【#BlackLivesMatter】英歴史学者が「いまいましい黒人」発言で失職、本の出版も中止へ
米国で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行によって亡くなったことをきっかけに、世界中で反人種差別運動「Black Lives Matter(黒人の命も重要だ=BLM)」が広がっている。
英国でもBLM運動が高まりを見せ、人種差別的な言動、銅像、標識、通りの名称などを見直す動きが出ている。
こうした中、チューダー朝の政治についての著作やドキュメンタリーで人気を博した、保守系学者のデービッド・スターキー教授が問題発言によって勤務先のケンブリッジ大学を辞任することになった。
「いまいましい黒人」と発言
問題発言があったのは、ユーチューブの番組「リーゾンド」(キャスター、ダレン・グライムズ氏)のやり取りの中だった。
スターキー氏は「奴隷制度はジェノサイド(集団虐殺)ではない」、もしそうだったら「これほど多くのいまいましい黒人がアフリカや英国にいるわけがない。相当の大人数が生き残ったんだ」。
BLMの抗議デモについては「暴力的」で、「被害者意識がある」。文化をないものとしたり、銅像を倒壊させたりするのは「頭がおかしい」。
「奴隷制度がその名を語ることをはばかるようなひどい病気とする考えについては」、「その名を語ることをはばかるのは、英国では200年近く前に奴隷制を廃止してしまったからだ」。
スターキー氏は故意に議論を掻き立てるような挑発的な発言で知られており、テレビ番組にパネリストの一人として頻繁に登場してきた。
その発言が問題視されたのは今回が初めてではない。
2011年、ロンドンで黒人青年が警察に射殺され、各地で抗議デモや暴動が発生したが、スターキー氏はBBCの時事解説番組「ニューズナイト」に出演した際に「白人が黒人化した」と評し、「破壊的な、ニヒリスティックなギャング文化」を非難した。BBCには700件の苦情が寄せられたという。
「人種差別主義者」という批判が続々と
「リーゾンド」の配信直後から、「スターキー氏は人種差別主義者」という批判が殺到した。
3日、勤務先の一つであるケンブリッジ大学のフィッツウィリアム・カレッジが「スターキー氏の辞任願いを受諾した」と発表した。
カンタベリー・クライスト・チャーチ大学も、同日、同氏の客員教授職を「直ちに打ち切った」と表明した。同大学のラマ・シルナマチャンドラン副学長は、スターキー氏の発言によって侮辱されたと感じた職員や学生に謝罪した。「あのような発言は容認できない」。
スターキー氏を客員教授とするバッキンガム大学は同氏の扱いを「見直し中」とし、「名誉卒業生」としているケント大学、ランカスター大学も見直しを検討中だ。
年内にスターキー氏の本を2冊出版予定だったハーパーコリンズ社は出版中止を発表。過去に同氏の本を出したことがあるホッダー・アンド・ストートン社は、今後同氏の本は出さないことを決めた。
博物館を運営する慈善組織メリー・ローズトラストは、理事の一人だったスターキー氏の辞任願いを受け取ったと発表した。
筆者は、以前からスターキー氏の発言(「暴言」といってもよい)に危うさを感じてきた。しかし、「ポリティカルコレクトネス(政治的公正、差別用語を使わないこと)」を時折逸脱しながらの持論には、真実のかけらが含まれているようにも思えた。
議論のタネを提供してくれるので、テレビ界で重宝されてきた歴史学者の一人だが、今回の発言は度を越している。BLM運動があっても、なくてもである。
職場を失い、本の出版を止められたスターキー氏。今後はどのように情報を発信していくのだろうか。