補正予算が成立。使って減った予備費を積み増しする補正予算の思惑に迫る
5月31日に、2022年度補正予算が参議院本会議で可決、成立する運びとなった。
年度が4月に始まって、たった2か月という早い時期に、補正予算を組むというのは、珍しい。
岸田文雄首相は、今年7月にも予定されている参議院選挙の前に、物価高騰対策のために、当初予算に計上されている予備費で対処しようと考えていたようである。補正予算を組むとしても、それは参議院選挙後に行おうとしていた。
予備費とは、予見し難い予算の不足に充てるための経費で、予算成立後において歳出に計上された既定経費が足りなくなったり、新たに経費が必要となった場合、その不足に充てるため、内閣の責任において支出できるものである。国会で予算案が議決される際には、あらかじめ使途を定めないで、内閣がその都度判断して使い道を決めて支出することが許されている。ただし、何に使ったかは、国会に事後報告しなければならないとされている。
2022年度当初予算には、5兆円もの新型コロナウイルス感染症対策予備費が計上されていた。その中から、物価高騰対策のために支出しようと検討していた。
ところが、公明党から、参議院選挙前の物価高騰対策は、補正予算を組んで大規模に行うべきだとの声が上がった。そして、政府与党で調整した結果、補正予算を組んで臨むことになった。
今年に入り、ガソリン価格が上がり始めていたから、3月までの当初予算の審議中にも対策を考えようと思えば考えられた。しかしこの期間に当初予算を修正するなどの対応をしなかった。
2022年度予算政府案は、2021年12月24日に閣議決定していて、今年1月には内閣から国会に提出された。通常国会での審議中に、内閣が予算案を修正するということは、予算案の見積もりが甘かったことを内閣が認めてしまうことになり、統治能力が疑われる事態に陥る。だから、内閣は面子にかけても通常は国会提出後に予算案を修正しない。
事実、自由民主党が保守合同して結党した後の「55年体制」と呼ばれる時期以降では、国会議員の提案による予算修正は、1996年の1回しかない。
2020年度も、1月下旬に新型コロナウイルスの感染拡大が発覚したが、既に当初予算案が国会に提出されていて、当時の安倍晋三内閣も、新型コロナ対策が盛り込まれていないその予算案を修正せずに、ひとまず国会で可決成立させた。
その後、2020年度第1次補正予算を直ちに編成し提出して、4月30日には可決成立させた。4月とか5月というこの時期の補正予算は、2020年度とか東日本大震災直後の2011年度とか、稀である。
2022年度の予備費
2022年度当初予算では、新型コロナウイルス感染症対策予備費が5兆円、一般の予備費(使途を限定しない予備費)が5000億円計上された。
岸田内閣が、2022年度補正予算政府案を、5月17日に閣議決定するまでに、2022年度が始まってわずか1か月ほどの間に、これらの予備費のうち、新型コロナウイルス感染症対策予備費を1兆1170億円、一般の予備費を3945億円支出することにした。新型コロナ対策や物価高騰対策などのために使った。
ところが、物価高騰は当面続くとみられ、この調子で予備費が支出されてゆくと、年度途中で予備費が底をつきかねない。
そこで、2022年度補正予算では、一般の予備費を4000億円積み増すことにした。加えて、新型コロナウイルス感染症対策予備費は、名目を物価高騰対策にも拡大すべく、新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費と名を変えて、1兆1200億円積み増すことにした。
補正予算成立後の予備費は、新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費が5兆0030億円に、一般の予備費は5055億円になる。積み増したことによって、ほぼ当初予算と同額の水準に戻ることになる。
なぜこんなに予備費を積み増したのか。そこに、予備費を今後どう使おうとしているかという思惑が見え隠れする。それは、
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