最高司令官は金正日総書記である。そして最高司令部の命令を受け、列車は次の駅を通過。ある谷間で停止し、中隊が乗った車両を切り離して走り去った。

孤立した車両は、待ち伏せしていた1個大隊の一斉射撃を受けて瞬く間にハチの巣にされた。待ち伏せ部隊は続いて車両に入り、命乞いをする生き残りにとどめを刺したという。中隊の全員が、暴行に加わったわけでもないのにである。

その後、軍総政治局と人民武力部検察局が現場の収拾にあたり、噂の拡散を防いだ。しかしその一方、「最高司令官の命令に服従する者はは死んで当然だ」との宣伝も行ったという。

北朝鮮で、裁判もなしに見せしめの公開処刑が行われた例はいくらでもあるが、一度に120人が射殺された例を、筆者は他に知らない。

(参考記事:女性芸能人らを「失禁」させた金正恩の残酷ショー

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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