全く売れなかった”赤い粉”が、真夏にバカ売れ 子ども向け新商品でロングセラーに
夏休みといえば、プールや花火大会など楽しいイベントが目白押し。しかし忘れてはならないのが、学校から出される宿題の数々です。中でも自由研究は手間がかかる分、毎年のように親子で頭を悩ませているご家庭も多いのではないでしょうか。そんな夏休みあるあるに着目し、自由研究キットで新たなビジネスを開拓した企業がトリイ株式会社です。ヒットメーカーになるまでの軌跡をご紹介します。
染料を使った新しいビジネスを模索
昭和23年、愛知県一色町(現 西尾市)で、業務用薬品を取り扱う卸売り業者として創業したトリイ株式会社。愛知県は古くから繊維業が盛んということで、染料をはじめ、工場で使う化学薬品、漁業に必要な消毒液などを長年に渡って企業に卸してきました。しかしバブル崩壊やリーマンショックの影響から売上が減少。苦しい現状をなんとか打開したいと、オカビズへ相談にお越しになり、初めてお会いしました。
当初、トリイ株式会社が考えていたのは、染料をお花屋さんに売れないかということでした。赤い染料を溶いた水に白いバラを生けておくと、茎が水を吸い上げて1~2時間で赤いバラに変化する。この仕組みを利用して何か面白いビジネスができないかと考えたのです。しかし今は青いバラさえ存在する時代。色が変わるだけでは驚きに欠け、そもそもはじめから赤いバラを売れば良いのでは?という話になり、10軒以上も営業をかけたそうですが、まったく相手にされなかったといいます。
ターゲットを的確に絞り、使い道までしっかり提案
物を売るには、商品の特徴を捉えた上で、ニーズにマッチングさせることがポイントです。
より具体的に考えるならば、ターゲットや利用シーンを明確にすることが大切なのです。反応が良くなかったということは、この2つに問題がありそうだということ。
まずはその辺りから見直してみることにしました。私がバラの話を聞いて思い出したのが、小学校で受けた理科の授業。
水が植物の道管や葉脈を通って、やがて蒸散するのを学ぶため、確か色水を使っていたことを思い出したのです。そして、これはもしかしたら自由研究で使えるかもしれないとひらめきました。
毎年夏休みが近づくと、本屋さんには決まって自由研究キットがずらりと並び、研究テーマをお探しの親子がこぞって買い求めていきます。この光景にこそ需要があるに違いないと信じ、ターゲットは「小学生」、利用シーンは「夏休みの自由研究」にしてみることを提案。
さっそく実際の小学校高学年向けテキストを参考に、自由研究キットの生産にとりかかってもらいました。キットには、植物を染めて茎や葉脈などの実態を確かめるのに必要な染料を封入。また、観察まとめノートや書き方まで添えることで、自由研究として提出しやすいよう工夫しました。
こうして生まれたのが、「1日でできる切り花染色実験キット」です。これまで小売りは未経験、ノウハウにも投資余力にも限りがあるということで、出店費用がかからないYahoo!ショッピングでオンライン販売してみたところ、狙い通り大反響。新しいビジネスが成功した瞬間でした。
地方の小さな会社でも、大手企業とだって取引できる
ネットショップで好評を博し、夏のあいだ売りに売れた自由研究キット。その様子を密かにチェックしていた企業がありました。おもしろい企画なのでぜひ商品化したいと声がかかって大量受注が決まり、商品化したのは大手出版社、学研です。
およそ10人の従業員で手作りしていた自由研究キットは、一気に全国で大々的に売り出されることが決定。販売からわずか1年で、約1万キットを売り上げるヒット商品となりました。
2年目は、手作り感たっぷりだったパッケージをもう少しお洒落に作り込んで販売してみることに。するとアマゾンの売り上げランキングで1位を獲得。
さらに東急ハンズからもオファーがかかって、新宿や博多など全国各地の売り場に置いてもらえるようになりました。
売り上げは前期からなんと120%アップ。販売スタートから10年近く経つ今でも、夏の定番商品として売れ続けています。
他社にない着眼点で活路を開く
水に溶ける染料というのは、特に珍しいものではありません。どこの問屋でも扱っているありきたりな材料です。もともと卸売り業者であるトリイ株式会社にとっても、染料は10キロ単位で大量に安く卸しているものでした。自由研究キットに使われる染料は3色でもほんの数グラムなので、かかる経費はごくわずか。売上あたりの利益率も大きく改善しました。どこにでもある材料でも、他の企業が気づかなかった点に注目したことで、これまでになかった使い道が見つかり、新たな顧客を生み出すことができました。ネットショップで積極的に情報を発信することで、学研の目に留まって大量受注につながり、アマゾンや東急ハンズなど新しい販路を開拓することもできました。地方の小さな企業でも、ひらめきと工夫でビジネスの流れを変えることができるのです。