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メラノーマの予後を左右する!腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の重要性と最新研究

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【メラノーマとは?皮膚がんの中でも要注意な存在】

皆さんは「メラノーマ」というがんをご存知でしょうか?メラノーマは、皮膚がんの一種で、特に注意が必要な悪性腫瘍です。皮膚の色素細胞(メラノサイト)が悪性化して発生します。

日本では比較的稀な皮膚がんですが、欧米では発生率が高く、年間発生率は地域によって大きく異なります。地中海沿岸諸国では10万人あたり5〜12人、北欧諸国では12〜35人、さらにオーストラリアやニュージーランドでは50人以上と報告されています。

メラノーマは、他の皮膚がんと比べて進行が早く、転移しやすいのが特徴です。早期発見・早期治療が非常に重要です。日頃から自分の肌の状態をチェックし、気になるほくろや色素斑があれば、すぐに皮膚科を受診することをおすすめします。

【腫瘍浸潤リンパ球(TIL)とは?メラノーマ治療の新たな希望】

さて、最近の研究で注目を集めているのが「腫瘍浸潤リンパ球(Tumor-Infiltrating Lymphocytes: TIL)」です。TILとは、がん組織に浸潤している(入り込んでいる)リンパ球のことを指します。

リンパ球は私たちの体の免疫システムの重要な構成要素で、ウイルスや細菌、がん細胞などの異物を攻撃する役割を持っています。TILは、がん細胞を直接殺傷したり、免疫を活性化させる物質を放出したりすることで、腫瘍の成長を抑制・制御する働きがあります。

TILの中には、さまざまな種類の免疫細胞が含まれています。例えば、エフェクターT細胞、制御性T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、樹状細胞などです。これらの細胞が腫瘍組織に浸潤することで、がん細胞との複雑な相互作用が生まれ、病気の進行に影響を与えるのです。

【TILとメラノーマの予後:最新の研究結果が示す重要性】

近年の研究により、TILがメラノーマ患者の予後(病気の経過や結果)を予測する上で重要な因子であることがわかってきました。今回紹介する研究は、TILの密度(多さ)と分布(広がり)がメラノーマ患者の生存率にどのように関係しているかを調べた大規模なメタ分析です。

研究では、TILの状態を「brisk(活発)」「non-brisk(やや活発)」「absent(存在しない)」の3段階に分類しています。そして、これらの分類と患者の5年生存率、10年生存率、そしてメラノーマ特異的5年生存率との関連を分析しました。

結果は非常に興味深いものでした。TILが「brisk」な状態、つまり腫瘍全体に活発に浸潤している患者さんの5年生存率は84%でした。一方、「non-brisk」な患者さんは68%、TILが「absent」な患者さんは61%でした。

この結果は、TILの存在が患者さんの予後に大きく関わっていることを示しています。つまり、がん組織に多くのTILが存在している患者さんほど、生存率が高くなる傾向があるのです。

この研究結果は、メラノーマ治療において個別化医療の重要性を示唆しています。TILの状態を詳細に評価することで、各患者さんに最適な治療法を選択できる可能性があります。

また、この研究はTILが予後予測のマーカーとしてだけでなく、治療のターゲットにもなり得ることを示唆しています。今後、TILを活性化させたり、増やしたりする治療法の開発が進むかもしれません。

しかし、まだ解明すべき点も多く残されています。例えば、TILの中でもどのタイプの免疫細胞が特に重要なのか、TILの状態はがんの進行とともにどのように変化するのかなど、さらなる研究が必要です。

メラノーマは早期発見・早期治療が何より大切です。定期的な皮膚チェックを心がけ、気になる症状があれば迷わず皮膚科を受診しましょう。

参考文献:

Garutti, M., Bruno, R., Polesel, J., Pizzichetta, M. A., & Puglisi, F. (2024). Role of tumor-infiltrating lymphocytes in melanoma prognosis and treatment strategies: A systematic review and meta-analysis. Heliyon, 10(6), e32433. https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e32433

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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