ホテルの無料朝食で問題発生!“あのホテル”が0円を100円にした理由
回転率
日本には約1万軒のホテルがあるといわれる。対してとあるカテゴリーのホテルは5~6000軒のボリュウムとされる。とあるカテゴリーとは“レジャーホテル”だ。カップルズホテルともいわれ、基本的に男女での利用が想定された業態である。郊外や地方ではロードサイドも多いが、都市部には駅から近い場所に密集エリアがある。東京でいえば新宿歌舞伎町、渋谷円山町、鶯谷、池袋北口などはよく知られている。
一般ホテルと比較した場合にレジャーホテルの特色は数多あるが、まず“回転率”が特徴的だ。一般のホテルであれば基本的に1日1回転、宿泊利用ということになる。一方、レジャーホテルは日中の休憩利用(デイユース)も想定されており、休憩2回転、宿泊1回転、計3回転などというホテルもある。そんなに利用する人がいるのだろうかと勘ぐってしまうが、人気レジャーホテルでは朝の早い時間から満室というケースも珍しくない。
先日取材したのは地方都市の郊外にある人気レジャーホテルであったが、全客室の平均で1室の売り上げが約120万円/月と聞いて驚いた。30日で割れば1日4万円である。一般のホテルで1泊4万円といえば都市部の高級ホテルをイメージする。ちなみにこの地方都市の駅前にあるご当地最高級といわれるシティホテルで1泊1~2万円。回転数勝負の業態ならではの数字といえる。
突発的利用?
レジャーホテルの着目すべき点として回転率を挙げたが、その他の特色としては、一般ホテルのようにスタッフが対面してのサービスが基本的にないこと(オープンフロントのあるレジャーホテルもある)。レストランやラウンジといったパブリックスペースという概念も基本的にない。すなわち客室ステイのみに主眼の置かれた施設ということだ。
また、一般のホテルであれば事前の予約は必須かもしれないが、突発的利用も多いレジャーホテルでは事前にホテル利用を想定しないゲストもいる。すなわち、相応の準備をしていないゲストのために様々なアメニティや備品などを事前に客室へ準備しておくのはレジャーホテルの傾向であり、そうした手厚いサービスこそがリピーター獲得の秘訣となる。一部過当競争が指摘されている一般ホテルではサービス合戦の様相も呈してはいるが、レジャーホテルの比ではない。
レジャーホテルグルメ
レジャーホテルにおいてリピーター獲得の差別化として特徴的なのが“供食”だ。客室の電子レンジ設置が標準的なレジャーホテルだけに、事前にコンビニエンスストア等で調達してくるゲストも多いが、本格的な厨房を設けるなどグルメに注力する施設ではゲストが訪れる目的のひとつが食事というホテルも際立つ。もちろんホテルにはカフェやバー、レストランはなく客室へのルームサービスでの提供だ。客室テレビの画面上でメニューを表示、セレクトすると客室へ運ばれる。
レジャーホテルでは客室のエントランスとリビング・ベッドスペースの間にはドアでワンクッション置かれるのが基本であるが、さらに客室のエントランス部分を広くとってある施設も多く見られる。エントランスを広くとってあるので、料理がのせられたルームサービスワゴンを置くことができ、スタッフと対面せず料理のピックアップができるのだ(ドア付近にトレイが置ける受け渡し口を設けるケースもある)。
一般ホテルであれば飲食の提供で利益を出すというのは定石であるが、レジャーホテルにはそうした発想がない。一般の飲食店では原価率30パーセントとよく言われるが、グルメが人気の某レジャーホテルでは65パーセントと聞いて驚いたことがある。施設によって提供する料理やクオリティや原価率も異なるが、“飲食で儲けようという発想がない”ことは、これまで取材してきたレジャーホテルで共通する考えだ。
無料朝食を100円にした理由
レジャーホテルでの食事といえば朝食もまた特徴的。朝食というだけに宿泊ゲストが対象となるが、もはや無料提供という姿勢がレジャーホテルのデフォルトといえる。「姿勢が」と書いたのは、宿泊ゲストへの感謝という意味合いもある朝食の無料提供が思わぬ問題を惹起している。
無料朝食といえばビジネスホテルのブッフェなどでもお馴染みであるが、無料とはいえ当然宿泊料金に転嫁されている。レジャーホテルの朝食もまた同じであるが、ビジネスホテルと異なるのはルームサービスで提供される点と、かなり豪華な内容のホテルが多い点である。
そんなレジャーホテルの朝食無料提供で起きた問題とは“朝食はいらないけど無料だからとりあえずオーダーしよう”というゲストが多くいたことだった。それによりせっかくの料理が残されるのである。
そうした問題への対応としてレジャーホテルによっては100円、300円といった料金を設定するようになった。そもそも無料といわれて驚く豪華な内容の朝食であるが、100円、300円と言われると逆にミスマッチな感覚に襲われる。
無料朝食コストが経営に影響するために設定した100円、300円ではない。そもそもはなから料金を徴収するつもりなどなかったのだ。こうした有料化が進む一方で、やはり豪華無料朝食を続けている施設は多いことはレジャーホテルの利用者満足向上いったスタンスを物語っている。
我々は10年先を行っている
一般ホテルの常識が通用しないレジャーホテル。「我々は10年先を行っている」と語る人気ホテル経営者の言葉が印象的だった。利用者目線に立ったハードを徹底的に追及し、人的サービスが希薄な分これでもかというほど備品やアメニティにも力を入れる。
サービスとは何か? 人間の本能に根付き直結する業態だけにその解を導き出す努力はリアリティがある。