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新型コロナワクチンの副反応の報道をどのように捉えればよいのか

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

医療従事者に新型コロナワクチンの接種が開始されました。

同時に副反応に関する報道も出てきています。

こうした副反応に関する報道を私たちはどう捉えればよいのでしょうか。

新型コロナワクチン副反応についての報道

2月17日から医療従事者への新型コロナワクチン接種が始まりました。

それに伴い、厚生労働省から副反応が疑われる事例に関する報告も出ています。

テレビや新聞でもこの副反応に関するニュースが報道されています。

ワクチン接種後、副反応疑い2例 初報告、じんましんと悪寒

厚生労働省は20日、新型コロナウイルスのワクチン接種後に、副反応の疑いがある報告が2例あったと発表した。内訳はじんましん1件、悪寒1件。副反応疑いの報告は初めて。

とのことで、軽微な副反応であったようです。

また、このような報道も出ています。

ニュースの見出しに「ワクチン接種後死亡0.003% 米国内で1170件」とあります。

これだけを見ると「ワクチン接種のせいで1170人が死んだのか・・・怖いワクチンだ」と思ってしまいそうです(報道する側にもそのような意図が見え隠れする気がします)。

しかし、実際にはこの1170人の方はワクチン接種をした後に亡くなったというだけで、ワクチン接種と関連があるかどうかは不明です。

例えばアメリカの高齢者施設では2021年1月18日までにワクチン接種後に129人の高齢者が亡くなられたと報告されていますが、これは平時に高齢者施設で亡くなられる方と比べて多いわけではなく、この129人もワクチン接種との因果関係はないだろうと結論付けられています。

というわけで、前者の蕁麻疹や悪寒の報告は新型コロナワクチンによる副反応の可能性が高いと考えられますが、後者の死亡はおそらく関係ありません。

今後このような新型コロナワクチンの副反応に関する報道が「本当にワクチンと関連のあるもの」と「おそらく関係ないもの」とがないまぜになり、流れてくるものと思われますが、そうした報道を私たちは正しく解釈しなければなりません。

副反応、副反応の疑い、有害事象の違いは?

ワクチン接種による効果、副反応、有害事象の関係(第51回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料3を参考に筆者作成)
ワクチン接種による効果、副反応、有害事象の関係(第51回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料3を参考に筆者作成)

新型コロナワクチンは、発症予防効果や重症化予防効果を期待して接種します。

しかし、ワクチン接種は体内に異物を投与することで免疫反応を誘導し、感染症に対する免疫を付与することを目的として行われるため、効果だけでなく副反応も起こります。

例えば、接種後にアナフィラキシーを起こしたり、接種部位が腫れることがありますが、これは副反応と考えられます。

では「接種した次の日に熱が出た」という場合はどうでしょうか。おそらく副反応だと思いますが、もしかしたら接種する前に何らかの感染症に感染していたのかもしれません。完全にワクチン接種のせいだとは言えません。

さらに「接種した次の日にクモ膜下出血になった」という場合はどうでしょうか。たぶんワクチン接種は関係ないだろうと思いますが、100%否定することはできず、ワクチンが惹起する免疫反応が何らかの影響を及ぼした可能性は「ゼロではない」となります。

こうした「副反応の可能性が高いもの」も「副反応の可能性が極めて低いもの」もどちらも同じ「副反応疑い」として報告されることになっています。

これはワクチン接種の透明性を保つ上で非常に大事なことですし、実際に今後報告される稀な重篤な副反応を検出することに役立ちます。

そうした事情から、今後、日本国内でも「ワクチン接種後に死亡」という事例が「副反応疑い」として報告されることになりますが、それをそのまま「ワクチンのせいで死んだ」と捉えてはいけません。

大事なのはその頻度です。

例えば、65歳以上の高齢者は1年間に123万人亡くなっています(平成30年人口動態調査)。

つまり、1日当たり約3400人の高齢者の方が亡くなられています。

今後、高齢者にワクチン接種が進んでいけば、因果関係はなくともワクチン接種後に亡くなられる方は必ず出てきますが、その数が「ワクチン接種をしていない高齢者」と比べて明らかに多いのかどうか、を慎重に評価する必要があります。

先のアメリカの事例だけでなく、ノルウェーでも同様にファイザー社の新型コロナワクチンを接種後に1月26日までに33人の高齢者が亡くなられたものの、接種との因果関係はないと判断しており、末期患者への接種については個々の患者のメリットとデメリットを考慮して検討すべきだが接種方針は変更しないと公表しています。

副反応は一定の割合で起きることが分かっている

ファイザー社の新型コロナワクチンを接種した後の、1回目と2回目の副反応の頻度(CDC. COVID-19 vaccine safety update.January 27, 2021)
ファイザー社の新型コロナワクチンを接種した後の、1回目と2回目の副反応の頻度(CDC. COVID-19 vaccine safety update.January 27, 2021)

副反応がどれくらいの頻度で起こるのか、事前に知っておくことは重要です。

アメリカ合衆国では2021年1月24日までに1200万人以上の人にファイザー社のワクチンが接種されており、v-safeというワクチン副反応トラッカーに報告された副反応についてCDCから発表されています。

この報告によると、接種部位の痛みが最も頻度が高く(67.7〜74.8%)、だるさ、頭痛、筋肉痛、寒気、発熱、接種部位の腫れ、関節痛、吐き気などがみられるようです。

これはインフルエンザワクチンと比べてもかなり副反応の頻度が高いと言えます。

接種した翌日には体調不良で仕事を休まざるを得ない、という人も多く出そうです。

また1回目よりも2回目の方が、それぞれの副反応が起こる頻度は高くなるようです。

接種後にこうした副反応が出ることは、ある程度想定範囲と考えておきましょう。

アナフィラキシー反応が起こる頻度(筆者といらすとや作成)
アナフィラキシー反応が起こる頻度(筆者といらすとや作成)

最も懸念される副反応はアナフィラキシーなどのアレルギー反応です。

実際にアナフィラキシー反応がどれくらいの頻度で起こるのかについてですが、アメリカで約1000万人に1回目の接種をしたところ50人にアナフィラキシー反応が起こった、とのことです。つまりおよそ20万人に1人にアナフィラキシー反応が起こる計算になります。

アナフィラキシーの原因と考えられているのは、両方のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる物質であり、CDCはPEGやポリソルベートなどのPEG誘導体にアレルギーのある人はmRNAワクチンの接種を控えるよう推奨しています。

また、アナフィラキシー反応を起こす人ではサルファ剤や卵などなんらかのアレルギーがあったり、過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人で多くみられることが分かっています。

前述のアナフィラキシーを起こした50人についての詳細を見てみると、

・女性が47人(94%)

・74%の人で接種後15分以内、90%の人で接種後30分以内にアナフィラキシーが出現

・40人(80%)は過去にアレルギーを指摘されていた

・12人(24%)は過去にアナフィラキシーを起こしたことがあった

とのことですので、何らかのアレルギーがある人はワクチン接種後30分程度は特に慎重に様子を見るようにしましょう。

なお、アナフィラキシーを起こした方々は皆さん退院されており、迅速に、適切に対応すれば命に関わることはほとんどありません。

アレルギーをお持ちの方もワクチン接種ができないわけではありませんので、ぜひかかりつけ医に相談してみてください。

正しい知識をもってワクチン報道を評価しよう

ワクチン接種は効果と副反応を天秤にかけた上で接種をするかどうか判断するものであり、100%の安全性を求めることはできません。

また、ワクチン接種による効果は目に見えにくい一方で、副反応は認識されやすく、ちょっとした副反応のニュースも大きく報道されます。

副反応の種類や頻度などをよく知った上で、本当にワクチンに関連した副反応なのかどうかを正しく判断できるようにしましょう。

各メディアに置かれても、この点を十分にご認識いただいた上で、扇動的な報道にならないようにお願いしたいところです。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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