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「逃げて吹っ切ることも大事」 岡崎紗絵が理想と現実のギャップを越えて掴んだ連ドラ主演

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「花嫁未満エスケープ」製作委員会

結婚適齢期のアラサー女性が今カレと元カレの間で揺れるドラマ『花嫁未満エスケープ』で、岡崎紗絵が主演している。デビュー10年、26歳で初めての連ドラの主役。順調に見えた女優業の中でぶつかった壁、そして、この作品を通じて考えた結婚と恋愛について聞いた。

台本で最初に出ている自分の名前にドキッと

総合電子書籍ストア「ブックライブ」で100万ダウンロード突破の小川まるにのコミックをドラマ化した『花嫁未満エスケープ』(テレビ東京系)。アパレルショップ店長の柏崎ゆう(岡崎)は、つき合って7年、同棲して5年の松下尚紀(中川大輔)が結婚に踏み切らないことにモヤモヤしていた。28歳の誕生日に怒りを抑えきれず、家を飛び出して帰省した先で、高校時代の元カレ・深見一(浅香航大)と再会する。

――毎回、台本の最初に自分の名前があるのでは、気分良いものですか?

岡崎 見慣れてなくて、ドキッとします(笑)。責任感が出て「ちゃんとしよう」と思います。

――現場で座長っぽいこともしているんですか?

岡崎 あまりそういうことはしていません。座長1年生なので、気張らないようにしていて。いつものペースが崩れると自分を保てなくなりそうで、フラットでいることが一番だろうなと思っています。

――一度気張って何かをしたうえで、そう思ったんですか?

岡崎 いえ、まず「座長って何だろう?」というのがわかりませんでした(笑)。私は「ついてこい!」というタイプでないので、リーダー感はないと思うんです。ひとつひとつのシーンにちゃんと向き合って、全力を尽くすだけかなと。現場で皆さんがやさしくて、私が「しっかりしなきゃ」と思いすぎなくてもいい雰囲気で、救われています。

――だんだん役の番手が上がってきて、そろそろ主役が来そうな予感もありませんでした?

岡崎 そんなこと、なかったです。最初にお話をいただいたときは「えーっ、私が? 大丈夫かな……」と思いました。

――いずれ主役をやりたい気持ちはありつつ?

岡崎 はい。なので、今回経験させていただいて、すごく嬉しいです。

想いだけが強くても良い結果を生まなくて

――女優デビューしてから、ずっと右肩上がりで来てはいますよね?

岡崎 考えたら、昔は主役をやらせていただくことは想像もしていなかったので、本当にありがたいです。いろいろな作品を経験させていただいて、それぞれの現場で勉強したこともたくさんあって、自分の成長を感じられることは増えてきました。

――「どんどん上がっていける」と思っていたら、どこかで一度落ちたとか、そんなことはなかったですか?

岡崎 『教場Ⅱ』のとき、上がっていけそうというより「やるぞ!」という気持ちが先行しすぎて、実際の自分とかけ離れていて。すごくしんどかったことはありました。

――警察学校の優等生だったのが、妊娠して悩む役でした。

岡崎 頑張りたい想いだけが前に前に進んで、自分の実力というか、出せるものとギャップがありすぎて、ショックを受けました。やりたいことができない。それが本当に悔しくて、どうしたらいいのか、もがいていました。

――でも、乗り越えたんですよね?

岡崎 乗り越えられたかはわかりません。でも、できないことを自分で認められたのは大きかったです。理想だけで突っ走って、足元を見てなかった。もっと現実を見たうえで、今の自分がどうするかを考えるべきだなと。想いだけが強くても良い結果は生まないと、勉強になりました。それが今、主演だからといって気張りすぎないことに繋がっています。

――なるほど。

岡崎 主役はこうあるべきとか、リーダーとして引っ張らないとダメとか、自分で決めつけてしまうと、できなかったときに本当に落ち込んでしまうんです。今はやっぱり勉強の時期。自信が付いて、もっと周りを見る余裕も生まれたら、主演として何かが出てくるのかもしれません。

不安材料がある状態では歩き出しません

――『花嫁未満エスケープ』のゆう役のキャスティングについて、村田充範プロデューサーは「バリバリと仕事をこなし、芯のある女性というイメージはハマり役」とコメントされています。自分でもハマる感じはしました?

岡崎 そういう役をいただくことは多いです。正義感が強くてハキハキしていたり、仕事ができるイメージを持たれているかもしれませんけど、私自身は全然そんなことはなくて(笑)。でも、今回のような恋愛作品は初めてですし、いろいろ心が揺れるキャラクターも今まで少なかったので、面白いです。

――ゆうは本当に悩みすぎなくらいで、真面目すぎる印象もあります。

岡崎 真面目ですよね。すごくやさしいゆえに、いろいろなことに真摯に向き合っては、自分でこんがらがって(笑)、「どうしよう?」となってしまうところがあると思います。そういう人だから、何ごとも自分で考えて、安心できる道を確実に歩んでいて。不安材料があったり、何かが明確になっていない状態で歩き出すことを、嫌っているように思いました。

――岡崎さん自身もそういうタイプですか?

岡崎 わりとそうかもしれません。自分で納得してからでないと動けないので。

――動きながら考えようとはしないと?

岡崎 そうですね。ちゃんと「こうしよう」と思ってから前に進む感じです。だから、人より動きが遅いかもしれません。

――女優業でいえば、撮影に入る前に、役についていろいろ考えて臨むわけですか?

岡崎 そういうタイプです。今回のゆうだと2人の男性の間で揺れていて、7年つき合っている尚くんとの過去を思い出したり、再会した元カレの深見くんと向き合えているのか考えたり、頭の中が目まぐるしく動いているんです。そこを自分がわかってないといけないと、常に意識しています。

面倒を見すぎているうちにすれ違って

――真面目ということだと、ゆうは尚紀と同棲するマンションを出たのに、深見の家を不在中に使わせてもらうことにも後ろめたさを感じていて。

岡崎 「いいのかな」と思いながら、深見くんの家にお邪魔しますけど、(職場の同僚の)美沙さんと亜衣ちゃんの言葉もあったからで、1人で考えていたら、どうしていたかわかりません。背中を押されて、ちょっと深見くんに寄り掛かってもいいかなと思った結果、一歩踏み出す行動でした。

――1話で尚紀はゆうに「お腹すいた」とか「朝7時に起こして」とか言ってばかりで、観ていて「早く別れればいいのに」と思いました(笑)。

岡崎 お子ちゃまぶりが炸裂していましたね(笑)。私もひどいなと思いましたけど、7年も一緒に歩んできた大きさもわかります。恋人というより家族みたいになっていて、誕生日すら忘れられて「私の存在って何?」という。でも、そうなってしまったのは、面倒を見すぎたゆうにも原因があって。尚くんが「ゆうちゃんは俺の面倒を見るのが喜びなんだよ」と言っていたのは大間違いですけど、そこにすれ違いがあるんですよね。それでも情があって離れられないのは、やっぱり7年の歳月の大きさだと思います。

――尚紀が靴下とかを脱ぎ散らかしているのも、意外とストレスになりそう?

岡崎 できれば片付けてほしいですね。でも、あれも2人の中で普通のことになってしまったんだろうなと。一緒に生活していると、相手の見えてなかった人間性が見えてくる。そこから、どう歩んでいくか。尚くんとは大学時代からつき合っていますけど、その頃とは関係性が全然違っていて、私自身も考えさせられました。

誕生日を忘れられたら別れる勢いになりそう(笑)

――岡崎さんは「今は結婚が現実的でない」とコメントされていますが、昔は何歳くらいで結婚すると思っていました?

岡崎 20代前半か今くらい(26歳)にはしていると思ってましたけど、全然でしたね(笑)。結婚願望はあるんです。でも、今は自分の中で遠くて、あまり考えられません。結婚観や恋愛観を作品を通して考えさせられているところです。

――原作について、「自分だったらどうするだろうかと考えが膨らんで、なかなか先に進むことができませんでした」とのことですが、特に考えたシーンはどの辺ですか?

岡崎 ドラマの1話の誕生日を尚くんに忘れられたところで、自分だったらどうするか、何て言うかはすごく考えました。

――岡崎さんだったら、何て言いますか?

岡崎 だいぶショックだと思うんですね。けど、やっぱり7年のつき合いは相当長いし、自分には経験ないので、どういう心境なのか。つき合って1~2年で誕生日を忘れられたら、たぶんもう別れる勢いで、家を出たまま帰ってこないでしょうね(笑)。7年経っていたとしても、そこで破局するパターンもあるでしょうし、いろいろ考えましたけど「ちょっとひどいな」というのはありました。

演じてみたら予想外の感情が溢れてしまって

――その1話の「私、28歳になっちゃったよ」のシーンだったり、言い争いやケンカの場面はエネルギーを使いますよね。

岡崎 すごく使いました。当初はそんなに気持ちをぶつけ合う感じではなかったんです。台本を読んでいたときは、7年でここまで来ていると、急にスラスラ言葉が出ないと思っていたんですけど、やってみたら感情が溢れてしまって。監督や中川さんと話し合って同じ方向を向いて、すごく疲れましたけど充実感のあるシーンになりました。

――掛け合いの中で、自分で思いもよらなかった感情が生まれたんですね。

岡崎 本当にそうです。お芝居は相手の方があってこそ。想像してなかった返しで自分が持ってきたものが違うとなったり、影響のされ合いですね。そこからすごくいいものが生まれたと思います。

――さっきの右肩上がりの話で、岡崎さんも今は自信を持って演技をしている感じですか?

岡崎 あまり自信があるタイプではないです。ただ、ひとつのシーンに向き合って、そこでどうしていくか、考えられるようになったのは成長だと思います。昔の自分自身と対比したら、そこは自信あるかもしれません。

お互い自立して言い合えるのが一番

――岡崎さんは人の結婚式に出たことはあるんですか?

岡崎 1回だけあります。3年くらい前、初めて友だちの結婚式に出て、素敵だなと思いました。今までの歳月を思い出して「大人になったな」と、大泣きしました(笑)。

――結婚生活の理想はあるんですか?

岡崎 お互い寄りかかりすぎないのは大事だなと、尚くんを見ていて余計に思いました。それぞれ自立しているのが理想。どちらかが支えて、どちらかが寄りかかるようなポジションが決まってしまうと、支える側の負担が大きくなると思うんです。辛いときもそれを見せられなくなってしまって。フェアな関係なのが一番いいですね。

――言いたいことは言い合えるような?

岡崎 そうなれたら素敵ですね。自分がしたいことは相手に伝えるべき。ゆうの「待ってるだけじゃダメなんだ」という台詞は、私自身の心に響きました。

――友だちや家族とはケンカになることはあります?

岡崎 あまりないです。友だちにはイヤと思うこともそんなになくて。でも、家族には気になることがあれば、ためらわずに言います。話したほうがモヤモヤしないし、その場で解決できれば一番平和なので。

温かいお茶を飲むのが幸せです(笑)

――『花嫁未満エスケープ』には「ゆうにとっての幸せは何?」と聞かれる場面もあります。岡崎さんにとっての幸せは何ですか?

岡崎 一瞬「エッ?」となっちゃいますね。とにかくみんなとハッピーにいたいですけど、自分にとっての幸せとなると、何ですかね?

――みんなが幸せだと自分も幸せ?

岡崎 そうなんです。空気感がいいことが幸せです。自分にも返ってくることだし。

――だから岡崎さんはいつも、現場で明るく、周囲にやさしくしているんですか?

岡崎 みんなが楽しければ、その空気感は作品に出るし、私の居心地も良くなります。

――では、ゆうが同棲していたマンションから逃げ出したように、人生でエスケープしたいと思ったことはありますか?

岡崎 私は常に「逃げたら負けだ」と思っていて、たいていのことは受け止めます。逃げ出したい気持ちはあっても頑張って、ボロボロになって修復が大変(笑)。でも、逃げることで吹っ切れて、逆に良かったりもするんですよね。そのあんばいが私はうまくなくて。すべて逃げないでやることがいいかというと、そうでない場合もある。一度フッと力を抜いてみるのも大事ですけど、私はそれを逃げだと考えてしまって、ただ自分を苦しめていることがあるんです。良い方向に逃げることもアリだと思いつつ、基本的には逃げられません。

――さっきの「自分にとっての幸せ」は大きなことで考えていただいたと思いますが、日常の小さいことで幸せを感じたりはしませんか?

岡崎 最近は温かいお茶を飲むのが幸せです(笑)。現場にも紅茶とかルイボスティーとか、いろいろなお茶っ葉を持って行って、お湯を沸かして飲んでいます。

――そこはちゃんと力を抜いていて。

岡崎 お茶でホッとします。そういう年齢になってきました(笑)。

Profile

岡崎紗絵(おかざき・さえ)

1995年11月2日生まれ、愛知県出身。

『ミスセブンティーン2012』に選ばれ、『Seventeen』モデル卒業後の2016年から『Ray』専属モデルに。女優として2015年に『脳漿炸裂ガール』で映画デビュー。主な出演作はドラマ『パーフェクトワールド』、『アライブ~がん専門医のカルテ』、『教場Ⅱ』、『ナイト・ドクター』、『ドクターホワイト』、映画『ReLife』、『午前0時、キスしに来てよ』、『mellow』、『シノノメ色の週末』など。ドラマ『花嫁未満エスケープ』(テレビ東京系)に出演中。

木ドラ24『花嫁未満エスケープ』

テレビ東京系/木曜24:30~

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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