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全米オープン:プレッシャーを乗り越え、3回戦進出の大坂なおみ。その期待はファンと共に膨らんでいく――

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

○大坂 63,46,75 D・アレルトワ(チェコ)

 大きな勝利を得たあとの試合が、何より難しい――それは多くの選手たちが、ほぼ異口同音に唱えること。初戦で前年優勝者のA・ケルバーをセンターコートで破った大坂なおみも、その困難なタスクに直面したことを認めます。

「ケルバーに勝った後の初めての試合だと思ったら、自分に期待しすぎてしまった」

 困ったような笑みを浮かべて、大坂が続けます。

「今朝起きた時や、練習でも大丈夫だった。でもラウンジからコートに向かう時に、色々と考えすぎてしまった。だって、コートまで凄く遠かったんだもの!」

 ケルバー戦の舞台は、ラウンジを出て階段を下り、短い通路を抜ければそのまま大歓声が待つセンターコート。しかし2回戦が行なわれたのは、会場内を数百メートルほど歩き、観客たちの間をすり抜け達する“コート13”。その時間と状況が、彼女をナーバスにしたと言います。

「どこか、心ここにあらずだった」

 コートに立つ彼女は、不思議な浮遊感のなか、自分が集中しきれていないことを感じていました。

 しかしそんな大坂を奮い立たせたのもまた、コート13を満たした高揚感だったでしょう。溢れ出た観客が隣のコートのベンチにつま先立って覗き込むほどに、熱気と好機の目に包まれるスタンド。それらファンの大半は、大坂に向け声援を飛ばしました。もちろん「がんばれ、なおみ!」などの日本語の掛け声もありますが、それ以上に圧倒的に多かったのが、「C'mon Naomi!」「You can do it, Naomi!」などの英語での声援。アメリカのファンも大坂を見るため、そして彼女を応援するために、コート13に集っていたのです。

 それらの声に呼応するかのように、この日の大坂は自らもポイントを決めるたびに「カモン!」と叫び、拳を振り上げます。

「私が『カモン』と叫ぶのは集中力をあげたい時。今日は良いプレーができなかったけれど、自分を奮い立たせることが大事だと思った」

 第3セットも互いにブレークを奪い合い、流れが定着せぬもつれた展開に。それでも最後の最後に抜け出した大坂が、時速116マイルのエースで混戦を締めくくります。相手がチャレンジし、モニターの映像がラインを捉えるボールを大写しにした時、彼女はようやく、安堵の笑みをこぼしました。

 昨年は、初戦で地元アメリカのバンダウェイと同じコート13で戦い、その時は「文字通り、すべての観客が相手を応援していた」と振り返る大坂。「だから今年は、私に向けられた声が多くて嬉しかった」と言い彼女は目尻を下げました。

 一方、大坂を応援していたファンたちは「ケルバーの試合をテレビで見て、実際に見たいと思った」「彼女を紹介していた番組を見た。フロリダを拠点にしていて、NYにも子どもの頃居たと聞いて応援したくなった」と、それぞれ理由を語ります。そして全員が声を揃えたのが「彼女の試合は、見ていて楽しい」ということでした。

 ケルバーを破ったことで、大坂自身が覚えた、自らへの大きな期待。それは同時に会場に足を運ぶ多くのファンが、興奮とともに抱くものでもあるようです。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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