今夜放送! 『風の谷のナウシカ』の王蟲とはどんな生き物? 空想科学で考えると、恐ろしい結論に……!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『風の谷のナウシカ』の舞台は、産業文明を崩壊させた最終戦争「火の7日間」から1000年後の地球。
汚染された大地には「腐海」と呼ばれる菌類の森が広がり、すっかり衰退した人類の脅威となっていた。
菌が少しでも入り込めば、人間の生活圏もたちまち腐海と化してしまうのだ。
そんな状況なのに、人間たちは再び兵器を手に入れ、争いを起こそうとしている……!
この魅惑の物語で、欠かすことのできない存在が王蟲だ。
特異なフォルムを持つこの巨大生物は、体長が80mにも達するという。
腐海の象徴的な存在であり、『ナウシカ』のストーリーの根幹にも関わってくる。
本稿では、この王蟲がどんな生物であるかを考えてみよう。
なお、『ナウシカ』の原作マンガは映画公開後も描かれ続け(完結は映画公開の10年後)、結果的にアニメは原作の最初の部分を描いたものとなった。
王蟲や腐海についても、原作の終盤でアニメでは語られなかったヒミツが明かされるが、ここではそれに触れず、広く知られている劇場アニメでの描写・設定をもとに考えてみたい。
◆王蟲はどんな生物か?
王蟲は、いかにも硬い表皮に包まれた節足動物という姿で、10くらいの体節が連なった構造だ。
14個の大きな目と、多数の小さな脚を持つ。
現在でも、王蟲によく似た生物は多い。
それらは「等脚類」に分類され、多くは海に棲むが(フナムシは海岸、ダイオウグソクムシなどは深海)、陸の湿気の多いところや(ワラジムシやダンゴムシなど)、湖や川にも棲むものもいるという。
等脚類すべて合わせると、なんと5千種類。それぞれの環境に合わせて、逞しく進化してきた生物なのだ。
そう考えると、「人間は5分で死ぬ」という腐海の環境でも、等脚類の王蟲が生き残ってきたというのはナットクできる話である。
では、王蟲はどんな生物なのか?
好物はムシゴヤシで、これは高さ50mにも達する腐海の植物だ。
王蟲が食べるのがその名の由来というから、つまり「蟲肥やし」ということだろう。
これを食べるということは、たぶん王蟲は草食動物。
そして、14もの目を持つからには、それで周囲を警戒しているのでは?
腐海には、ウシアブや大王ヤンマ、ヘビケラ、ミノネズミなど、オソロシそうな生物がたくさんいる。
王蟲は最大80mにも成長するから、そこまで大きくなったら天敵もいないだろうが、幼体の頃には被食の危険があるのではないだろうか。
筆者が気になるのは、王蟲の14の目のすべてが、体の前部についていることだ。
後方は見えづらいはずで、とくに幼体のときはこれが大きな弱点かもしれない。
そう考えるなら、王蟲は群れで行動し、幼体を守るように成体の王蟲たちが取り囲んでいるのでは……。
実際に劇中では、王蟲が大きな群れで驀進するエピソードが、物語のヤマ場となっていた。
◆暴走するとコワイ!
その王蟲の爆走だが、本当にすさまじいものだった。
原因は、大国トルメキアに蹂躙された小国ペジテが、トルメキア軍を攻撃するために、王蟲の群れを風の谷に誘導しようとしたから(ヒドイ)。
さらわれ、傷つけられた幼体を救おうと、数えきれないほどの王蟲の大群が走ってきた。
トルメキア軍のクロトワは戦車隊で砲撃するが、効き目がない。
クシャナは、よみがえらせた巨神兵にビームを放たせ、ものすごい爆発が起きたが、それでも王蟲の群れは止まらなかった。
撃った巨神兵のほうが「腐ってやがる」(クロトワ)で、一気に崩れ落ちてしまう。
前述のとおり、成体の王蟲の体長は80mである。
劇中の描写から、体高、体の幅とも40mほどと思われ、すると体重は、筆者の推定だと3万2千t。
こんなのが仮に500匹の集団でやってきたら、総重量はアッと驚く1600万tだ。
しかも王蟲は、めちゃくちゃ速い。
劇中の王蟲の群れが画面を斜めに横切るシーンで、1匹の王蟲の頭が画面のフレームに触れてから尻尾が見えなくなるまでの時間を測定してみると、たったの0.98秒。
つまり王蟲たちは、自分の体長と同じ距離をほぼ1秒で走っている。
速い! そのスピードは秒速80m=時速288kmだ。
東海道新幹線の営業運転速度は時速285kmだから、王蟲はそれを上回る!
そして王蟲500匹が時速288kmで暴走してくるというのは、新幹線36万4千両が一挙に押し寄せてくるようなもの。
あまりにもオソロシイ!
ナウシカは、こんな王蟲の大群の前に身をさらけ出すのである。
そして、王蟲たちはナウシカの心を受け止め、それがラストシーンにつながっていく……。
大ババさまが「なんといういたわりと友愛じゃ。王蟲が心を開いておる」と胸に響くことを言われるが、空想科学で考えると、その言葉はますます重く感じられる。