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アニメ映画「スラムダンク」公開当日の検索人気は ビッグデータでは「呪術」「すずめ」上回る

河村鳴紘サブカル専門ライター
映画館に表示された「THE FIRST SLAM DUNK」のモニター=著者撮影

 9日間の興行収入が約30億円と好調のアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」(12月3日公開)。公開前は、声優発表のタイミングの遅さ、テレビアニメ版とは異なるCG表現に批判の声が目立っていましたが、公開後は一転して絶賛の声があふれているようです。そこでビッグデータを使い、同作の公開前後の動き、他の人気作と比べました。

 「スラムダンク」は、1990~96年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された井上雄彦さんのマンガです。赤髪の高校生・桜木花道がバスケットボール部に入部し、抜群の身体能力を生かすとともに、驚異的な早さで成長して活躍するストーリーです。アニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」のストーリーは、公開から10日以上が経過した現在(16日時点)もホームページに掲載されず、CMでも分からないようになっています。そのためか鑑賞した人々の多くは、ネタバレを自重しています。

 さて、同作に興味を持つ人たちはどう反応したのでしょうか。ヤフーの行動ビッグデータを元に、生活者の実態や動きを可視化するインターネットサービス「DS.INSIGHT」で、「スラムダンク」というワードを調べてみました。数値は、ヤフーで検索された実数ではなく日本国内の推計値(検索ボリューム)です。 

◇当日の検索 有力作ほぼ超える

 まず「スラムダンク」の公開日の検索ボリュームは、たった1日で約9万4000を稼ぎました。……といっても、すごさがピンとこないので、他作品と比べてみます。

 2020年10月16日に公開された「鬼滅の刃」(16万3000)には、さすがに及びませんでした。しかし「呪術廻戦」(8万2500)や、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(検索ワードは『エヴァ』8万1000)、「すずめの戸締まり」(7万6300)、「ONE PIECE FILM RED」(検索ワードは『ワンピース』、5万6000)を超えているのです。情報を伏せたため、プロモーションが控えめだったにもかかわらず、興収100億円超えの作品を上回るほどの反応だったのです。

 そして公開までの流れ、公開前後の動きもデータ的には理想でした。同作の制作が発表される前年(2019年)の検索ボリュームは年間30万強(ということは、1日あたりの平均1000弱)。連載を終えて基本的に動きのないコンテンツなのに、ここまで検索されること自体が驚異的ですが、最初にアニメ映画を発表した日(2021年1月7日)だけで検索ボリュームは約4万5000でした。

 そして声優発表の日(2022年11月4日)は約3万1000。公開直前の12月1日は約1万2000、12月2日は約1万9000。公開日にピークに達した後も、12月4日は5万1000でした。検索されたワードは「内容」が圧倒的で、まさにストーリーを伏せたことでファンの興味をかきたてた……ということになります。

 うまくいかなければ、興味を失う可能性もあったわけですが、もともとの知名度の高さを巧みに利用したことをデータは示しています。

◇スラムダンクは「年輩向け」

 続いて男女比と、年代tの違いにも触れます。「スラムダンク」のワードを検索した人たちの男女比は6対4で、30歳代と40歳代で約7割といったところ。有力アニメ映画で似た傾向にあるのは、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でした。「エヴァ」は、男性比が65%で、30歳代と40歳代で6割弱。意外かもしれませんが、エヴァの方が20歳代のファンが多いのです。

 他のアニメ映画と比較しても、スラムダンクは30歳代と40歳代に突出して強いことが浮かび上がるのです。1996年の連載終了時に小学生高学年から高校生(10~18歳)であれば、2022年の時点では36歳~44歳ですから、データ通りと言えるでしょう。

 逆に言えば、今の若者(10歳代・20歳代)を取り込んでいるとは言えないのですが、それでもこれだけの人気を集めること自体が、驚異的であり、当時の人気がすさまじかったことの裏返しと言えそうです。

◇リアルのバスケ好きも

 最後に、同じような時期に公開となったアニメ映画「すずめの戸締まり」と「スラムダンク」を「時系列キーワード」で比べてみます。「時系列キーワード」とは、特定のワードを検索した人が、他にどんなワードを、どのタイミングで検索するかをデータ化したものです。具体的には、「スラムダンク」と打ち込んだ人は、その前(後)にどんなワードを入れる傾向にあったか……ということです。

 今回は、映画に接触する人を絞るため「映画館」というワードと、タイトルを検索し、両作品の共通点と相違点を見ます。

 まず、両作品に共通したワードは、「ワンピース」「呪術廻戦」でした。「人気作はまず見ておく」という意味では、かぶるのも理解できます。

 そして「映画館」「スラムダンク」の両方のワードを検索した人は、その後「グッズ」や「チケット」「ネタバレ」と打ち込んでいます。「スラムダンク」を打ち込む前は「内容」「ムビチケ」「声優」を検索しており、さらにさかのぼると「ハンターハンター」がありました。「Bリーグ」というバスケットに直結するワードも出てきます。普段からバスケットを好きな人がいることが分かります。

「映画館 スラムダンク」の「時系列キーワード」。同ワードを打ちこんだ人は、以前から「Bリーグ」(青線)を気にしている。打ち込んだ後には、「ネタバレ」が浮上。
「映画館 スラムダンク」の「時系列キーワード」。同ワードを打ちこんだ人は、以前から「Bリーグ」(青線)を気にしている。打ち込んだ後には、「ネタバレ」が浮上。

 一方で「映画館」「すずめの戸締まり」のワードを検索した人は、その後「考察」と「声優」、猫のキャラクター「ダイジン」を調べています。声優ですが、ダイジンの声優に興味を持っているようでした。

「映画館 すずめの戸締まり」の「時系列キーワード」。同ワードを打ちこんだ人は、「ダイジン」や「考察」を気にしているのが分かる。
「映画館 すずめの戸締まり」の「時系列キーワード」。同ワードを打ちこんだ人は、「ダイジン」や「考察」を気にしているのが分かる。

◇若い世代が伸びない理由は…

 検索した世代について、「スラムダンク」が30歳代・40歳代で約7割、男性が過半数なのはお伝えした通りです。対する「すずめの戸締まり」は10歳代から40歳代までそれぞれ20%と均等で、女性比率が66%でした。同じアニメ映画のヒット作でも、客層の違いが際立ちます。

 ちなみに、アニメ映画の検索ボリュームの傾向ですが、性別の割合は作品ごとに変わるものの、30歳代と40歳代の占める割合が高いのは変わりません。「すずめの戸締まり」は若い世代にしっかりアピールできているということになります。

 言い換えれば、「スラムダンク」は、原作マンガのファンをしっかり捕まえる一方で、若い世代の取り込みは「まだまだ」といったところでしょうか。デイリーで若年層の変動を見ても、映画公開後も10歳代と20歳代が増えるような動きは、見られません。

 その理由を推察するに、スラムダンクは原作マンガのネット配信をしている様子がないことでしょうか。若い世代はデジタルに慣れている世代ですから、ネットで作品に触れる機会がなければ、この結果も想定内といえます。

 興収の高いアニメ映画は、30歳代・40歳代を中心に、若い世代をも幅広く取り込む傾向にあります。これだけの名作であり、内容は折り紙付きなのですから、もっと若い層にアプローチするプロモーションを展開していけば、また違う反応が起きるかもしれません。

ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT

※この記事は、Yahoo!ニュース 個人編集部、ヤフー・データソリューションと連携して、ヤフーから「DS.INSIGHT」の提供を受けて作成しています。

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サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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