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アトピー性皮膚炎治療薬デュピクセント、治療効果は体質関係なし?最新研究が明らかに

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎治療の新時代】

アトピー性皮膚炎の治療は、近年めざましい進歩を遂げています。特に、特定の免疫経路をターゲットにした新しい治療薬の登場により、多くの患者さんが症状の改善を実感しています。

その代表的な薬剤が「デュピクセント」(一般名:デュピルマブ)です。この薬は、アレルギー反応に関与するIL-4とIL-13という物質の働きを抑える生物学的製剤として知られています。

【最新の研究結果が覆した常識】

これまで、タイプ2優位(アレルギー傾向が強い)の患者さんの方が、デュピクセントによる治療効果が高いのではないかと考えられてきました。

しかし、オランダとドイツの研究チームによる127名の成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした最新の研究で、その常識が覆されました。

研究では、患者さんの血液中に含まれる60種類のタンパク質を分析し、患者さんを「タイプ2優位群」と「非タイプ2優位群」に分類しました。

そして、デュピクセントによる治療効果を16週間にわたって追跡調査したところ、驚くべきことに両群間で治療効果に有意な差は認められませんでした。

【治療選択の新たな指針】

この研究結果は、実臨床において非常に重要な意味を持ちます。

従来、アレルギー傾向の強さによってデュピクセントの効果に差があるのではないかという懸念から、治療選択に迷うケースがありました。

しかし今回の研究により、患者さんの免疫タイプに関係なく、デュピクセントによる治療を検討できることが明らかになりました。

この研究結果は、より多くのアトピー性皮膚炎患者さんに治療の可能性を広げる発見といえます。特に日本人は欧米人に比べてアレルギー傾向が強いとされていますが、免疫タイプに関係なく効果が期待できるという点は、日本の臨床現場でも非常に重要な知見となるでしょう。

なお、この研究では、治療効果を予測できる血液マーカーについても探索が行われましたが、残念ながら有用な予測因子は見つかりませんでした。

ただし、HGF(肝細胞増殖因子)という物質の濃度が、治療効果の低い群で高い傾向にあることが分かりました。今後の研究における重要な手がかりとなる可能性があります。

参考文献:

Dekkers C, et al. Type 2 Immune‐Dominant Endotype Is Not Associated With Increased Responsiveness to Dupilumab Treatment in Adult Atopic Dermatitis Patients. Clinical & Experimental Allergy, 2024.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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