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チームが苦境だからこそ頼もしさを感じさせる筒香嘉智のブレないキャプテンシー

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
国際試合経験も豊かだからこそチームの結束力の意味を熟知する筒香嘉智選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 昨年は19年ぶりに日本シリーズ進出を果たし、今シーズンも更なる飛躍が期待されたDeNAだが、ここまでかなり厳しい戦いが続いている。投打ともに主力にけが人が相次ぎ開幕からなかなか本来の戦力が整わない。現在も投ではジョー・ウィーランド投手、打ではホセ・ロペス選手、梶谷隆幸選手らが戦線離脱中で大きな戦力ダウンを余儀なくされている。

 それでも6月の交流戦は8勝10敗とセ・リーグでは2位タイの成績で踏みとどまり、交流戦終了後も勝率5割前後で熾烈な2位争いを続けている。現在はどのチームも抜け出せない状況が続いているが、昨年のCSでみせた快進撃からも理解できるように、DeNAの戦力が整いさえすれば一気に抜け出す団結力を十分に秘めているような気がしている。

 一旦リズムに乗ると手がつけられない戦いができることこそ、DeNAの魅力であり強さの秘密ではないだろうか。チームを指揮するアレックス・ラミレス監督のベネズエラ人らしい“ラテンの血”がチームに独特のムードをもたらしているのは間違いないだろうが、実は以前からそうしたチームを支える大きな要素の1つとして筒香嘉智選手のキャプテンシーがあるのではないかと踏んでいた。

 これまで日本人メジャー選手を中心に多くの選手たちの取材をさせてもらい、時には1対1で話を聞かせてもらい彼らの人間性にも触れることもできた。そうした経験の中で、筒香選手はかなりユニークな存在だと断言できる。彼と言葉を交わす度に、自分が知る日本人選手の中で筒香選手だけが、MLB未経験でありながら日本球界の常識にとらわれない価値観を有している選手だと感じてきた。そうした筒香選手だからこそ、彼が抱く理想のキャプテン像というのも、きっと他の日本人選手たちとは違っているはずだと推測していた。

 今シーズンでキャプテン就任4年目を迎える筒香選手だが、彼はキャプテンとしてどんなことを意識しているのか、改めて本人に確認してみた。

 「僕は自分さえ良かったらという考え方が好きじゃないんです。まずはそこからです。あとは(チームの意識変革が)中途半端だと変わるのも遅いですし…。もちろんゆっくりしか変わっていかないという部分もあるんですけど、中途半端に変わってしまうというか、周りも反応してくれないというのがあるので、こっちが本気で相手のことをちゃんと考えることによって、相手も感じるものがあると思います。だからかたちだけというか、ただワアワア声を出してやるキャプテンというのはまったくないです」

 この言葉を聞いて自分の推測が決して間違っていないことが理解できた。ただ選手たちの先頭に立って声を上げていくのではなく、選手個々と向き合ってチームをまとめようとしている。実にMLBなどのプロ・アスリートと同様の考え方だ。米国でスポーツの取材をしていると、選手や監督、コーチからたびたび「on the same page(同じ意識下にいる)」という言葉を耳にする。チームスポーツで最も重要なのは、選手全員が同じ目標を掲げて意思統一できるか、という考え方からこうした表現を用いる。筒香選手が目指していることは、まさにこの発想そのものだ。

 実は日本では今でも誤解されているのだが、MLBはNPBと違いチームとして戦わず選手がバラバラで戦うイメージが強くないだろうか。だがそれは大きな勘違いだ。MLBは選手の入れ替えが激しく、どの選手にとっても毎シーズンが“一期一会”のようなものだ。だからこそポストシーズンに進出できるようなチームではそのチャンスを絶対に無駄にしたくない思いが強く、戦いを続けながらチーム内にとてつもない団結力が生まれる。かつてある日本人メジャー選手がポストシーズンを戦い終えた後、「こんなにチームのために戦おうと意識したことは日本ではなかった」と明かしてくれたことがあるほどだ。まさに映画『メジャーリーグ』の世界そのままなのだ。筒香選手もそうしたチームの団結力を意識しているようだ。

 「そうですね。それ(目標)を全員が本気で思えることが大事だと思います。僕もまだまだ全然ですけど、本気で全員の選手を見て『この人はこんな感じかな』とか、単純なことでいえば元気があるかどうかとか、気分良く野球をやれているかどうかとか、それを何となく見るんじゃなくて本気で取り組みのことを考えて見るから(選手の状態を)感じ取れる部分があるんじゃないかと思います。

 今は僕が何かやらなくても、みんながそれをやろうとしてくれるというのが…。意識してなのか、自然にそうなってきているのかは分からないですけれども、それは変わってきているなというのはあります。もちろん勝たないとダメですけど、(野球は)偶然性が多いスポーツですし、その1試合を大事に戦っていけば勝手に(チームの流れ、勢いが)ついてくると思うので、やっぱりその1試合に手を抜かないことじゃないですかね」

 筒香選手の説明するところでは、現在のDeNAは勝敗に左右されることなくチームが一つになって目の前の試合をしっかり戦おうという姿勢が確立しているようだ。だから一度チームの流れが好転すると、とてつもない快進撃を生み出せるのだろう。もちろんラミレス監督も筒香選手のキャプテンシーに絶大な信頼を寄せている。

 「今年は自分が監督就任3年目でずっと彼がキャプテンを務めているが、たぶん自分の野球人生の中で若いキャプテンとしてトップの1人に挙げることができる。キャプテンを務める選手は、選手個人の役目とキャプテンとしての役目を分けていかねばならない。自分の調子が悪い時でもしっかりチームをまとめ上げてチームを盛り立てていかないといけない。

 もちろんツツゴウのような主軸打者なら調子が悪ければチーム状態にも大きな影響を及ぼしてしまうし、キャプテンとしても悪い方向にいってしまうこともあるだろう。しかし彼は常にキャプテンとして常に安定しているし、どうやって役目を分けていくかも理解している。自分の調子に関係なくチーム状態をトップに維持してくれている」

 普段メディアに掲載されている筒香選手の発言をチェックしていても、常にチーム中心で個人成績を強く意識していないことが分かる。筒香選手が元気にグラウンドに立っている限り、どんな苦境に立とうともDeNAは大丈夫なような気がする。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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