日韓戦に見たDF高橋はなの闘争力。なでしこジャパンの新センターバックがE-1選手権で飛躍する
【強さを見せたCB】
伸びしろ豊かな22歳が、日韓戦で大器の片鱗を覗かせた。
7月19日のE-1選手権初戦。韓国と対戦したなでしこジャパンは、2-1で接戦を制している。DF高橋はなは、この試合にセンターバックとして先発した。
韓国がシンプルに放り込んでくるロングボールに対し、チーム全体で前からの守備がうまくはまらず苦しんだが、高橋はDF乗松瑠華とコンビを組み、90分間韓国のロングボールを跳ね返した。センターバックの柱であるDF熊谷紗希、DF南萌華ら海外組が不在の中で巡ってきた機会に、たしかな存在感を示した。
池田太監督は、センターバック2人のプレーぶりをこう評価している。
「韓国の長いボールへの対応がしっかりできたと思いますし、守備の粘りなど、修正ポイントもありますが、2人でコミュニケーションをとりながら対応していくところはしっかりできていたと思います」
高橋は高さ(169cm)、スピード、パワーを備え、フィジカルの高さは国内トップクラス。韓国戦では、170cmの長身FWチェ・ユリや、フィジカルの強さに定評があるMFチョ・ソヒョンともマッチアップしたが、ちょっとやそっとのコンタクトではびくともしなかった。終盤には180cmの大型ストライカーで、体格も年齢もひと回り上のFWパク・ウンソンとも対峙した。
「一発で勝つのは難しいと思ったので。ボランチに先に寄せてもらってセカンドを拾うことを意識していましたし、(ボールが)そこにくるな、と思った時点で準備していました」
予測を利かせてタイミングを見極め、ポジショニングで優位に立つ。ヘディングで競り勝った場面は、スタンドから歓声が沸き起こった。
「大きい選手が相手でも、どう攻略していくかを常に考えてやっています」
「ヘディングに関しては、ずっと個人的にトレーニングを積んできました。最近はジャンプのタイミングをすごく意識しながら取り組んでいます」
今大会が始まる前、高橋はそう話していた。1対1の強さは「世界に通用する武器」になる可能性を秘めている。
昨季、WEリーグではセンターバックとして全試合に出場し、三菱重工浦和レッズレディースの2位フィニッシュに貢献。セットプレーなどから決めた3ゴールがすべてヘディングだったのもインパクトがあった。
皇后杯では初優勝に貢献し、プロ1年目でリーグのベストイレブンに選出された。
同賞は、WEリーグ11クラブの監督および選手による投票結果によるもの。各チームから実績と経験豊かな選手たちが選ばれた中、最年少の22歳でノミネートされた高橋は、対戦相手の監督や選手たちに、それだけ大きなインパクトを与えた。
【チームでも代表でも「必要とされる選手」に】
三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユースに入った中学生の頃は、「細身で小柄」だったというから驚く。中学から高校にかけて、体は急速に成長していった。
入団当初はFWだったが、年代別代表で本格的にセンターバックにコンバートされている。
飛び級で参加した2018年のU-20W杯フランス大会では、浦和の1学年先輩にあたるDF南萌華とのセンターバックコンビで全試合にフル出場し、日本の世界一に貢献した。当時のU-20代表を率いていたのが池田監督だ。
高橋は当時から、フィジカルでは同年代の海外勢に優っていた。そして、順調にその芽を伸ばしていく。次のU-20(U-19)代表ではキャプテンとして最終ラインからチームを統率。2019年のAFC U-19女子選手権の決勝で、北朝鮮相手に頭で決めた決勝ゴールは、今も鮮烈に記憶している。
なでしこジャパンに初選出されたのは、同年9月だった。
浦和では2020年のシーズンまで攻撃的なポジションで出場することもあり、DFとFWの“兼業”プレーヤーだった。
当時、高橋は「“便利屋”ではなく、どのポジションでも『必要とされる選手』になりたいです。1対1で負けないことはベースにありますし、ゴールはいつも狙っています」と話していた。複数のポジションをこなすことで、視野とプレーの幅を広げた。
1対1の強さは、DFだった兄との特訓の成果も大きいという。特にコロナ禍の自粛期間などは、体格のいい兄を海外の相手に見立てて、勝負を挑んだ。
「兄妹なので容赦がないですし、兄はもともとサッカー経験があるので、ボコボコにされていました(笑)。公園などで1対1で本気でぶつかり合って、スライディングされて転んでもまったく気にしていませんでしたね。手の使い方など、(1対1で必要な要素は)基本的にすべて教えてもらいました」(昨年11月のコメント)
そうした鍛錬によって培われた土台が、高橋の伸びしろを広げていった。
性格は明るく、普段はムードメーカーとしてチームを盛り上げる。だが、時に涙を見せることもある。
浦和でレギュラーに定着する以前、高橋がFWとして途中出場した試合で敗れた際、試合後に涙を堪えきれず、先輩たちに慰められる姿を見た。限られたチャンスで結果を残せなかった悔しさゆえだと思っていた。だが、それは違った。
「負けていい試合というのは絶対にないと思っています。それでも負けてしまった時に、試合に出ている私たちも悔しいですが、それ以上に、試合に出られなかった選手の悔しさもあります。そう考えると、試合に出ている人の責任は本当に重いと思ったので。その重みをピッチで表現して、『自分がどれだけ戦えるのか』ということを示していきたいです」(昨年10月のコメント)
そんな熱さや責任感の強さも、高橋の魅力だろう。
昨年、WEリーグで活躍し、なでしこジャパンの指揮官に就任した池田監督の下で、代表にコンスタントに呼ばれるようになった。
センターバックが主戦場になっても、得点感覚は磨き続けているという。6月のフィンランド戦では代表初ゴールを決め、5-1の勝利に貢献した。
だが毎試合、課題も見つけている。
フィンランド戦では相手のカウンターアタックを遅らせようとしたが、打つ瞬間に寄せきれず、失点を防げなかったことを悔やんだ。韓国戦では、同じような場面で味方と連係してピンチの芽を摘んだ。
だが、12本ものシュートを打たせてしまったこともあり、「チーム全体で、もう一歩球際で(強く)いけるようにしていきたいです」と反省点を挙げた。また、「ビルドアップでミスをゼロにすること」も、高橋が毎試合、自分に課している目標だ。
23日のチャイニーズ・タイペイ戦は、日本がボールを持つ時間が長くなると予想される。26日の中国戦は、劣勢に陥る時間もあるかもしれない。その中で、高橋は攻撃面でもチームに貢献できるだろうか。
E-1選手権は残り2試合。一歩ずつ着実に成長の階段を上ってきた高橋の、進化の軌跡を見届けたい。