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のべ11チームを渡り歩いた苦労人トレイス・トンプソンが狙う兄クレイとの異種競技リーグ制覇

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
移籍後はユーティリティ外野手として活躍を見せたトレイス・トンプソン選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ドジャースでユーティリティ外野手として開花したトンプソン選手】

 今シーズン途中の6月20日、ドジャースがタイガースのマイナー組織に在籍していたトレイス・トンプソン選手をトレードで獲得した際、どれだけのファンが彼の活躍に期待していただろうか。

 シーズン開幕前にパドレスとマイナー契約を結び、招待選手としてメジャーキャンプに参加。シーズン開幕はマイナーリーグで迎えた後4月28日にメジャー昇格を果たしたものの、5月10日には40人枠から外され(いわゆる「DFA」)、ウェーバーがクリアになった後にFAとなり、同19日にタイガースとマイナー契約を結んでいたような選手だった。

 ところがドジャース移籍後はすぐにメジャーに配属されると、左翼を中心に中堅、右翼、DHで起用されるユーティリティ外野手としての立ち位置を確立。打撃成績も打率.268、13本塁打、39打点、OPS.901とキャリアベストの数字を残し、ドジャースの地区優勝に貢献している。

 出場試合数を見ても、トンプソン選手がチームに合流した時点で、ドジャースの残り試合は97だったが、そのうち74試合に出場を果たしており、ほぼ準レギュラー的な存在だったことが理解できる。

 もちろんポストシーズンでも、貴重な戦力として活躍が期待されている。

【のべ11チームを渡り歩いた31歳の苦労人】

 そんなトンプソン選手だが、実は2016年から2シーズンだけドジャースに在籍していた過去を持っている。当時もユーティリティ外野手として起用され、2016年には自身最多の80試合に出場を果たしていたが、明らかに打撃面(打率.225、13本塁打、32打点、OPS.730)に課題を抱えている状態だった。

 そして翌2017年は、シーズンのほとんどをマイナーリーグで過ごすことになり、出場試合数も27まで激減。2018年3月にDFAとなり、ウェーバー公示期間中にヤンキースが手を挙げたためドジャースを去っている。

 トンプソン選手は元々、2009年にホワイトソックスからドラフト2巡目指名を受ける若手有望選手であり、6年間のマイナー生活を経て2015年8月4日にホワイトソックスでメジャーデビューを飾っている。

 その後2015年オフにドジャースにトレードされ、前述通り2018年にドジャースを去った以降は、ヤンキース(ウェーバーで獲得した後すぐにウェーバー公示されているため在籍期間はなし)→アスレチックス→ホワイトソックス→インディアンズ(現ガーディアンズ)→ダイヤモンドバックス→カブス→パドレス→タイガース→ドジャースと、最終的にのべ11チームを渡り歩いてきた苦労人だ。

 2018年以降から今シーズンドジャースにトレードされるまで、メジャーでの出場試合数は72に止まっており、メジャーとマイナーを往復するジャーニーマンという境遇を続けていた。

 なかなか安住の地を見出すことができない中で、ようやくドジャースで活躍の場を与えられるようになったわけだ。タイガースからトレードされた時点でマイナー契約だったので、現在の年俸は最低年俸額か、それに近い額だと予想され、来シーズンも問題なくドジャースに残れそうな状況にある。

 トンプソン選手のメジャー在籍期間を見てもドジャース時代が最も長いので、どうやらドジャースとの相性が相当にいいのかもしれない。

【兄はNBAウォリアーズの超人気選手】

 今シーズンを除けばそれほど目立った活躍をしてこなかったトンプソン選手だが、米国ではそれなりの知名度があるのをご存知だろうか。兄がとんでもない有名アスリートだからだ。

 兄の名は、クレイ・トンプソン選手。NBAウォリアーズでステフィン・カリー選手と黄金コンビを結成し、チームを4度のNBA王座に導いたリーグ屈指のスター選手だ。先日もウォリアーズの一員としてNBAジャパンゲームのため来日を果たしている(残念ながら試合には出場せず)。

 すでに兄はNBAの世界でリーグ王座を4度も獲得している一方で、弟のトンプソン選手は鳴かず飛ばずの状態だったが、そんな彼が兄に並ぶ好機を迎えようとしている。ドジャースの準レギュラー選手としてMLBの世界におけるリーグ王座、つまりワールドシリーズ制覇の可能性を有しているのだ。

 今シーズンのドジャースはリーグトップの111勝でポストシーズン進出を決めるとともに、1901年以降の近代野球において史上3位の得失点差(+334)を記録する圧倒的な実力差を見せつけてきた。

 もちろんトンプソン選手もその一翼を担ってきたし、ポストシーズンに入ってもドジャースは有力な優勝候補の1つに名を連ねている。

 これまでMLB界ではモリーナ兄弟(ベンジー、ホゼ、ヤディアーの3兄弟)、NBA界ではガソル兄弟(兄パウと弟マーク)などが、リーグ王座を獲得した兄弟として知られているが、あくまで同一リーグでの話だ。兄弟が別競技のリーグでそれぞれ王座に輝くというケースはあまり聞いたことがないし、何度かネット検索してみたのだが、見つけ出すことはできなかった。

 果たしてトンプソン選手は、NBAを制した兄に続き、MLBの世界でリーグ王座を獲得することができるだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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