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台湾でもマラソンが人気 日本とは雰囲気が違う、台湾人が運動するのは公園

田中美帆台湾ルポライター、翻訳家
スタート地点の様子。「馬拉松」とは「マラソン」の中国語(写真提供:内田英利)

台北マラソン、ハードルは交通規制?

 「アップダウンが少なくて、走りやすいコースだなと思いました」

 そう語るのは、都内でフィットネスのインストラクターを務める内田英利さんだ。今年初めて台北マラソンに参加した。去年は申し込みがうまくいかず、参加が叶わなかった。だから二度目の挑戦で、めでたく初挑戦・初完走となった。

 2018年12月9日、早朝6時半、天候は小雨。先月の統一地方選挙で、辛くも2期目に突入した柯文哲台北市長による号砲で、市政府前広場をスタートした。

 日本から参加した人たちにとっては、この日の雨も少しは追い風だったかもしれない。というのも、台北の気温は数日前まで25度を超しており、日本なら「夏日」の状態だったのだから。週の半ばから徐々に気温が下がり、大会当日、朝から雨が降って寒いくらいの気温になった。

 例年12月に開催される台北マラソンは、1986年に始まった。といっても90年代は、市内を走る交通機関建設のため、開催が中断されていた。再開されたのは、2001年に入ってからのこと。42.195kmを走るフルマラソン、21.0975kmのハーフマラソンに加え、約2kmのファンランなど、多様な参加形態が見られた。2018年はフルとハーフの2種だった。

 フルは5時間半、ハーフは3時間という制限時間が設けられている。東京マラソンのフルが7時間というやや緩やかな制限であるのに比べると、ハードルは高めだ。制限といえば、参加人数にも、フル7,000人、ハーフ20,000人と決まっている。万年交通渋滞気味の台北で、市内全域に交通規制をかけるのは、なかなか難しいのだろう。

 ちなみに日本からは、公式サイトや大手のエントリーサイトから応募が可能だ。

初の海外マラソンでハーフを走りたい人におすすめ

 コースは、台北市政府と台湾総統府をつなぐ幹線道路に始まり、南国らしいヤシの木やガジュマルを横目に、台北のシンボルタワー101ビルを通って市政府前に戻ってくる。市内の主要なポイントは押さえられている。

 2018年の結果は、男子トップは2時間16分59秒でゴール。首位となったAredom Tiumay Degefa選手をはじめ、上位をケニア勢が占めた。女子トップは2時間29分48秒で北朝鮮のJo Un-ok選手が1位となった。いずれも大会記録更新には及ばなかった。

 一般ランナーにとって、この大会はどう見えたのだろうか。改めて内田さんに聞いてみた。

 「参加グッズが充実しているな、と思いました。まずTシャツが2枚あるんですよ。参加者全員に配られるものと、完走者に配られるもの。これは日本の大会でもあまりありませんし、参加費から考えるとお得感がありますね。完走メダルも重量感あってかっこいいですし。すごくいいなと思ったのは、預け荷物用のかばんが100元で提供されていること。これは盗難防止という点で日本でも取り入れたらいいなと思いました」

布バッグは100元、防水バッグはやや高め(写真提供:内田英利)
布バッグは100元、防水バッグはやや高め(写真提供:内田英利)

 大会運営という意味では、合格点と受け止められたようだ。

 「ただ、コースがちょっと残念でした。後半がずっと川沿いで、沿道で応援する人もいなかったので、初マラソンの人だとちょっとツラいかもしれません。逆に言うと、サブ4、サブ3と自分の記録を狙いたい人には、アップダウンも少ないし、走りやすくていいコースだと思いましたね」

 フルのコースは、毎年、微調整されている。沿道の応援がないのは寂しいかもしれないが、ハーフのコースは川沿いが少ないことを内田さんに告げてみた。

 「ああ、そうなんですか。それなら初の海外マラソンでハーフを走りたい、という人におすすめしたいですね」

日本との時差は1時間、ホノルルマラソンに比べるとかなり割安

エイドで提供された台湾バナナ。マンゴーは夏場の果物なので残念ながらこの時期にはない(写真提供:内田英利)
エイドで提供された台湾バナナ。マンゴーは夏場の果物なので残念ながらこの時期にはない(写真提供:内田英利)

 海外のマラソン大会として知られるのは、台北マラソンと同じ日に開かれたハワイのホノルルマラソンだろう。1985年に日本航空(JAL)がスポンサーとなり、旅行会社のツアーが組まれたことなどもあって日本人のエントリーは半数近くに上り、リピーターも多い。東京や台北と大きく違うのは、地方自治体ではなく非営利組織が主催となっていること。参加人数にも完走時間にも制限がかけられていない。沿道には個人エイドが並び、誰もがランナーに声をかけることが、もはや町のカルチャーになっているといっていい。

 そういう意味では、市長が号砲を鳴らしたりはするものの、なんというか、台北は街も人も含めて丸ごとで応援、という様子はない。

 ホノルルはすでに50年近い歴史を重ねている。それに比べたら2001年になって再開した台北はまだまだ発展途上といっていい。ただ、台北市内はホテル施設も充実し、交通も便利になっている。大会発展の余地は十分にあるのではないか。

 ホノルルマラソンの人気が高いのは、制限時間がないことがあげられる。時間のプレッシャーがない上に、コース全般に渡って沿道の応援がある。ランナーの気持ちは折れにくい。ただし、旅費、19時間の時差、移動時間などなど、参加までのハードルは低くない。台北なら、日本との時差は1時間、LCC便もあり、ホノルルに比べればかなりコストダウンが見込める。

 最近、海外マラソンではタイの大会に人気があるそう。ただ、タイよりも近いのに、台北には日本からの参加者をあまり見かけない。内田さんは言う。

 「旅行会社のツアーとかもありますが、台湾にこういった大会があること自体、あまり知られてないんじゃないかと思います。私は今回、来てみてとてもよかったので、来年はフルマラソンを走るお客様を連れてきたいなと思いました」

 毎週末、全国各地でマラソン大会の行われる日本に比べると、台湾ではマラソン大会の開催回数そのものは決して多くはない。台北のほかには、地方都市や離島で行われる大会がある。

 以前、本欄でご紹介した台湾東部の花蓮では、台北マラソンの翌週にマラソン大会が開催された。こちらはフルの制限時間が6時間半、ハーフが3時間半と台北よりもやや長い時間が確保されている。東海岸の海沿いを眺めながらのコースで、盆地の台北と比べるとややアップダウンがある。公式サイトでは、近隣ホテルの優待サービス情報に加えて、スタート地点までの距離や、提携するゲストハウスの割引情報などもあわせて紹介されている。このあたりは、日本のマラソン大会とあまり変わらない。

学校の運動場は夜に一般開放 日本と異なる台湾の運動習慣

夜9時前の様子。芝生ではフットサル、トラック脇では社交ダンスに太極拳、筋トレなど、思い思いの姿が見られる(撮影筆者)
夜9時前の様子。芝生ではフットサル、トラック脇では社交ダンスに太極拳、筋トレなど、思い思いの姿が見られる(撮影筆者)

 日本でランニングブームが起きたのは、東京マラソンの始まった2007年前後だろう。今では日頃から走る習慣を持っている人も少なくない。マラソン大会の数などから考えると、台湾ではマラソンは一般的なスポーツではないのかもしれない。

 では、台湾の人たちは、どんな運動の習慣を持っているのだろうか。日本の文部科学省にあたる台湾教育部は毎年「運動現況調査」を行っている。データを見てみよう。

 1位 散歩、ウオーキング 53.2%

 2位 ジョギング     24.4%

 3位 登山        11.6%

 4位 サイクリング    11.4%

 5位 バスケットボール  10.9%

 6位 水泳         6.9%

 7位 ピラティス、ヨガ   6.7%

 8位 バドミントン     5.2%

 9位 武術など       2.9%

 10位 エアロビクス    1.7%

 散歩やウオーキングが圧倒的に多い。また、日本ではマイナーの類に入るバスケットボールが5位にランクインしている。これは、公園に大抵バスケットコートやゴールが設置されている、つまりはスポーツ人口そのものが多いといった背景がある。さらに同調査では、運動する場所の統計として次のようにまとめられていた。

 学校の運動場 38.7%

 公園     34.0%

 歩道/道路  15.6%

 国民スポーツセンター/運動公園 10.0%

 学校の運動場は、夜になると一般開放される。何度か行ったことがあるが、校庭を歩いたり走ったり、飛び跳ねたり……とにかく思い思いに運動していた。また台北市内の公園では、平日週末、朝晩問わず、走る、歩くだけでなく、踊る、乗る、これまた思い思いに運動する姿が見られる。もちろん昼間の公園では、運動だけでなく、シャンチー(象棋)と呼ばれる中国将棋をする人や、お年寄りの日向ぼっこ、さらにはおしゃべりする人、犬の散歩をする人など、さまざまな姿がある。公園では夜間でも運動している人数はかなり多く、日本のように夜の公園が怖い、というような印象はない。

 こうしてみると、スポーツの習慣や公園の利用法など、日本と台湾ではさまざまな違いが見えてくる。違いといえば、内田さんが台北マラソンで一番驚いたことがあった。

 「35キロ地点のエイドで、台湾ビールが配られていたんです。いやあ、ビールが出る大会って日本では聞いたことありません。あんまり驚いて、めちゃくちゃ笑っちゃいました。もちろん私は飲みましたけどね」

 どうやらビールは私設エイドで準備されたものだったようだ。主要スポットはしっかり回るし、台湾ビールも飲めるとなると、台北マラソンもまた一味違った観光の形といえる。

台湾ルポライター、翻訳家

1973年愛媛県生まれ。大学卒業後、出版社で編集者として勤務。2013年に退職して台湾に語学留学へ。1年で帰国する予定が、翌年うっかり台湾人と国際結婚。上阪徹のブックライター塾3期修了。2017年からYahoo!ニュースエキスパートオーサー。2021年台湾師範大学台湾史研究所(修士課程)修了。訳書『高雄港の娘』(陳柔縉著、春秋社アジア文芸ライブラリー)。

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