「PGAツアーの名は、PGAツアーのままだ」 PGAツアーとリブゴルフ、統合合意の内幕が明かされた!
世界のゴルフ界を驚かせたPGAツアーとリブゴルフの統合合意。その交渉の内幕の一部が、水面下で交渉役を務めた本人によって明かされ、米スポーツイラストレイテッドが報じた。橋渡しと交渉を行なったのは、PGAツアーの理事の1人、ジミー・ダンだった。
ダン氏がアクションを起こしたのは今年の4月18日。前向きな歩み寄りが必要だと考えたダンは、リブゴルフを経済的に支援しているサウジアラビアの政府系ファンド「PIF」のヤセル・ルマイヤン会長に「直接、話したい。できれば、会いたい」というメッセージを送った。
すると、ルマイヤン会長からも、すぐに前向きな返事が得られ、4月下旬、ダンは英国へ飛び、ルマイヤン会長と会った。食事やゴルフをともにしながら、2人はざっくばらんにお互いの思いや胸の内を話したそうだ。
ダン氏いわく、「PIFがPGAツアーを買収したという見方は、まったく事実に反する」と一笑に付した。
「PGAツアーのオフィシャルは、リブゴルフを過小評価していた。選手により大きなパワーを与え、チーム戦を活発化し、54ホールのショットガン・スタートで賑やかに行うゴルフは、“ゴルフ、より賑やかに”というリブゴルフのモットーそのものだ」
そう感じたダン氏は「彼らが何をしたいか、何をしようとしているかを理解する必要がある。お互いを結ぶ架け橋は、あるはずだ」とモナハン会長を説得。交渉の相手をリブゴルフのグレッグ・ノーマンCEOではなく、ルマイヤン会長にしたのは、リブゴルフの経済的バックボーンがノーマンCEOではなくPIFだからだそうだ。
交渉のテーブルにつくことに成功したダン氏は、ルマイヤン会長とPIFに、さまざまな条件を提示した上で統合の可能性を伺ったという。
条件は多岐に亘っていたが、主なところでは、
・PGAツアーはPGAツアーという名称のままとする
・PGAツアーのジェイ・モナハン会長がリブゴルフを統括する権限を持つ
・PGAツアーとDPワールドツアーのパートナーシップは、そのまま維持する
・リブゴルフの位置づけは2023年の年末に検討する
・モナハン会長はリブゴルフを解散させることもできるが、その場合はリブゴルフ選手をPGAツアーとDPワールドツアーへ復帰させる手立てを検討し、実行する
・PIFはPGAツアーに対して具体的な指示や介入は行なわず、経済的な介入のみにとどめる
・これから生まれる新たな組織に対し、PIFのみが投資を行なう
・現在、提訴・係争中の双方の裁判は、すべて訴状を取り下げる
5月中旬、ダンは今度はモナハン会長を伴ってイタリアへ飛び、再びルマイヤン会長と会合。提示した条件は大方受け入れられ、交渉は進行していったそうだ。
ダン氏いわく、「ルマイヤン会長率いるPIFはリブゴルフに10億ドルを投資している。しかし、ルマイヤン会長とPIFの願いは、ゴルフ界の主要な部分に自分たちがいたい、なりたいというものであって、リブゴルフ創設は、そのための1つの手段だそうだ。われわれPGAツアーは世界のゴルフ界を凌駕するツアーになることだ」。
思いは同じであることを確認できたからこそ、PGAツアーとPIFは手を結ぶことを決めたのだそうだ。
ただし、PIFの役割は、あくまでも新組織にお金を出すだけにとどめ、口は出さない。
「だが、PIFは単なる出資者ではない。PGAツアーの大切なパートナーになったのだ」と、ダン氏は強調している。
今後はモナハン会長がリブゴルフを指揮する権限を持ち、ノーマンCEOの役割は「実質的には無くなった」と見られる。
リブゴルフ選手たちをPGAツアーへ戻すことは現実となる可能性がきわめて高くなったが、どうやって戻すのか、それを決めるのもモナハン会長ということになる。
考えられる可能性としては、たとえば「高額な罰金を払った上で戻す」「PIP(プレーヤー・インパクト・プログラム)のボーナスをリブゴルフ選手は10年間、対象外とし、PGAツアーに留まっていた選手だけが向こう10年間はPIPのボーナスを独占的に受け取れる」といった案が浮上しているという。
課題は山積しているが、ともあれ、統合合意に至るまでの4月からの「7週間」の内幕の一部がわかったことで、ほんの少しだけ霧が晴れた。