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国生さゆり 手がけた小説が電子コミック化。「自分からは一番遠いことばかりやってきた40年だった」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/ソニー・ミュージックアーティスツ(全て)

デビュー40周年。小説家としての顔を持ち、長編小説『国守の愛』が電子コミック化され、縦読み漫画として配信される

新作縦読み漫画『国守の愛~群青の人・イエーガー~』(原作:国生さゆり・舟崎泉美(脚色) 作画:おえかき) 1月8日配信
新作縦読み漫画『国守の愛~群青の人・イエーガー~』(原作:国生さゆり・舟崎泉美(脚色) 作画:おえかき) 1月8日配信

1985年国民的アイドルグループ「おニャン子クラブ」のメンバーとしてデビューし、2025年に40周年を迎える国生さゆり。1986年には「バレンタイン・キッス」でソロデビューし、女優、タレントとしても活躍している彼女が、新たなフィールドに挑戦している。それが小説の執筆だ。小説投稿サイト『小説家になろう』に、本名の“國生さゆり”のペンネームで2020年から連載した処女作『国守の愛』が注目を集め、電子コミック化され、縦読み漫画『国守の愛~群青の人・イエーガー~』(CLLENN社刊)として1月8日からDMMブックス、LINEマンガ他で先行配信がスタートした。

国生にインタビューし、なぜ小説を書こうと思ったのか、そして電子コミック化されることについて、さらに40周年を迎えて今思うことを聞かせてもらった。

コロナ禍で感じた不安

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により芸能界も大きな打撃を受けた。国生も例外ではなかった。仕事のキャンセルが相次ぎ、活動がストップしたばかりか、体調を崩したという。

「コロナ禍で人と断絶されて全くのひとりになって、あの頃コロナってものすごい脅威だったじゃないですか。そんな中で自分も発熱して、このままどうなってしまうんだろうって考えてしまって」。

「もうひとりの自分、タレントの国生さゆりさんのプライドや、色々なものを傷つけてしまったという後悔の念がすごくある」

同時に、自身の人生の“これまで”と改めて向き合う時間にもなったという。

「私は過去の色々なことで、国生さゆりさんという人、自分だけどもうひとりのタレントの国生さゆりさんのプライドや、色々なものを傷つけてしまったという後悔の念がすごくあって。申し訳ないことをしてきたので、これからひとつひとつのお仕事ともっと誠実に向き合っていかなければ、と思っていた矢先に発熱して、もしあれがなかったらとか、もしこうしていればとか、色々考えてしまいました。それで、私は国生さゆりさんに何もしてあげていない、申し訳ない、何か残さなければ、と思いました。それが小説を書き始めたきっかけです」。

2020年から本名の“國生さゆり”のペンネームで小説を書き始める

自分の思いを残したいという気持ちが、以前から構想を練っていたというSFアクション小説「国守の愛」へとつながる。2020年5月から小説投稿サイト「小説家になろう」に本名の“國生さゆり”のペンネームで投稿を始めた『国守の愛』は、第1章92話、第2章78話、第3章42話、全212話66万字という大作だ。

「小説投稿サイトで連載し始めたのは単純に『書いた文章のデータがもしスマホから消えてしまったらどうしよう』と不安になって、検索して辿り着いたのが誰でも小説を投稿できるサイトでした。しかもそれが誰でも読めるのかどうかということもよくわからないまま書き続けていたら、ある日ファンの方からTwitter(当時)で問い合わせがあって、それで気づくという…(笑)。元々ラブロマンスやミリタリー系アクションの映画やドラマが好きで、髙村薫さんのサスペンスや馳星周さんのハードボイル小説もよく読みました。父が海上自衛官ということもあって、制服モノもすごく好きなんです」。

SFハードボイルド長編小説『国守の愛』

2025年1月8日より15話が先行配信、その後毎週水曜日に1話ずつ配信(『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より) (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN
2025年1月8日より15話が先行配信、その後毎週水曜日に1話ずつ配信(『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より) (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN

『国守の愛』は、ヒロインの科学研究者・富士子を中心に、危険なウイルスや秘密組織から国を守り抜くため、懸命に生きる男女の物語を軸に、特殊部隊の活躍や未来の世界を描くSFハードボイルドの長篇だ。

「父の影響もあって、国のために頑張っている人がいることを知って欲しいという思いもありました。まず頭の階段上っている女の人の後ろ姿がパッと思い浮かんで。『私はいつも一人だ。何をする時も私は孤独を選んできた』というモノローグを書きながら、自分のことを書いているんだなって思って、そこからは次から次へと書きたいことが浮かんできました」。

『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN)
『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN)

『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN
『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN

「ドラマをやらせていただいたことが、小説の執筆にも役に立っている」

芸能界での長年の経験が、小説執筆にも活かされているという。「ドラマをやらせていただいたことが、経験として小説を書くことにも役に立っていると思います。例えばコマ送りやカット割り、のちのち引っかかってくる伏線になるセリフとか、あとはこれまでお会いした人が、登場人物のキャラクター設定の時に浮かんできたりしました」。

しかし執筆は決して楽なものではなかった。「言葉の選び方や表現の仕方が難しくて、いまさらながら勉強してこなかったことを悔いました。専門用語を調べることにも時間がかかったし、苦しいこともありましたが最後まで楽しんで書くことができました」。

「(小説が)最初は漠然と2時間ドラマの原作になったらいいなって思ってました」

『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN
『国守の愛~群青の人・イエーガー~』より (C)國生さゆり・舟崎泉美(脚色)・おえかき/CLLENN

ハードボイルド小説ではあるが「デイトの申し込みと笑う浮子」「棒倒し決勝戦」「スマホ紛失」「マスカット大福」、そして「浮子さんのお弁当」「甘い・甘い恋のチョコレート」といった、ユニークな章タイトルが挟まれているのも面白い。小説の完成後、配信マンガ化の話が持ち上がった。

「最初は漠然と2時間ドラマになったらいいなって思ったりしました。でも専門用語が多いし、特殊な設定なのでマンガの方がわかりやすいし、合っていると思いました。お話をいただいて、編集者の方にビジュアル表現や特殊部隊の動きなどのアイディアをお伝えさせていたきました」。

デビュー40周年を迎える国生にとって、小説家としての活動は新たな刺激になっている。

「気持ちが本当に楽になりました。これまで趣味=仕事という感じだったので、その仕事がないと私は必要ない人になったのかなって落ち込む日々もありました。でも今は小説もそうだし、自分で好きなことをやって、その合間に仕事をするという感じで、気持ちがすごく救われた気がします」。

「小説を書いたり、マンガに携わっていると、芸能活動とは違う種類のクリエイティブをやっていると実感できる」

小説を執筆するということは、自分発信のクリエイティブな活動でもある。そこに充実感を感じている。

「番組に出て、みんなに喜んでもらうものを作る、その一員として頑張ってきたということは、大きな意味ではクリエイティブなことをやってきたと思います。でもやっぱり小説を書いたりマンガに携わったりすると、違う種類のクリエイティブをやっているって感じはします」。

40周年を迎え、さらに60歳という数字が視界に入ってきてふと人生を振り返った時、国生は「毎回自分からは一番遠いことばかりをやってきた」と思ったという。

「今まで、自分から一番遠いことを自分が選んでやってきたということに気づきました。まずおニャン子クラブのメンバーになったことがそうでした。私はずっと陸上をやっていたので、それで実業団に入ってオリンピック選手になるという夢があったので、アイドルとしてテレビに出て歌うなんて考えられなかった。誰かの前で表現するなんて一番遠くにあることでした。そこからさらにソロになって、ドラマやバラエティ番組にも出ていく。どんどん遠いところにあるはずのものをやるようになる。陸上をやっている時は、例えばタイムをあと0.02秒縮めるにはどうすればいいかを、先生と一緒にトレーニングメニューを考えてひたすらこなして突破しなければいけなかった。芸能の仕事も未知の場所で自分でスキルを身につけて、開拓し続けていくことだと考えると、根本的には陸上をやっていた時代の私と同じかもしれないと思えるようになりました。なにより小説を書くということが、一番遠くにあることだったと思います(笑)」。

「精神的に楽に、自由になれたことで、もっと楽しいことがこれから待っていると思えるようになった」

60歳に向かって、より自由になれていると語ってくれた国生。これからの野望、希望を聞いてみた。

「年をとるということも悪い事じゃないなって思えてきました(笑)。自由な発想ができるようになったし、例えば私が何か言うと周りのみんなが笑ってくれるし、仕方ないなって温かい気持ちで見守ってくれるというか……それって、ある種の自由じゃないですか(笑)。野望とか大きなものはなくて、小説を書いたりマンガ制作の作業をやり始めると、エンタメって純粋に楽しいなって思えるようになったんです。“すがりついてない”のが私的にはすごく心地よくて素敵だと思うし、精神的に楽に、自由になれたことでもっと楽しいことがこれから待っていると思えることで今は十分です」。

40年の芸能生活で培った経験と、新たに見出した創作への情熱が刺激となって、国生さゆりという表現者をさらなる高みに導き、また大きな花を咲かせそうだ。

国生さゆり オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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