年度替わりの値上げが痛手…2018年4月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる
・現状判断DIは前回月比プラス0.1ポイントの49.0。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.5ポイントの50.1。
・年度替わりによる商品価格の上昇や人手不足が景況感にマイナスの影響を与えている。もっとも人手不足に関する捉え方は立場によりけり。
現状は上昇、先行きは下落
内閣府は2018年5月10日付で2018年4月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、人手不足、コストの上昇などに対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資などへの期待がみられる」と示された。
2018年4月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス0.1ポイントの49.0。
→原数値では「変わらない」「やや悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは50.9。
→詳細項目は「住宅関連」「雇用関連」が下落。「製造業」のプラス1.8ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「サービス業」「製造業」「非製造業」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でプラス0.5ポイントの50.1。
→原数値では「よくなる」「変わらない」が増加、「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは51.1。
→詳細項目では「飲食関連」「サービ関連」で下落。最大の下げ幅は「飲食関連」のマイナス4.7ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」。
ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、消費動向に影響を与えてきそう。
推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復しているのだが。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
今回月の現状判断DIは総計で前回月から0.1ポイントのプラス、詳細項目では「住宅関連」「雇用関連」以外で上昇。もっとも上げ幅の上限は1.8イント、下げ幅の上限は2.0ポイントでしか無く、小幅な動きに留まっている。
景気の先行き判断DIは「飲食関連」「サービス関連」以外の項目で上げ。下げ幅は最大で「飲食関連」の4.7ポイント。
今回月で基準値を超えている詳細項目は「サービス関連」「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」のみ。
好天候で現状は堅調だが生活関連品の値上げが痛手か
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・3月下旬から好天に恵まれ、来園者数、飲食物販売の増加につながっている(テーマパーク)。
・3-4月の歓送迎会需要が前年同期と比較して堅調に推移しており、来客数が増加している(高級レストラン)。
・野菜の値段が下がったほか、春物野菜が出回り、好調に売れている(スーパー)。
・売上は前年並みで推移している。後半は例年以上に気温が上昇し、春物商材の動きが鈍くなってきており、単価の安い夏物に推移しているので伸び悩んでいる(衣料品専門店)。
■先行き
・富裕層の購買意欲は依然として高く、現状の株価推移が継続すれば、今後も景気向上が期待できる。都心店舗のインバウンドの来客数および購買額も安定しており、特選高額品や化粧品を中心に好調が予想される(百貨店)。
・コンビニ業界は、夏の暑さが非常に追い風となる。今年は暑い夏が予想されていることから、3か月後はかなり期待できるのではないか(コンビニ)。
・春闘でかなり賃金値上げが実施されており、夏頃にはボーナスの値上げと併せて個人消費が回復してくる(スーパー)。
・食料品などの生活関連の値上げが相次ぎ、財布のひもがより一層固くなりつつある(一般レストラン)。
今回月では季節感を覚えさせる好天候に恵まれ、消費が後押しされた様子が見受けられる。特にゴールデンウィーク前半となる月末にかけての好転は、多様な方面に大きな需要をもたらしたようだ。また、野菜の価格も正常化を見せつつあり、食生活の面での消費拡大化も見受けられる。さらに気が早い話ではあるが、長期予報で今夏が暑くなるとの話が出たことから、夏関連の商品への販売期待も高まっているようではある。
年度替わりに商品の値上げが生じることは毎年の話ではあるが、消費者にとってはマイナス要因と受け入れられやすい。これを受けて消費者の消費性向が落ち込むのではとの懸念も見受けられる。
企業関連の景況感では堅調さを示す話の他に、人手不足に関する言及が見受けられる。
■現状
・東京オリンピックに向けて、光学業界の新製品投入が活発になっている(金属製品製造業)。
・スーパーや百貨店からの受注に変化は無いが、電子商取引の荷物が伸びており、小口商店からはWeb関連の受注が増加するなど物流が変化している(輸送業)。
■先行き
・人手不足であり、人材の能力向上の必要性などが強く求められているため、コンサルタントや人材の採用、育成関連の仕事はますます忙しくなり、価格も上がっていく(経営コンサルタント)。
・前年から高騰していた原材料であるキャベツとタマネギの価格が落ち着いてきているため、今後の景気はややよくなる(食料品製造業)。
原油価格は上昇基調にあるが、現時点では特段の言及は見受けられない。東京オリンピックに向けた光学業界の新製品とは、デジタルカメラや望遠鏡だろうか。人手不足は相変わらずだがこれを契機ととらえるところもあるようだ。
雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。
■現状
・人がどんどん採用できなくなってきている。人手不足が理由で事業の縮小を考えているところも出てきた(新聞社[求人広告])
■先行き
・いまだ人材不足ではあるが、保育園などの受け皿が広がれば、女性の再就職も増加を見込める。さらに、彼女たちが実務経験を活かせる戦力となれば、企業の競争力も上がり、景気もややよくなる(人材派遣会社)。
人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計30件、先行き計75件)。特に今回月は年度替わり直後の月であるだけに、先行きにおける人手不足感を訴える声が多い。
大企業に人材を取られるので自社のような中小企業は人材不足を解消できない、思い切った商売ができないなどのような感想もある。一方で単に人手不足への不満だけで無く、景況感の上向きの表れではないかとする解釈を持つところや、正規雇用の拡大につながる、「人手不足感が強くなってきており、当社でも大幅な昇給を予定している」のような声も見られる。
昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。
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※景気ウォッチャー調査
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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