「安倍死すとも財政健全化は死せず」と言わなかったが、財政健全化目標は着実に達成へ
「板垣死すとも自由は死せず」
と、明治時代に自由民権運動を先導した板垣退助は、そう叫んだとされる。
7年8か月にわたる長期政権だった第2次以降の安倍晋三内閣において、国と地方の基礎的財政収支の黒字化目標を、達成年度は後ろ倒しとなるも目標自体は掲げ続けて決して下ろさなかった。そんな安倍元首相は、「安倍死すとも財政健全化は死せず」と言った記録は残っていないが、その目標は、安倍元首相亡き後も、着実に達成に向かっているといってよい。
7月29日に、内閣府が経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」の改訂版を公表した。
そこでは、高めの経済成長率を想定した成長実現ケースにおいても、2025年度には対GDP比でみて0.1%の赤字が残る、という試算結果が示されていた。
これでは、2025年度に基礎的財政収支の黒字化は達成できない、といわざるをえない。
それでも、2025年度に基礎的財政収支の黒字化の達成に向かっているといえるのはなぜか。
それは、この2022年7月の「中長期の経済財政に関する試算」(以下、2022年7月試算)を精査すると、実態が見えてくる。
この試算に織り込まれていないような、歳出削減や追加の増税を行えば、財政収支は改善する。しかし、それらを行うことで財政健全化目標が達成すると言いたいわけではない。
試算結果から逆算される2022年7月試算が示す試算想定が、一部で現実離れしており、それをより現実的なものに改めて試算し直すと、浮かび上がってくる。
注目点の1つは、税収弾性値である。税収弾性値とは、名目成長率が1%上がると税収が何%増えるか、を表す指標である。
経済学の根拠のある分析結果に基づけば、税収弾性値は1.1前後である。それを踏まえて、2022年7月試算を精査すると、2023年度以降の税収弾性値は
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