飢えた人々の「危険行為」を見ているだけの北朝鮮警察
コロナ禍と、それを抑え込むための鎖国という極端なゼロコロナ政策で、北朝鮮国民の生活は非常に厳しい状態が続いている。救荒作物であるトウモロコシが大量に出回るようになり、幾分改善したようだが、国民の多くが現金収入を得る場となっている市場に対する締め付けが厳しく、ギリギリの生活を続けている人も少なくないようだ。
そんな中で、凶悪犯罪が多発している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、今月8日の夜、定州(チョンジュ)市内で帰宅途中だった男性が強盗に襲われた。携帯電話を奪われそうになったため抵抗したところ、腹部を刺された。幸いにして、通りかかった人に助けられ、すぐに病院に運ばれたおかげで一命はとりとめた。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
翌日、定州農業単科大学の学生が、安全部(警察署)を訪れて自分が犯人だと自首した。取り調べでこの学生は、寮で暮らしていたが、空腹に耐えかねて食べ物欲しさに強盗に及んだと自供した。
近郊の石山里(ソクサンリ)では今年4月、農場で働いた男性が、夜道を歩いていた高級中学生(高校生)の脚を刃物で刺し、喉元に突きつけて、上着を奪う事件が発生した。このように市内では今年に入ってから強盗が3件も起きているが、安全部はこれといった防犯対策を立てられずにいる。
安全部は、上述のような市場での取り締まりには非常に積極的であるが、防犯対策には極めて無能で、やることと言えば、捕まえた犯人を公開裁判にかけて見せしめにすることくらい。だからといって、安全員(警察官)を増やせばいいという話でもない。なにかにつけて市民からワイロを取り立てる、別の意味での悪党が増えるだけだからだ。
一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、鏡城(キョンソン)から清津(チョンジン)に向かう峠道で、正体不明の男に女性が殴られ、携帯電話と自転車を奪われる事件が発生した。発生日時は不明だ。安全部と分駐所(交番)は、人民班(町内会)の会議で対策を立てると発表したものの、同様の犯罪が減るどころかむしろ増えている。強盗に遭ったという話がしばしば広がり、住民は不安な日々を過ごしている。
他の地域では、何らかの薬品を使われ、寝ている間に家財道具が盗まれるという事件も起きるなど、犯罪の急増に歯止めがかからない状況だ。
一番の防犯対策とは何か。それは全般的な政策を、コロナ前のものに戻すことだ。皆が自由に商売や貿易ができて、現金収入と食糧が得られる状況に戻すことだが、北朝鮮は、コロナ禍をきっかけに、北朝鮮の1980年代以前のような、計画経済、配給システムを中心とした社会体制に戻そうという、全く逆の道を行っている。