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「新・ガザからの報告」(21)(2024年10月18日)―シンワールの殺害の反応・前編ー

土井敏邦ジャーナリスト
ハマスの最高幹部シンワルの殺害を伝える「ハアレツ」(英語版)の記事(撮影土井敏邦

【分かれる民衆の反応】

(Q・シンワールが殺されたことを、いつ、どのように知ったのですか?

 昨日(17日)の午後には、イスラエルのメディアやアラブのメディアなどに「緊急ニュース」として報道され始めました。当初、イスラエル軍は、「我われがパレスチナ人を暗殺した」と発表しました。「この男の姿がシンワールの顔に似ていたが、本人かどうかわからない、だからDNA検査など、いくつかの検査を行う予定」とのことでした。

 ご存知のように、シンワールはイスラエル国内のイスラエル刑務所の囚人でした。イスラエルは彼の血液型やDNA、その他の健康情報もすべて把握しています。確認が得られるまで、2、3時間待たされました。確認されたのは夜7時半頃でした。イスラエル軍は、この死亡した人物はガザ地区で最重要指名手配犯であるヤヒヤ・シンワールだと発表しました。

(Q・あなたの町では、一般住民はシンワール暗殺にどう反応したのでしょうか?ハニーヤが暗殺された時とどう違いますか?

 同じです。基本的には同じです。人びとの反応は分かれています。ある者は喜び、祝っていますが、一方で悲しむ者もいます。地下トンネルではなく、地上で戦いながら死んだ戦士であり、英雄だとみなす人もいます。

 シンワールはイラクのサダム・フセインと共通している点があります。サダム・フセインは、アラブ諸国ではほとんどの民衆が愛しています。イラク国外では、彼は英雄、スーパーマンです。

 しかしイラク人の大半は彼を嫌っていることがわかるでしょう。同じことがガザにも当てはまると思います。ハニーヤやシンワールは、外のアラブ諸国でほぼすべての国民から愛されています。彼らは英雄であり、パレスチナの解放のためにイスラエルに挑み、欧米の帝国主義に立ち向かおうとしている戦士であると信じています。

(Q・ハニーヤが殺されたとき、あなたは「60~70%の人びとが喜んでいる。もしシンワールが殺されたら90%の人が喜ぶだろう」と言いましたが、そうなりましたか?)

 率直に言って、そうなりませんでした。私は「おそらく90%の人が喜ぶだろう」と予測していましたが、実際はそうではなく、ハニーヤ暗殺の時と同じくらいの割合、つまり喜んでいるのは60~70%だと思います

 もちろん彼らには支持者たちがいます。ハマス内部ではシンワールが殺されたことに大きな悲しみ抱いています。イスラム聖戦のような他のイスラム系グループでも同じく悲しみを共有しています。左派系のPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のようなイスラム系以外のグループ、支持者たちもそうです。しかし一般民衆の多くはシンワールやハニーヤの死を祝っています。

Q・昨年秋、つまり1年前には、あなたは「町の多くの一般住民がシンワールを罵っている」と言いました。今回はそうではないんですか?)

昨日からずっと私はSNS(ソーシャルメディア)で調査をしていました。また市場に行き、デイルバラの主要な通りを歩いて通行人に聞きました。私は、大多数つまり90%ほどの人たちが喜んでいると予想していましたが、実際はそうではなく、ハニーヤ暗殺と同じほどの割合、つまり60%から70%が喜んでいたのです。悲しんでいる人が10%だけだとは言えません。もっと多い。なぜそうなのか、私にはわかりません。もしかしたら次のインタビューの時、つまり来週の金曜日までには、もっとはっきりするかもしれません。昨日シンワールが殺害されたばかりなので、調べるには時間が足りなかったのかもしれません。

(Q・シンワールの殺害によって、この戦争の停戦が早まるかもしれないと人びとは考えているだろうか?)

 もちろん、その通りです。多くの人々が、シンワールの殺害が人質交換やこの戦争の早期終結につながると予想し、そう信じています。人びとはシンワールがこの停戦の障害となっていると考えていました。だからシンワールが殺された後、多くの人々がこの戦争は数ヵ月のうちに終わるだろうと楽観視しています。

(Q・つまり、人びとは歓迎しているということですね?)

 人びとシンワールの殺害に対する感情は60~70%が喜んでいます。しかし住民のほとんどが「これで停戦になるという期待と安堵感」を抱いていると思います。ハマスのメンバーや支持者、シンワール殺害を悲しんでいる人びとでさえ、「これで戦争が終わる」という期待の感情を持っていると思います。

 私が「ハマスのカッサム旅団の戦闘員」だとしましょう。私は13ヵ月間、身を隠して地下や地上をさまよい、妻に会うこともできず、家族、子どもたちにも会えず、家族に会いに行くこともできない。妻と寝ることも、子供たちにキスすることもできません。なぜなら、この戦争は続いているからです。

 家族が恋しい。両親、兄弟、姉妹、友人たちも恋しい。13ヵ月間、缶詰ばかり食べている。とてもまずい、ひどい食べ物だ。健康状態はとても、とても悪い。地下では酸素が不足している。とても疲れている。

 私が負傷しているとしましょう。または妻を失っているかもしれない。私の家が爆撃されたために、私は子どもたちを失っているかもしれない。ハマスの戦闘員のほとんどは、家族を全員、あるいは部分的に失っています。私は疲れ果て、心は砕け散っています。正直、1日も早くこの戦争を終わらせたいのです。

 シンワールが殺害されたと伝えられたら、他人の前では、私は悲しみに暮れているでしょう。しかし同時に、内心では、この男が停戦の障害物であったため、ある種の悦びもあります。彼の殺害後、この戦争は終わるかもしれません。だから私は“1人の人間”に立ち戻って、家族や家がどうなったかを見たい。私は“人間”ではないんです。

 ハマスの戦闘員が何を考え、どう感じているか、その気持ちをあなたに伝えようとしているんです。ハマスの戦闘員はみんな心の中では、シンワールが殺されるのはいいことだと思っているはずです。なぜなら、「これで戦争が終わる」と思うからです。そう、彼らは酷い状況にあり、苦しんでいるんですから。

 ハマス戦闘員が自殺したという2つのケースについて話を聞きました。もちろん、証拠がないので確かではありません。噂かもしれないし、イスラエルのプロパガンダなのかもしれません。でも、彼らがとても苦しんでいることは確かです。彼らには“人間”としての生活がないからです。

 戦闘員たちの心の中に入ったら、ハマスの戦闘員たちは、シンワールが殺された後、とても楽観的になっていると思います。なぜなら、彼らは“人間”に戻ってきて、普通の日常生活を送りたいと思っているからです。

Q・今、ハマスは最高幹部だったハニーヤもシンワールも失い、武装部門の最高司令官ムハンマド・デイフも失った。ハマスは今後で生き残れると思いますか?)

 おそらく誰が次のリーダーになるかによるでしょうが、選ばれるリーダーはカリスマ性、つまりメンバーを導く力を持っていないかもしれません。これはリーダーとしての非常に不可欠な要素で、他の誰かがこれまでの指導者たちの代替となることはできないというのが私の意見です。

(Q・ガザのハマスの再生は難しいということですか?)

 アル・アルーリは、2024年1月にレバノンで暗殺された、ハマス最高幹部ハニーヤの副官です。彼が後継者になるはずでした。

 ハマスがガザ地区から組織の新しい指導者を選ぶと決めたら、それはまた自殺行為になると思います。ハニーヤの後継者にシンワールが選ばれたとき、私はこれが自殺的で狂気じみた決定だと言いました。指名手配中で身を隠している人間が、どうやってガザ地区から組織を率い、導くことができるというのでしょうか。私は当時、これは象徴的な選択だと言いました。現実的でも生産的でもない決定でした。なぜなら、ガザ地区内に隠れているシンワールはハマスをコントロールできないからです。ハマスという組織はタコの足のように、イスラム圏のさまざまな国に多くの腕を持っている大組織だからです。

 繰り返しますが、ハマスがもしガザ地区から別の指導者を選ぶと決めたら、それはまた狂気じみた選択でしょう。自殺行為以外の何ものでもありません。なぜなら、第一にガザ地区には際立った人物がもう誰もいないからです。全員が殺されました。シンワールが最後でした。

 マフムード・ザハルは消息がわかりません。トンネルの地下で死亡したとも言われています。ご存知のように、ザハルはハマスの歴史上の幹部で、ずっと以前からハマスの指導者となるはずでした。しかし今はその消息は不明です。

(攻撃開始から1年経った今もイスラエル軍の破壊が続く/撮影・ガザ住民)
(攻撃開始から1年経った今もイスラエル軍の破壊が続く/撮影・ガザ住民)

【最高指導者になる3人の候補】

 だから国外、つまりカタール、トルコ、アルジェリアなどにいるハマス幹部たちが指導者たちに適任だと思います。

 ハリード・マシャアルがその1人です。長年ハマスの最高幹部でした。次はムーサ・アブ・マルズークです。マシャアルの副官を数年間務めていました。さらにハリール・アル・ハヤは今、ガザ出身者の中で最も影響力のある指導者です。ハニーヤに次ぐ実力者でした。ハニーヤはガザ出身でしたが、ハリール・アル・ハヤもガザ出身です。非常に強力でカリスマ性のある人物です

 マシャアルはもともとヨルダン出身、ムーサ・アブ・マルズークはアメリカ出身です。ハマスの次の指導者は、この3人のうちの誰かになると思います。

 もう1つの可能性もあります。ハマスは今回、誰が指導者になるかを宣言しないかもしれません。

 ですから、3つの可能性があるのです。

 第一はガザ地区から指導者を選ぶという、またもや狂気じみた選択肢。その場合、二流、三流の指導者を選ぶことになると思います。第一級の指導者は全員排除されたか、行方不明になっているからです。

 第二の可能性は、海外にいる幹部から指導者を選ぶ。

 第三の可能性は、イスラエルに対してカモフラージュを行うことになると思います。今回は指導者の選出は宣言もしないでしょう。潜在的な指導者の暗殺を避けるために、誰が指導者なのかを明らかにしないのです。

(Q・ガザ地区内のハマスについてはどうでしょうか。今や誰もそれをコントロールできないのではないでしょうか。モハメド・ゼデブは軍事部門の強力なリーダーでしたが、彼は殺されました。政治的リーダーであるシンワールも殺され、誰もガザ地区のハマスを制御できません。ガザ地区のハマスはイスラエルに降伏すると思いますか?)

 私は、ハマスは降伏を受け入れないと思います。シンワールのような著名な指導者がいなくても、彼らはこの戦争に対処しようとしていると思います。ガザ地区内のマスの内部にはまだ2人の軍事指導者が残っています。

 1人はヤヒヤ・シンワールの弟、モハマド・シンワールです。彼は有名な軍事指導者です。また、もう1人はイズアルディン・ハダドです。彼はハマスの軍事組織のガザ旅団のリーダーです。モハマド・シンワールと並んでガザ旅団のリーダーです。北部ガザ地区のハマスを率いています。もちろんヤヒヤ・シンワールの死はハマスをますます弱体化させるでしょう。

【伝えられないガザ内部の内紛】

 一方で、ガザ地区内で現在進行中の状況が大きな影響を与えると思います。国際メディアでは、ガザで起きている内紛について誰も話題にしていません。

 今後、数週間のうちに、より多くの暴力や犯罪を目撃することになると思います。内紛の激化です。以前、シンワールは、この内紛を限定的なものに抑えようとしていました。治安を維持するためにハマスの戦闘員を派遣し、衝突を起こしている家族を脅し、問題を起こしている商人たちを脅そうとしていました。彼は人生の最後の日々、ガザ地区内に少しでも治安を確保し、ガザ地区内の内紛をできる限り食い止めようとしていたのです。

 しかしシンワールがいなくなった今、内紛はさらに激化するでしょう。今後、犯罪率や殺人の数、ガザ地区のパレスチナ人同士の戦闘の増加について、今後、私はあなたに報告することになるでしょう。

(Q・シンワールの殺害により、ハマスの人気は低下すると思いますか、それとも上昇すると思いますか?)

 変わらないでしょう。人びとは、ハマスを称賛することはないでしょう。なぜなら、人びとはテントで身を潜め、飢えと感染症で苦しんでいるからです。それは、ハマスの冒険主義の結果です。

 ハマスの人気が高まることはないでしょうし、人気が下がることもないでしょう。ハニーヤが殺された後に起こったこととまったく同じです。ガザ社会におけるハマスの人気に何の影響もありませんでした。

(Q・ではシンワールの死で、ガザの状況、人々の生活は改善されると思いますか?それともといって変わることはない?)

 シンワールの狂気にもかかわらず、最後の日々、内紛を食い止めるために、彼は統制と安全を確保しようとしていました。ハマスの多くの軍事指導者たちに、ガザの安全を確保するための統制を最優先事項にすると宣言していました。

 しかし彼の死後、安全を確保するためのこれらの試みは失われるでしょう。だから治安状況、内紛は悪化すると思います。もしそのような統制を行わなければ、ガザ情勢の統制は完全に失われ、人びとは互いに殺し合っているため、治安の統制は完全に失われるでしょう。

 前の週に、内紛で何十人もの人びとが殺されました。彼らはパレスチナ人の銃やナイフによって殺されているのです。残念ながら、誰もそのことについて話題にしていません。アルジャジーラ、フォックスニュース、BBCなどもそうです。内紛で殺されている数十人について、誰も話していません。彼らはイスラエル軍の空爆でUNRWA(国連パレスチナ救済事業機関)の学校や施設内で殺されたパレスチナ人についてしか報道していません。内紛について誰も話をしないのです。

(Q・つまり、シンワールがいなくなったことで治安維持が低下するということですか?)

 間違いなくそうなります。シンワールは晩年、ガザ地区内の内紛を止めよう、減少させようと、できる限り努力していましたから。

(Q・社会がますます混沌としてしまうということですね?)

 もちろんそうです。内紛を止めるためにシンワールは治安維持のために武装勢力を派遣していましたが、それらの武装勢力はイスラエルの空爆によって殺されました。ご存知のように、シンワールの死の数日間で、多くの空爆で、シンワールが内部衝突や家族間、商人間の内紛を止めるために派遣した部隊が標的にされました。

 しかし、私が今話していることは、ハマスが生活物資を載せたトラックを盗んでいるという私の主張と矛盾するものでもありません。住民は生活物資のトラックを巡って衝突することは許されていませんが、ハマスがトラックの生活物資を奪い、トンネル内の戦闘員たちに与えることが許されているのです。

 昨日、イスラエルは海外でハマスの指導者たちを脅迫しました。マシャアル、アブ・マルズーク、アル・ヘイヤの3人の指導者たちを、米国やカタールなどの外国を通じて脅迫したのです。彼らにメッセージを伝えました。「今からお前たちが責任を負うのだ。ガザ地区内の人質たちの命に責任があるのはお前たちだ」と。

 シンワールの遺体がイスラエル国内に運ばれたことを知っているでしょう。イスラエルのジャーナリストや情報筋によると、イスラエルは遺体を冷凍保存すると言っています。遺体をガザに戻さず、イスラエル国内に保管するのです。遺体は冷凍され、人質交換の交渉材料として用いられるでしょう。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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