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「自業自得」と子育ての心理学:中学生の車衝突、1人死亡4人重傷(岡山)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

<「自業自得」の本当の意味は? 意図的なルール違反には厳しい態度を。同時に、子ども達に希望を与える社会に>

■中学生の無免許自動車衝突事故

1日午前5時ごろ~中学2年の男女5人が乗った乗用車が中央分離帯に衝突した。~(13歳女子の)死亡が確認され、他の4人も重傷~中学生が無免許運転していたとみて、当時の詳しい状況を調べている。

~(死亡した女子は)シートベルトをしていなかったため、衝突のはずみで車外に投げ出されたとみられる。

出典:中学生の車衝突、1人死亡=同乗の4人重傷―岡山 7/1(日)時事通信社Y!

報道によれば、誰が運転していたかは不明ですが、警察は、無免許の中学生が午前5時に運転していて単独事故を起こし、シートベルトをしていなかった1名が死亡したと見ているようです。

夏休みや年末年始などに、同様の事故が度々報道されています。

無免許でなくても、青年よる違法な運転で、運転手も同乗者も亡くなったケースなどでは、ドライバーの親は自分の子供を失った悲しみと、加害者の親としての責務の両方を背負い、とても辛い思いをすることもあります。

■ネット上の声(ヤフーコメント)

今回の事故報道を受けて、ネット上のヤフーコメントで最も目立った言葉は、「自業自得」だと感じました。

<自業自得(じごうじとく)とは:「仏教用語。みずから行なった善悪の行為によって、本人自身がその報いを受けること」。(コトバンク)>

外からの妨害や突然の病気などがなく起きた単独事故なら、自業自得はまちがった言葉の使い方ではないかもしれません。ただ、誰かが単独事故を起こして亡くなったときに、自業自得と言って当人を責めるのを遠慮することも多いのではないでしょうか。

あるいは親が運転していて単独事故を起こし、チャイルドシートを使っていなかった子供が車外に飛び出して死亡した場合など、この親を責める人もいるでしょうが、また一方自業自得などとは言わないで親に同情する人もいるでしょう。

今回は、中学生、無免許、シートベルトなしという報道から、自業自得という言葉が多く語られたのでしょうが、ただ人が亡くなっているときには、本来安易に使う言葉ではないでしょう。

自業自得よりもさらに辛らつな言葉も見られます。「みんな死ねばよかったのに」「全員じゃないのが残念だな」「事故おめでとう」「良い夏の思い出が出来て良かったね」「気持ちいいニュースだ」。

もっとひどい言葉もあるようです。「このコメントは非表示対象です」との表記も散見されました。

ただし、自業自得とは言いながらも、次のようなコメントも少数ながら見られました。

自業自得ではあるが、子どもが道を踏み外して無軌道な行動に走るまでに、彼らに向き合って常識やルールを教える大人がいなかったことも残念。十代前半の若い命をこんな事故で失って、生き残った子も一生背負わなければならない。子どもだけの責任ではないと思う。

■子供は悪いことをする

子供達は悪いことをするものです。人間も、サルのような動物も同様です。サル山の子ザルも、おきてを破り、大人の食べ物を取ろうとしたたり、ボスザルの座る場所に自分が座ろうとしたりします。そんなときは、子供とはいえ厳しい罰を受けます。

ただ、サル達はそんな子ザルを群れから追い出さず育てていきます。そして、知的好奇心を発揮して新しいことにチャレンジするのも、そんな子供若者のサルたちです。

人間の子供も悪いことをします。自転車の手放し運転をしたり、弱いものいじめをしたりすることもあります。若いころ、今から思えば乱暴で危ない運転をした人も少なからずいるでしょう。

しかし、人もサルも悪いことはしても、本来なら限度をわきまえなければなりません。その限度は、本能的なものもありますし、教育による部分もあります。

たとえば、闘っている相手が「降参」の姿勢を取ると、攻撃は本能的に止まります。うなり声を上げて威嚇し攻撃の体勢を取っている相手にはこちらからも攻撃をしかけますが、小さくなってキャンと鳴いている相手には攻撃行動が止まるようになっています。人間も小さくなって泣いている相手にはそれ以上攻撃したくなくなるはずです。しかしその本能が鈍くなっている子供達もいます。

また自動車等は自然界にはありませんから、特に教育が必要です。歩行者として、自転車に乗るものとして、そして自動車の同乗者として、守るべき交通ルールがあることを教育していかなければなりません。それが、車のドライバーとしての安全運転にもつながります。もちろん、無免許運転はだめに決まっています。

本来ならば、大きな事故になる前に、取り締まりや指導ができていればと思います。無免許で事故を起こす人が、初めての運転のときもあれば、何度目かの運転のときもあるでしょう。あるいは、無免許運転以前に交通ルールを破る行為が見られたり、社会の決まりやマナーに反することがあったりもするでしょう。初期の段階での毅然とした対応が必要です。

しかし実際は、ルールやマナー違反が野放しにされていることもあります。無断外泊を続ける中学生や、夜中の盛り場徘徊。平気で飲酒喫煙をする中学生もいます。教師達は指導しようとしても、「親公認」という場合もあり、指導が難しいケースもあります。

子供若者はルール破りやスリルを楽しみます。しかし、どんなに羽目をはずしても、限度をわきまえ自分とみんなの命を守り、人生を大切にしていく態度を身につけさせなければなりません。サルたちが、子供を厳しく罰しながらも群れからは追い出さないように、私達も子供への愛と厳しさを持って、子育てを行っていきたいと思います。

■大人たちの態度

無免許運転をしたり、シートベルトをしなかったり、子供なのに夜中や未明に遊びまわる行動は、命や人生を大切にしている行動とは言えないでしょう。

では、背景はどうであれ、一人の子供の死を悼めない大人の態度はどうなのでしょうか。子供にはルールを守れと言いながら、ヤフーコメントのルールが守れない大人はどうなのでしょう。

「特定の個人(公人を含みます)、被害者・被害者の親族、犯罪者・犯罪者の親族などに対する人権侵害、中傷に該当しうるコメント」。これは、ヤフーが禁じている投稿です(ヤフーコメントガイド)。

「自業自得」の本来の意味では、良いことにも悪いことにも使うようです。ネットの「仏教事典」の自業自得の欄には、次のような記述がありました。

お釈迦さまは、

「自分の行いは間違いなく自分に返ってくる。 あなたの行いは、あなたを裏切らないのですよ」 と言われています。だから、自分の行いを信じて頑張れば、必ず道は開けるのです。

出典:仏教事典「自業自得」

悪い行いは自分に帰ってくる。けれども、頑張って良いことをすれば、きっと素晴らしい人生が待っていると、子ども達に希望を与える社会にしていきたいと思います。

今回の事故で亡くなった方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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