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守備的なサッカーを少しだけ攻撃的にできるのか?ロティーナとグアルディオラの出発点

小宮良之スポーツライター・小説家
キャプテンを務める清武弘嗣(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

守備的で片付けるべきか

 2020年までセレッソ大阪を率いたスペイン人監督ミゲル・アンヘル・ロティーナは、一つの定石を持っていた。

「いい守りがなければ、いい攻めは存在しない」

 ロティーナはスペインサッカーにおける大原則を適用し、ポジション的優位を作っている。ディフェンスの整備、修正に時間をかけた。各選手の立ち位置、お互いがカバーリングできているか、組織的なラインコントロールやプレスのタイミングなど、ディテールにこだわって基礎を作った。次第に、選手同士の距離感が改善されてきた。

 そのおかげで、選手たちは攻守両面で力を発揮するようになっていった。

 2020年シーズン、まずは守備陣がプレーの精度を上げた。GKキム・ジンヒョンは総合力を高め、決して得意ではなかった足技も見違えるほどにうまくなった。マテイ・ヨニッチは堅牢だったし、その影響を受け、瀬古歩も著しい成長を見せた。守備と攻撃はあざなえる縄のごとし。清武弘嗣、藤田直之の二人は円熟の境地を見せ、奥埜博亮、片山瑛一はポリバレントな才能を引き出されている。そして左利きサイドアタッカー、坂元達裕が飛躍を遂げた。

 守備が安定することで、彼らは力を出し切れたのだ。

「守備的」

 そんな言葉で片付けるべきではない。

 ロティーナのアプローチは最高の正攻法と言えるだろう。

 新たに就任した清水エスパルスでも、じっくりとその手腕を見せるはずだ。

守備的なチームを攻撃的にシフトというお題目

 守備の組織を作り上げ、失点を少なくする。

 それだけで、一定の成績を得られるようになるだろう。選手も成長を遂げるはずだ。

 一方、思うように得点を取るのは簡単ではなく、守備の強さはしばしば「退屈」という評価にとってかわる。

「攻撃的」、あるいは「自由」、もしくは「創造的」。

 そうした言葉に飲み込まれるのだ。

 しかし、聞こえの良い言葉には危うさも潜んでいる。

「もっと面白く。次は守備だけでなく、攻撃にシフトする」

 それはクラブがしばしば唱えるお題目だ。守備はできたから、次は少し攻撃的に。実にもっともらしい。

 しかし、そのほとんどが失敗する。

 なぜなら、サッカーは「守備から攻撃の度合いを切り替え、攻撃的になるように度合いを調節できる」という代物ではないからだ。

 攻撃的であることを掲げることによって、積み上げてきた守備の堅牢さは次第に、だんだんと崩れることになるだろう。守備によってリズムを出していたところで、前がかりになって、プレスも満足にかからず、ラインが上がれば、チーム全体がおかしくなる。攻めるどころではなくなって、やがて守備が崩壊し、あたふたとし、いつのまにか立ち戻ることすらできなくなる。

 最悪の場合、チームは瓦解するのだ。

 守備が整備されたチームが、それを土台にしている場合、攻撃力を生み出す、あるいは攻撃力の度合いを上げるには、たった一つの方法しかない。前線に相手を圧倒し、ゴールを決められるスーパーな選手をそろえる。それが唯一の手段である。システムではなく、人を替えるしか、攻撃力増大=ゴールが増える可能性はないのである。

 もしくは、発想を大きく逆転させるしかない。

グアルディオラの特殊さ  

 マンチェスター・シティを率いる名将ジョゼップ・グアルディオラは、スペースにおける人ではなく、「ボールありき」を基本的なコンセプトにしている。つまり、自分たちがボールを動かし、そのために人が動く、という発想で、完全に能動的な動きをする。相手を受け身にさせ、守らせる形に追い込む。そのために必要な高いボール技術と戦術センスを持った選手を擁し、「攻撃こそ防御なり」で攻撃的に挑むのだ。

 敵陣でのショートカウンターも、攻撃の効率性を高めるために存在している。より高い位置で奪い返すことで、ゴールに近いため、得点の可能性は必然的に高まる。攻め続けることで、相手をノックアウトするのだ。

 ロティーナのような正攻法の発想とは、出発点が大きく異なる。

 グアルディオラは、最初から守備を組織化していない。あくまで攻撃が主眼にあって、攻撃的なのではなく、攻撃のために守備が存在している。攻撃で相手を押し込むことで、攻撃の機会を与えず、攻撃の確率を上げるのだ。

「守備的なものを少しだけ攻撃的に」

 そんな姑息さはない。噴飯ものだろう。

 率直に言って、グアルディオラのようなやり方が成功すれば、夢がある。先進的なサッカーを見せられる。スペクタクルと同義だ。

 しかし欧州のクラブを見渡しても、グアルディオラに匹敵するような指揮官は、片手で数えられる。そしてそのコンセプトを実践できるような選手も、限りがある。ボールありきで攻め続けられる技術、体力、戦術、精神力を併せ持った選手を11人以上そろえられるクラブが、どれだけあるのか?

攻撃的を守備的に、はできなくない

 もっとも、攻撃を出発点に鍛え上げたチームを、守備的にシフトすることは不可能ではない。

 事実、サンフレッチェ広島や川崎フロンターレは、天才性を感じさせる指揮官たちが作ったチームを、実務的にシフトすることで作り替えていった。プレー効率が上がる中で、勝ち点を重ねる戦い方を見つけた。攻撃を追求した時代にはかなわなかったリーグ優勝も果たしている。

 しかし、それは戦術的に革新的な指揮官たちが、長年鍛え上げた結果だった。

 自由。

 そんな言葉に酔ってはいない。それは現場では、カオスとも言い換えられるのだ。

 一つ確かなのは、守りが攻撃を好転させる、という発想が劣っているわけではない、ということだろう。それはサッカーにおける定石の一つ。守備を構築できる監督は、優れた手腕の持ち主と言えるのだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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