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もう開幕に間に合わない?!鈴木誠也を待ち受ける過酷なスケジュールと煩わしい就労ビザ取得作業

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ロックアウト長期化でさまざまなデメリットを被ることになった鈴木誠也選手(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

【ロックアウト継続でも鈴木選手人気は絶大】

 9日連続の労使交渉でも選手会と妥結することができず、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは現地時間の3月1日、開幕2カード全試合のキャンセルを発表した。

 米メディアの報道によれば、3月3日から場所を変えて交渉を再開するようだが、今後は妥結が1日遅れるごとに、キャンセル数が増えていくという切羽詰まった状況が続くことになる。

 今もロックアウトが継続され、一切の契約交渉ができない中にあっても、鈴木誠也選手に対するMLB各チームの関心が薄らいではいない。いや、むしろ高まりを見せているようだ。

 というのも、今回のロックアウト期間中にMLBが選手会の要求に応じ、今シーズンからユニバーサルDH制の採用を明らかにしたことで、ナ・リーグのチームの戦力補強策に変化が生じているのだ。

 そのためロックアウト前に鈴木選手とエージェントに対し、プレゼンを行ったチーム以外でも、彼に興味を持つチームが現れたと考えられているからだ。

【もう鈴木選手は開幕に間に合わない?】

 すでに日本ではオープン戦がスタートする中、まだ所属先すら決まらない立場は辛いだろうが、ロックアウトが解除されさえすれば、鈴木選手は100%MLB入りできる選手であることに間違いないので、今は焦らず調整して欲しいところだ。

 ただロックアウトの長期化で、すでに鈴木選手が被るデメリットが生じ始めている。シーズン開幕がずれ込んだことで、鈴木選手が開幕に間に合う可能性がほぼなくなってきたのだ。

 今後は労使交渉が妥結し、新しい労使協約が誕生しないと、シーズン開幕日を決めることができない状況になった。

 マンフレッド・コミッショナーは2月の時点で、シーズン開幕するのに1ヶ月間の準備が必要との見通しを示していたが、MLB、選手会ともに、少しでもキャンセルする試合数を減らしたいはずだ。そうなると、1995年にストライキ解除後約3週間でシーズン開幕を迎えた例があるように、さらに短い準備期間でシーズンを迎える可能性がある。

 つまり鈴木選手は長くても1ヶ月未満で、チーム探しから開幕の準備をしなければならないわけだが、ここで他の選手にはないデメリットが生じてしまうのだ。就労ビザの取得だ。

【ビザ取得に4週間かかる見通し】

 単純なことだが、MLBのチームに所属し試合に出場するには、外国籍選手はもれなく就労ビザかグリーンカード(米国永住権)が必要になる。このビザを申請する前段階として、まず雇用契約を結ばないといけない。

 MLB選手の場合P-1ビザの取得が必要なのだが、鈴木選手もまずチームと契約した上で申請書類を作成してもらい、その上で取得手続きを進めていくしかないのだ。

 MLB関係者に確認したところ、「今はバックグラウンド・チェックなどをするので、ビザ取得まで4週間くらいかかるのでは」ということだった。ビザ取得という作業だけで1ヶ月を要してしまうわけだ。

【松井選手や木田投手は契約後すぐにチームに合流】

 ただ2003年の木田優夫投手や2012年の松井秀喜選手は、とりあえずビザ無しで渡米し、現地でドジャース(木田投手)、レイズ(松井選手)と契約した後、ビザ取得前に木田投手はスプリングトレーニングに参加するためキャンプ地に移動し、松井選手はシーズン開幕後に実施されていた若手対象の延長キャンプに合流している。

 そして練習を続けながらそれぞれのチームにビザ申請の手続きをしてもらい、木田投手は日本で(当初は隣国で取得予定だったが、キャンプイン直前に交通事故に巻き込まれたため変更)、松井選手はトロントでビザを取得し、正式にチームに再合流している。

 鈴木選手も木田投手や松井選手のように、ロックアウト解除後にとりあえずビザ無しで渡米し、まずチームと契約を済ませた後、そのまま米国に残留。そしてキャンプ施設か本拠地球場で調整を続けながらチームにビザ申請の手続きをしてもらい、カナダやメキシコの米国大使館でビザを取得し、正式にチームに合流することができる。

 しかし仮にビザ無しで他の選手たちとキャンプ施設で練習できたとしても、オープン戦に出場することができず、かなりの制限を余儀なくされることになる。つまり鈴木選手がビザを取得し本格的に始動する頃には、チームはシーズン開幕に向けキャンプ終盤に差し掛かっている可能性が高いのだ。

 チームとしてもMLB1年目の鈴木選手に無理を強いることはないと思われ、ビザ取得後は個別調整を経てからマイナーリーグの公式戦で実戦感覚を取り戻した後で、シーズン中のチームに合流するというのが理想的になってきそうだ。

 ちなみに2012年の松井選手はレイズ契約後2週間でビザ取得を完了しており、鈴木選手のビザ取得も迅速に完了できる可能性はありそうだ。

【すべてはスピード勝負】

 1995年のストライキ解除後の日程をチェックすると、4月2日にストライキの解除が決まると、5日後には本格的なキャンプに突入し、4月25日にシーズン開幕を迎えている。

 あくまで交渉妥結後にMLBと選手会がどんなスケジュールを組んでくるかによるが、鈴木選手は少しでも早くチームを決めて、ビザ申請を整えていかないと、チームと一緒にシーズン開幕を迎えるチャンスが減少していくことになるわけだ。

 さらに慌ただしく契約を決めなければならないので、十分な住環境の下調べを含め引っ越し準備などできるはずもなく、私生活の部分でも準備不足のまま米国生活をスタートすることになりそうだ。

 いずれにせよ2022年は鈴木選手にとって、とてつもなく慌ただしいシーズンになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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