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池松壮亮に魅せられた山﨑果倫の「統計を分析します」という演技理論。『赤ひげ4』最終回でメインゲスト

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/袴田幸治 ヘア&メイク/亀田達也 スタイリング/Kazu(TEN10)

NHK夜ドラ『作りたい女と食べたい女』に比嘉愛未の同僚役で出演していた山﨑果倫。23日放送の『赤ひげ4』最終回ではメインゲストとして、病気の許嫁をひたすら愛する町娘を演じる。デビュー後、「くすぶっていた時期が長かった」と言うが、来年には主演映画が相次ぎ公開。温もりのある芝居を掲げつつ、演技の方法論はロジカルで独特だ。

地元を出たくてオーディションを受けました

――2015年のオーディションで事務所に入ったんですよね。

山﨑 高校生の頃に受けて、早7年目です。

――その前から芸能界を目指していたんですか?

山﨑 中学3年で進路を考えたとき、一般企業に就職するより個人で武器を持ちたいと思って、高校はデザイン系の学科に入ったんです。そこでデザインの勉強をしながら、地元を出たい気持ちがあって、オーディションを受けました。だから、最初はすごく女優になりたいわけではなかったんです。

――映画やドラマは観てました?

山﨑 よく観てました。両親が映画好きで、小学生の頃から毎週土・日には映画館に行っていたんです。ポップな原作もの、シリアスなミステリー、アニメ……とジャンル問わずにいろいろ観ました。

――その頃、特に好きだった作品は?

山﨑 『ALWAYS 三丁目の夕日』は何度でも観たいと思いました。人と人との温かい繋がりが描かれていて、寄り添って生きるのはいいなと、すごく好きだった覚えがあります。

自己実現と人に勝つことは関係ないので

――学校で人前に出るのは好きだったんですか?

山﨑 小学校でも中学校でも生徒会長をやってました。人をまとめるのは苦手なくせに、人前で発言するのは得意だったんです。生徒会長になって、あいさつ週間ということで校門に立って「おはようございます!」とか、頑張ってやってました。あと、中学では部活が嫌すぎて、出ない口実のために生徒会をやった部分もあります(笑)。

――何部だったんですか?

山﨑 バスケット部です。友だちと一緒に入ったんですけど、本当にヘタくそでした。止まってシュートは打てても動けなくて、試合に出たこともほとんどありません。絵はすごく得意だったのに、なぜ美術部に入らなかったのか。ずっと後悔してます(笑)。

――1年くらい前のインスタに「勝負事をするのはどうしても向いていない。勝っても負けても気持ちが落ち込むんだもん」と書いていましたね。

山崎 だから、スポーツはモチベーションを持ってできないんです。勝ち負けより、寄り添いたくて。自己実現は人に勝つことと全然関係ないと思うんです。人は人、私は私。争うのは自分自身だけという考えは、ずっと変わりません。

上京にはワクワクしかなかったです

――愛知から上京したのはいつだったんですか?

山﨑 16歳のときです。オーディションに受かってすぐでした。卒業とかではないタイミングでしたけど、事務所から「少しでも早く来てほしい」と言われたので。

――地元を出るのが念願だったわけですもんね。

山﨑 東京に憧れていたわけではなかったけど、決まったらワクワクしかなかったです。寮に入ったので生活の不安はなくて、芸能活動の準備に集中できました。ただ、地元では自転車通学で、名古屋にもあまり出なかったので、電車に慣れるのに時間が掛かって。いまだによく間違えます。

――新宿駅での乗り換えとか?

山﨑 あれは本当に泣きそうになりました(笑)。どれが何線かわからなくて、「新宿駅集合」と言われても、どの出口なのか。失敗をたくさん経験しました。

無駄に悩んで長くくすぶっていました

――経歴的には初めは舞台で経験を積んで、来年に掛けて映像作品の公開、出演が相次ぐようですね。

山﨑 舞台経験もそんなに多くなくて、くすぶっていた時期が長かったように感じます。2019年までは堂々と女優業と言えるような活動ではなくて、どうしようかと思っていたら、コロナ禍になってしまって。その分、ワークショップをたくさん受けて、自分と向き合う時間も増えて、やりたいことが固まったら、オーディションに受かるようになりました。それまでは悩んだり迷ったりすることが多かったです。

――くすぶっていた頃は、どんな状況だったんですか?

山﨑 オーディションにもレッスンにも行くけど、うまくいかなくて。自分にできることもしたいことも固まってないのに、「この出演は決めなきゃ」「20歳になっちゃうからヤバい」という不安に苛まされていました。でも、それは本質的な問題ではなくて、無駄な悩みだったんです。だから、頑張っているつもりでも、歯車がまったく嚙み合っていない時期でした。

――オーディションに落ち続けると、精神的にもヘコみますよね。

山﨑 ヘコみますし、「何か違う」という感覚がずっとありました。結局、「私はこうありたい」ではなくて、「評価されないとダメだ」とか年齢に対する焦りとか、外的要因に悩むことが多かったんです。いろいろもがきながら「自分がどうありたいか」という考え方になってから、うまくいった気がします。

『宮本から君へ』と出会ってすべてが変わりました

――自分と向き合って、どんなことが見えたんですか?

山﨑 2019年に『宮本から君へ』という作品に出会って、私のすべてを変えてもらいました。トップの人が今でもここまでやる。そのエネルギーを見せつけられた映画だったんです。観てから、主役の池松(壮亮)さんのインタビューも全部というくらい読み漁りました。そしたら、私ができていなかったことが明確にわかったんです。フワフワ芸能活動をしていて、女優というところを真剣に考えられてなかった。目指すことの本質が見えるきっかけになったと思います。

――池松壮亮さんのお芝居に影響を受けた役者さんは多いようですが、山﨑さんはエネルギーに惹かれたわけですか。

山﨑 相手役に対して“僕にはあなたしかいない”、人として“自分にはここしかない”。そんな一点集中のエネルギーの出し方に憧れました。私も求められたら、ここまでできるくらいになろうと、改めて覚悟を決めました。そのあとに観た『全裸監督』でも、お芝居に体当たりでのめり込んでいる皆さんをカッコいいなと思って。私も自分に誇りを持てるような演技をしていきたいという想いが強くなりました。

――日常も変わりました?

山﨑 私自身、もともとのめり込む性格ではあるので、『宮本から君へ』の影響は今もずっと地続きであると思います。現代歌舞伎の『三人吉三』のオーディションを受けたときは、歌舞伎も観ましたし、主宰の木ノ下(裕一)さんと演出家さんの対談にも行きました。合格したのにコロナで中止になってしまった作品ですけど、そんなふうに、できることがちょっとでもあれば、何でもやるようになりました。熱意を持って徹底的に。「オーディションを受けるだけで、そこまでやる人はあまりいない」と言っていただくことも多いです。

キラキラ女子役では見た目から抜かりなく

――NHKの夜ドラ『作りたい女と食べたい女』で、主人公の同僚の契約社員・高木加奈を演じるに当たっても、いろいろなことをしたんですか?

山﨑 キラキラ女子代表みたいな設定だったので、髪やネイルや肌の手入れにはすごく気をつけました。普段の私はズボラですけど(笑)、髪がボサボサだったり、不節制が見えたりしないように、見た目を抜かりなく。あと、高畑充希さんがキラキラ女子を演じてらっしゃった『問題のあるレストラン』を観たりもしました。

――クリスマスイブに忘年会をするなら行かないとか、高木加奈の思考回路はわかりました?

山﨑 わかります。恋愛体質で難しいことは考えず、ただ恋にまっしぐら(笑)。私は恋バナもしませんけど、好きなことにのめり込むところは共感しました。現場ではひたすら楽しんで、隣りの席の森田望智さんと相談しながら、アドリブでオフィスっぽい動きもしてみました。

――森田望智さんといえば、先ほど挙がった『全裸監督』のヒロインでした。

山﨑 ちょっと『全裸監督』のお話もさせていただいて、「恐縮ですが、すごく好きです」とお伝えしました(笑)。物腰の穏やかな素敵な方で、何にでも柔軟に対応されて、勉強になりました。

富士額なので町娘の和髪は映えるんです

――『赤ひげ4』の最終回にはメインゲストで出演されます。

山﨑 夜ドラでは集団の中にどういるかを考えましたけど、『赤ひげ』は自分をフィーチャーしてもらうので、演じるおくみという役を繊細に作っていきました。

――時代劇は初めてでしたっけ?

山﨑 初めてです。最初はどうしようかと思いましたけど、シリーズの1から3を観たら、そんなに構えなくてもいい作風でした。現代劇っぽいところもあって、時代劇を観たことがない人でもハードルがなく、楽しめるように感じました。

――江戸時代の医者の話で、侍が斬り合ったりするわけではないですからね。

山﨑 江戸の人たちの流れていく日々の中での出来事が描かれていて、私もそこに集中しました。

――かつらを付けたのも初めてですか?

山﨑 以前出演した丸亀製麺さんのCMで、お江戸の町娘という設定でうどんをすすったので、かつらは経験ありました。私は富士額なので、和髪は映えるんです(笑)。

――確かに、今回も町娘感が出ていました。

山﨑 おくみは天真爛漫な明るいキャラクターで、『赤ひげ』では珍しい役柄だから「存分にやって」と言われました。それで、悲しみのところで振り幅をしっかり見せられたらと。

――天真爛漫な役自体はハードルでもなかったですか?

山﨑 私、天真爛漫な役はすごく多いんです。その中でも種類があって、自分が明るいのか、人に輝きを向けているのか。今回は恋人に愛という形でエネルギーを向けていたので、相手を立てる形になるように工夫しました。

いつでも泣けるように自分をギリギリの状態に

――一方で、許嫁の病のことを聞いて、涙が溢れるシーンもあります。

山﨑 撮影日は泣いているカット数がすごく多かったんです。出来上がったら、そんなになかったんですけど。現場では言われたらいつでも泣けるように、常にコップのギリギリに水を張っているくらいの心境でいました。

――本当に溢れ出す感じの涙でしたが、たくさんテイクを撮っても泣けました?

山﨑 はい。自分を繊細な状態に持っていけば、相手の方の台詞をきっかけに、自然と感情が動いてダーッと涙が出ました。人間ってギリギリの状態でいると、誰かのちょっとしたひと言で泣けてしまいますよね。

――そうですね。心が震えやすい感じで。

山﨑 余裕があると、何を言われても「まあ、そうかな」となって泣けない。ギリギリだから涙が出たり、人によっては怒ったりする。だから泣くシーンがあると、私はずっと立っています。座るとリラックスしてしまうので。立ったまま自分の気持ちが落ち着かないようにしておくと、感情が出やすくなるんです。それで、水をたくさん飲みます。

――飲んだ水が涙になるわけではないでしょうけど。

山﨑 でも、ノドがカラカラだと、涙も出にくい気がします。

オーディションに着ていく服は決まってます

――普段は感情の起伏は大きいほうですか?

山﨑 機嫌が良い、悪いは全然ないです。いつもハッピーな人間なので(笑)。でも、涙もろいかもしれません。泣ける映画は絶対泣きますし、最近だとドラマの『silent』でめちゃめちゃ泣きました。『窮鼠はチーズの夢を見る』という映画がすごく好きで、観るたびに何回泣いたかわからないくらい泣いています。

――どの辺のシーンで来ますか?

山﨑 成田亮さんがいつも座っている椅子に他の女の子が座ろうとしたとき、大倉忠義さんが「そこは彼の居場所だから」みたいな感じで座らせないようにするシーンが好きです。些細な場面ですけど、バーッと涙が出ます。「ああ、愛が出ている……」って。

――それはそうと、泣く演技の話でも山﨑さんの方法論はロジカルですよね。

山﨑 統計を取るのが好きなんです(笑)。こうしたときにうまくいった。こうなったらダメだった。そういうデータを分析して、やっています。オーディションに行くときの服も決まっているんです。それで行くようになってから、よく受かっています。

――どんな服なんですか?

山﨑 シンプルな黒のワンピースです。たとえばGパンにTシャツだと、合うときもあれば、カジュアルさが馴染まないときもある。黒のワンピースなら、どんなシーンでどんな役を演じても、ある程度合って見えるし、顔だけを見てもらえるので集中できます。

――集めたデータは文章化しているんですか?

山﨑 日記みたいに毎日つけてはいませんけど、大事なことは全部、仕事メモみたいなものにバーッと書いています。

二度と会えないかもしれないから全部伝えたくて

――来年、『赤い私と、青い君』に『夢の中』と主演映画の公開が控えていますが、その辺の役はオーディションで獲ったんですか?

山﨑 『赤い私と、青い君』はオーディションですね。命懸けで受けました。

――どんなことをしたんですか?

山﨑 伝え漏れはないようにしています。監督の作品について素敵だと思ったこと、役への自分の熱意とか、自己PRや演技で伝え切れたらいいんですけど、漏らしたことがあったら、監督を捉まえて話をしにいきます。

――審査が終わったあとで?

山﨑 「今、お話いいですか?」と。「さっき言われていたのは、こういう意味ですか?」「原作と表現を変えた狙いは何ですか?」とか聞きます。それは受かるための戦略ではなくて。もう二度と会えないかもしれない方に今話さなければ、死ぬまで言えないと思ったら、全部言いたい衝動に駆られるんです。

人に寄り添って温もりがある芝居は得意です

――自分のアピールポイントにしていることは何ですか?

山﨑 性格的に嫌いな人はいなくて、怒ることもすごく少ない人間なんです。昔から喧嘩したこともありません。人に寄り添って温もりを持った芝居は得意ですし、愛情深く演じられるのはアピールポイントです。

――怒る芝居もしつつ?

山﨑 もちろん、これまでもたくさんやりました。でも、根底にはやっぱり愛がある状態で、怒る演技もしています。なぜ怒るかというと、愛している裏返しだったり、「応援しているのになぜ?」ということだったり。私の性格だと、それが怒りという表現にならないだけで、役では同じ感情を怒りに変えればいい。そう分析したら、自然にできます。

――本当に論理的ですね(笑)。

山﨑 気づいたら、そうなっていました(笑)。小さい頃からかもしれません。分析が好きな人間なんでしょうね。学校でも数学が得意で、完全に文系より理系の脳でした。それがあまりいいこととは思っていませんけど、そんな自分に向き合うしかない感じです。

――いずれにしても、日常で怒ることがないのは、心穏やかな感じでいいですね。

山﨑 玉ねぎのみじん切りをすると、無になれます(笑)。料理をしなくても、みじん切りをするときもあります。

落ち着いて話せるように練習しておきます(笑)

――来年は楽しみが多いですね。

山﨑 この2年に撮影して、まだ公開されてなかった作品が多くて、ひたすら溜め込んでいる感覚だったんです。それがやっと出せるのは楽しみです。私は今も発展途上ですけど、もっと未熟だった頃の作品が出るので、ちょっと恥ずかしさもあって。でも、そうした変化も含めて楽しんでもらえたらと思います。

――さらに先の自分まで見据えていますか?

山﨑 何年後にこうなって……みたいな計画はありません。結果的に、私が持っている人一倍愛情深い部分を、多くの人に観ていただけるようになりたいです。

――最近観て刺激になったり、「こういうのをやりたい」と思った作品もありますか?

山﨑 『糸』と『花束みたいな恋をした』の2回目を観ました。人と人が不器用に寄り添う難しさをポップに描いていて、楽しかったです。あと、洋画で13歳の子が宝箱を開けたらタイムスリップして、30歳の体になってしまう作品も面白かったんですけど、題名を忘れてしまいました(笑)。(*ジェニファー・ガーナー主演『13ラブ30』)

――今、自分の重点課題にしていることは何ですか?

山﨑 落ち着いて話すことですかね(笑)。テンパリがちで、よくすごい早口でしゃべってしまうので。今日もずっと、そんな調子で話してしまいました(笑)。

――コミュ力が高くて良いと思います。

山﨑 これから役を演じてない山﨑果倫として、お話しすることも増えると思うので。そういうとき、落ち着いて話せるように練習しておきます(笑)。

撮影/袴田幸治

Proflie

山﨑果倫(やまざき・かりん)

1999年10月8日生まれ、愛知県出身。

2015年にレプロエンタテインメントとソニーミュージックの合同オーディションに合格。2017年に舞台デビュー。ドラマ『イタイケに恋して』、『白衣の戦士』、『作りたい女と食べたい女』などに出演。12月23日放送の『赤ひげ4』(NHK BSプレミアム)に出演。2023年公開予定の映画『赤い私と、青い君』にW主演、『夢の中』に主演。

『赤ひげ4』

NHK BSプレミアム/金曜20:00~

公式HP

(C)NHK
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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