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アトピー性皮膚炎と尋常性乾癬の違いを知って、正しい治療法を選ぼう

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

慢性炎症性皮膚疾患とは、皮膚に炎症が長期間続く疾患の総称です。代表的なものとして、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)、酒皶(しゅさ)、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎などがあります。これらの疾患は、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させ、医療費の負担も大きくなります。

慢性炎症性皮膚疾患の治療は、症状の程度によって異なります。軽症の場合は外用薬(皮膚に塗る薬)が中心となりますが、重症の場合は内服薬や注射薬が必要になることもあります。近年、アトピー性皮膚炎に対するデュピルマブ、乾癬に対するデュークラバシチニブやスペソリマブといった新薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。

【慢性炎症性皮膚疾患の病態と診断】

慢性炎症性皮膚疾患の多くは、皮膚のバリア機能の低下と免疫系の異常が関与しています。

アトピー性皮膚炎では、フィラグリンという皮膚のバリア機能を担うタンパク質の遺伝子変異が見られます。この変異により、皮膚の水分保持能力が低下し、外的刺激に対する感受性が高まります。また、Th2細胞という免疫細胞が活性化され、IL-4やIL-13といったサイトカインを過剰に産生することで、炎症が引き起こされます。

尋常性乾癬では、Th17細胞とよばれる免疫細胞が重要な役割を果たしています。Th17細胞から分泌されるIL-17というサイトカインが、皮膚の炎症や角化異常を引き起こすのです。また、尋常性乾癬では、IL-23というサイトカインも病態に関与していることが明らかになっています。

酒皶は、顔面に紅斑(こうはん)や丘疹(きゅうしん)、毛細血管拡張などが見られる慢性炎症性皮膚疾患です。Demodexというダニの関与が指摘されていますが、詳しい病態は明らかになっていません。

脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が多い部位に生じる慢性炎症性皮膚疾患です。Malassezia属の真菌が関与していると考えられています。

接触皮膚炎には、刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎の2種類があります。刺激性接触皮膚炎は、皮膚に対する直接的な刺激により生じます。一方、アレルギー性接触皮膚炎は、特定の物質に対する遅延型アレルギー反応により生じます。

慢性炎症性皮膚疾患の診断は、主に皮膚の症状と患者さんの病歴から行います。アトピー性皮膚炎の診断基準としては、Hanifin and Rajkaの診断基準、UK Working Partyの診断基準、アメリカ皮膚科学会の診断基準などがあります。重症度の評価にはSCORADスコアやEASIスコアが用いられます。尋常性乾癬の診断は、典型的な皮疹の存在と皮膚生検により行われます。また、爪や関節の症状も参考になります。

慢性炎症性皮膚疾患は、見た目の症状が似ていることも多いため、専門医による正しい診断が重要です。適切な治療を行うためには、各疾患の病態を理解し、患者さん一人ひとりに合わせた治療方針を立てる必要があります。また、生活環境や食事、ストレスなども症状に影響を与えるため、総合的なアプローチが求められます。

【慢性炎症性皮膚疾患の治療法】

慢性炎症性皮膚疾患の治療は、炎症を抑えることと、皮膚のバリア機能を回復させることが目的となります。外用薬としては、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏などが使用されます。保湿剤の使用も重要です。

アトピー性皮膚炎の治療では、中等症から重症の場合、デュピルマブ(IL-4/IL-13受容体阻害薬)やトラロキヌマブ(IL-13阻害薬)などの生物学的製剤が使用されます。これらの薬剤は、IL-4やIL-13の作用を阻害することで、炎症を抑制します。また、JAK阻害薬のウパダシチニブやアブロシチニブも有効性が示されています。JAK阻害薬は、JAK-STAT経路を阻害することで、炎症性サイトカインのシグナル伝達を抑制します。

尋常性乾癬の治療では、IL-17阻害薬(イキセキズマブ、セクキヌマブなど)、IL-23阻害薬(グセルクマブ、リサンキズマブなど)、TNFα阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブなど)といった生物学的製剤が使用されます。IL-17阻害薬とIL-23阻害薬は、それぞれIL-17とIL-23の作用を阻害することで、炎症を抑制します。TNFα阻害薬は、TNFαの作用を阻害することで、炎症性サイトカインのカスケードを抑制します。また、2022年にはTYK2阻害薬のデュークラバシチニブも承認されました。TYK2阻害薬は、TYK2キナーゼを阻害することで、IL-23やIL-12のシグナル伝達を抑制します。

酒皶の治療では、メトロニダゾールやアゼライン酸などの外用薬が使用されます。重症例ではテトラサイクリン系抗菌薬の内服が行われることもあります。また、レーザー治療も有効とされています。

脂漏性皮膚炎の治療では、抗真菌薬の外用や内服が行われます。シャンプーではケトコナゾールやシクロピロクスが使用されます。

接触皮膚炎の治療では、原因となる刺激物質やアレルゲンを特定し、回避することが重要です。また、ステロイド外用薬や保湿剤が使用されます。

【皮膚のかゆみや炎症を和らげるためのスキンケア】

慢性炎症性皮膚疾患では、日常のスキンケアも重要です。刺激の少ない入浴剤や石鹸を使用し、入浴後は保湿剤を塗るようにしましょう。保湿剤は、皮膚のバリア機能を補強し、外的刺激から皮膚を守る役割があります。

また、穏やかな室内環境を保つことも大切です。室内の温度や湿度を適切に保つことで、皮膚の乾燥を防ぐことができます。

尋常性乾癬の患者さんは、肥満や喫煙が症状を悪化させることが知られています。適度な運動と食事管理により、体重をコントロールすることが重要です。また、禁煙に取り組むことで、症状の改善が期待できます。

酒皶の患者さんは、刺激の少ないスキンケア製品を選ぶようにしましょう。紫外線対策も重要です。日光が症状を悪化させることがあるため、外出時は日焼け止めを使用し、直射日光を避けるようにします。

脂漏性皮膚炎の患者さんは、皮脂の分泌を抑えるために、低刺激の洗浄料を使用し、こまめに洗浄するのが良いでしょう。ただし、洗いすぎには注意が必要です。

以上、慢性炎症性皮膚疾患について詳しく解説いたしました。皮膚の赤みやかゆみでお悩みの方は、ぜひ皮膚科専門医に相談してみてください。早期の診断と適切な治療、日常のスキンケアが、症状の改善につながります。

参考文献:

Tong LZ, Desai RM, Olsen R, Davis M. The Pathophysiology, Diagnosis and Management of Chronic Inflammatory Skin Diseases. Discovery Medicine 2024; 36(189): 1933–1954.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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