【インタビュー前編】ブルース・ギターを現代に受け継ぐ者。ティンズリー・エリスが新作を語る
ジョージア州アトランタ出身のブルース・ギタリスト、ティンズリー・エリスが最新アルバム『Ice Cream In Hell』を発表した。
1957年に生まれ、ブルースマンとしては円熟期にあるティンズリーは、ブルースの名門レーベル“アリゲイター・レコーズ”を代表するアーティストの1人として絶大な支持を得てきた。まだ来日は果たしていないものの、日本にも多くのファンが存在、新作も高い評価を得ている。
地獄の炎のように熱いブルース・サウンドとキンキンに冷えた氷のように研ぎ澄まされたギター・プレイを兼ね備えたその音楽について、ティンズリーに語ってもらった。
全2回のインタビュー、まずは前編を。
<自分の愛するブルース・ミュージックの集大成>
●『Ice Cream In Hell』では全編ブルース・ギターを弾きまくっていますね。
うん、何枚もアルバムを作ってきたけど、最も大量のギターを弾いたアルバムだ。それと同時に、ブルースという音楽スタイルをさまざまな視点から描いたアルバムでもある。どの曲も異なっていて、ブルースでありロックなんだ。『Ice Cream In Hell』は18枚目のオリジナル・ソロ・アルバムだ。でもデジタル・オンリーでベスト盤『The Best Of Tinsley Ellis』が出ているし、1980年代にザ・ハートフィクサーズというバンドで出した2枚のアルバム『Tore Up』(1984)『Cool On It』(1986)も再発されているから、21枚目かな?とにかく一番弾きまくった作品だよ。
●アルバムごとに異なったテーマやコンセプトを設定していますか?
あまり考えていないなあ。『Get It!』(2013)はインストゥルメンタル・アルバムだったけど、それ以外はナチュラルな流れで作った作品だ。ただどのアルバムでも、作品としてひとつの流れがあることは意識している。曲を書いて詰め込むだけではなく、起承転結を考えているよ。新作でいえば「Sit Tight Mama」をどこに入れるか、頭を悩ませた。アルバムの他の曲と異なっているからね。ハウンド・ドッグ・テイラーへのトリビュートのような曲なんだ。
●『Ice Cream In Hell』は曲ごとにブルースの異なった表情を表していますね。
うん、このアルバムは私の愛するブルース・ミュージックの集大成だ。「Last One To Know」はアルバート・キング風だし、「Foolin' Yourself」を聴いてフレディ・キングを思い出す人もいるだろう。メンフィスの“スタックス”、シカゴの“チェス”からの影響もあるし、エルモア・ジェイムズやB.B.キングの要素もある。ただ、それを模倣するのではなく、自分の血と肉にして、音楽にして表現するんだ。『Ice Cream In Hell』が音楽リスナーにとって、ブルース・ギターを聴く入口になったら嬉しいね。
●「Your Love's Like Heroin」のリード・ギターの“泣き”はピーター・グリーンを思わせたりもしましたが、彼からの影響はあるでしょうか?
うん、1960年代末のブリティッシュ・ブルースはアメリカ人にとって刺激的だった。ジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズ時代のエリック・クラプトンやピーター・グリーンは衝撃だったよ。彼らはアメリカ南部出身ではなくても、 ギブソン・レスポールとマーシャルのアンプで、ハートの底からブルースを訴えたんだ。ピーター・グリーンの直系といえるゲイリー・ムーアも凄いギタリストだよ。彼がプレイしたロイ・ブキャナンの「メシアが再び」は芸術品だね。ゲイリーの『Live From London』はちょうど『Ice Cream In Hell』と同じ週に発売になって、iTunesのブルース・チャートの1位と2位を争っていたんだ。まだ時間がなくて聴いていないけど、1人のリスナーとして早く聴きたいね。
<ブルース・ギタリストであるのと同時にソングライターでありたい>
●ブルースを聴き始める前は、どんな音楽を聴いていたのですか?
1960年代のいわゆる“ブリティッシュ・インヴェイジョン”のバンドで音楽に目覚めたんだ。ヤードバーズ、アニマルズ、それからもちろんザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズ...彼らを経由して、彼らが影響を受けていたアメリカのモータウンやシカゴ・ブルース、ロカビリーなどを聴くようになって、マディ・ウォーターズやボ・ディドリー、ハウリン・ウルフという名前を知ったんだ。
●若い頃、どんなブルースメンのライヴを見ましたか?
最初に見たのはB.B.キングだった。人生を変えた経験だったね。2番目はヴィクトリア・スパイヴィだった。それからハウリン・ウルフ、マディ・ウォーターズ...1970年代、大学に通っていた頃、アトランタを訪れるブルース・アーティストはかなりの数を見たよ。良い時代だったね。
●ブルース音楽の伝統を21世紀に受け継いでいくことを、自分の義務だと考えていますか?
(しばらく考え込む)うーん、その質問には幾つかの側面から答えるべきだと思う。まず、ブルース・ギターを21世紀に続けていく責任があることは感じている。他にそれをやっている人間が、あまりに少ないからね。ただ、その一方で、単に偉大な先達を模倣するのでなく、自分の個性でブルースの可能性を広げていくべきだとも考えているよ。ブルース・プレイヤーは昔のスタンダードをレコーディングしたり、ライヴで演奏することが多いけど、私はここ20年、ずっと自分のオリジナル曲をプレイしてきた。ブルース・ギタリストであるのと同時に、ソングライターでありたいんだ。
●『Ice Cream In Hell』をはじめ、近作はすべてオリジナル曲で固めていますが、ソングライターであることへのこだわりはありますか?
元々ソングライター志向があったけど、初期のアルバムではカヴァーも収録してきた。でも本格的にソングライティングに対してシリアスになったのは、『Storm Warning』(1994)に収録した「A Quitter Never Wins」をジョニー・ラングやメルヴィン・テイラーがカヴァーしたことだった。リトル・ピンク・アンダーソンやジョン・メイオールも私の曲をカヴァーしてくれたし、自分の音楽に対するこだわりが生まれたよ。
●ブルースには100年を超える歴史があり、様式の枠内でブルースの“新曲”を書くことは容易ではないと思いますが、どのように曲作りを行っていますか?
うん、ブルースのスタイルを維持しながら新しい曲や歌詞を書くのは楽じゃない。「こんなフレーズ、誰かが既にやったよなあ」の繰り返しだよ。それでも20世紀のミシシッピやメンフィス、シカゴのブルースメンが自分と同じ喜びや悲しみを感じていたことに感動を覚える。チャレンジを楽しんでいるよ。このアルバムのために40曲以上を書いたんだ。そうしてプロデューサーのケヴィン・マッケンドリーと私、そして“アリゲイター・レコーズ”のブルース・イグロアで顔を突き合わせて、11曲を選んだ。中にはアルバム収録曲に劣らない出来の良い曲が幾つもあったよ。でもアルバムとしての流れを重視して選曲したんだ。
●アルバムに入らなかった曲はどうなったのですか?
アルバムに入らなかった曲でも、ずっと後になって復活することがある。『Ice Cream In Hell』のタイトル曲「Ice Cream In Hell」のギター・リフと歌メロは10年前に書いたけど、これまでのアルバムではどうしてもフィーリングが合わなかったんだ。簡単なデモを作って、パソコンのハードディスクにずっと入れていた。良い曲だと思うし、今回世に出すことが出来て嬉しいよ。実はこの曲は、最後に選んだ曲だったんだ。「Hole In My Heart」のようなスローなマイナー・キーのナンバーは数曲あったけど、同じタイプの曲を幾つも入れたくなかった。すごく気に入っていた曲もあったんだけどね。いずれ別のアルバムでレコーディングするかも知れない。
インタビュー後編ではブルースと共に半世紀を歩んできたティンズリーならではの、リアルタイムのブルース体験と未来への展望を掘り下げてもらおう。
【最新アルバム】
Tinsley Ellis: Ice Cream In Hell
米Alligator Records 4979
【アーティスト公式サイト】
【レーベル公式サイト】