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「車上生活者には、住まいを紹介してもらえないのか?」困窮者の相談を2度断った東京都の窓口対応

池上正樹心と街を追うジャーナリスト
男性は道の駅などに車を停めて、仕事を探す日々(写真と本文は関係ありません)(写真:アフロ)

「車上生活者には、住まいを紹介してもらえないのか?」

 東京都内の「道の駅」などに駐車した車の中で生活する男性(45歳)は、新型コロナウイルスの緊急事態宣言により、住居が不安定な人に一時的な住居などをサポートしている都の「TOKYOチャレンジネット」の対応に、怒り心頭に発した。

 コロナによる雇用環境の悪化と「道の駅」の休業などで、住まいのない車上生活者たちも、行き場を失っている。

 山梨県で生まれた男性は元々、発達障害の特性を持っていたこともあって、人とのコミュニケーションが苦手だった。地元で頑張って正社員になったものの、過労やパワハラが原因で仕事を辞め、実家にひきこもった。しかし、父親や兄弟との折り合いが悪く、唯一の味方だった母親が認知症になったのをきっかけに母の介護を4年ほど続けた末、家を追い出された。

 帰る家を失った男性が、その頃の車上生活ブームの影響を受け、貴重な所持金で車を買って都内で寝泊りを始めたのは、2019年10月頃のこと。「道の駅」などで一夜を明かし、求人誌やネットなどでやっと見つけた仕事も、就労しては辞めさせられるという繰り返しで、職を転々とした。

 男性は、求人の面接にたどり着いても、「住民票が都内にない」「性格が優しすぎる」などの理由で落とされ続けたという。最後に働いたのは、今年3月中旬の派遣の仕事。その後、コロナによって求人が激減し、男性の生活はますます困窮した。

 政府が国会に提出した、10万円の一律給付などの緊急経済対策を盛り込んだ補正予算案は、4月30日には成立する見通しだ。ただ、受給権者は世帯主のため、男性が都内に住居を確保するか世帯分離をして早く役所に申請しなければ、実家に帰って頭を下げない限り、受け取れないことになる。

「道の駅など生活されている自治体の窓口に行かれるのがよい」

 <がんばるしかない。でも住む家がない!!そんなあなたを応援します。>

 そんな「TOKYOチャレンジネット」のキャッチコピーを見た男性は、都がネットカフェの閉鎖などで住まいを失った人に対し、一時的にビジネスホテルやアパートなどを紹介していることを知り、4月13日と23日の2度にわたり、新宿区歌舞伎町にある事務所を訪ねた。しかし、職員から「車がある人は利用できない」「実家に帰って、親や兄弟、親戚に相談したら?」などと言われ、追い返されたという。

「“あなたは山梨県に住所があるから、地元の役場に行って相談してください”と言われました。訳あって家を出されたと話したら、“車を持ってるから、うちには該当しません”“実家に戻って家族に相談しなさい”。最後は“長野に行って、住み込みで農業やってください”って勧めるので、理由を聞いたら“外国人労働者が帰っちゃった”からと。東京チャレンジなのに、なぜ長野に派遣されて農業なのか。悔しかった」

 都のホームページによれば、同ネットでサポートを受けられる対象は、「都内に生活していて住居がない人」と記されている。今回のコロナの緊急事態宣言を受け、「東京都内に直近6か月以上継続して生活していること」という支援の要件も緩和されていた。

 なぜ男性は追い返されたのか。支援の要件を確認するため、筆者は同ネットに問い合わせてみた。

「車があるからということではなく、本人が車を処分するか駐車場を借りることと、仕事していて収入があることが前提になります。仕事がなく、住まいもなく、車上で生活している状況が(以前、相談に来たときと)変わらなければ、こちらの支援の対象にはなりません」

――仕事していないと、利用できないということですか?

「それが大前提です」

――住所がないとますます雇用が厳しいのに、住居がない人の支援ではなかったのですか?

「ネットカフェやマンガ喫茶にいても、都内で仕事している方が前提になります」

――就労を目指してる人は含まれないのですか?

「今まで働いてたけど解雇されて、仕事を探してる方ですね。まったく仕事のない方とは違います」

――その仕事の有無は、どのくらいの期間の話ですか?

「そういう抽象論ではなくて、その方が正確に、どういう事情を話したかです」

――仕事を探したいと思っていて、困ってる状況は変わらないのではないですか?道の駅も休業になり、行くところがなくなって命の危機にもつながります

「ここは東京都の窓口ですから、お困りになってる方がいるのなら、道の駅などの生活されている自治体の相談窓口に行かれるのがよろしいと思います」

――そういう言い方をされると、本人は追い返されたと受け止めます

「追い返すのではなく、こちらの支援の対象とは違うという意味です」

――実家に帰って家族に相談したらとか、長野で住み込みの農業の紹介もしているのですか?

「そんなことは、ありません」

 男性は、発達障害の特性を抱えながら、地方の実家に帰れないから、こういう車上生活を強いられている。都は「住む家がない、あなたを応援します」とうたいながら、想像力も共感力もなく、やっと相談にたどり着いた困窮者への対応とは思えない。いったい、ここは何のために開設した相談窓口なのかと、疑問に感じた。

 担当職員は、相談者から直接の連絡を欲しがっていたので、本人の意志を確認するため、筆者の名前と職業を明かし、一旦、電話を切った。

 男性に確認したところ、「自分は発達持ちだから、一方的に支援者から言われると、断り切れない。突っ込まれると、しどろもどろになる」と話す。

 それでも本人は相談を望んでいたので、同ネットに再び電話すると、先ほどの職員が代わってくれた。

――本人にとって、住まいの確保は最優先で大事なのではないか

「おっしゃる通りです」

――車は切り離して頂いて、住まいの紹介を何とかしていただけないか。車の扱いはそれから考えればいいのではないか

「本人が駐車場を借りたり、別のところで知人に預けたりして、チャレンジの支援に乗りたいというご相談が可能なら、別だと思います。お仕事していただく前提で3か月間、無料の支援住宅を提供して、3か月間で貯蓄し、アパートを借りて頂くケースに乗っていただくことが大事です」

――男性のように発達障害の特性を持っている人には配慮も必要です

「おっしゃることはわかります」

――今、不安に思っているので、本人の適性に合った仕事をじっくり探すことと、不安を解消するための住まいが大事です

「そう思います」

 先ほどとは打って変わって、受け答えのトーンがとても丁寧に感じられた。

 男性は、筆者が予約を申し込んだ30日に、3度目の相談に行く予定だ。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。約30年前にわたって「ひきこもり」関係の取材を続けている。兄弟姉妹オンライン支部長。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」設立メンバー。岐阜市ひきこもり支援連携会議座長、江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等。著書『ルポ「8050問題」』『ルポひきこもり未満』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』等多数。『ひきこもり先生』や『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

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