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各国首脳も味わった和紅茶を、全国、そして世界へ―/kitaha 日野朱夏さん

岡沼美樹恵フリーランスライター/編集者/翻訳者
和紅茶ブランドkitahaの日野朱夏さん

宮城県石巻市―。港町で漁業の町として知られるこの場所に、地元で栽培されたお茶を加工し、そのおいしさを日本全国、そして世界へと発信している茶舗があります。それが、「お茶のあさひ園」(有限会社ファームソレイユ東北)。

石巻駅からほど近い場所に店舗を構えています
石巻駅からほど近い場所に店舗を構えています

「400年も前からこの地に受け継がれてきた桃生茶で紅茶をつくり、東北を盛り上げていきたい」との想いから、2017年に和紅茶ブランドkitahaを立ち上げ、2019年のG20大阪首脳会議、そして2023年のG7広島サミットそれぞれの晩餐会で提供され、大きな話題となりました。また、2019年の「新東北みやげコンテスト」(仙台市産業振興事業団主催)では、kitahaのハーブのフレーバーティー「kitaha-纏-」が最優秀賞を受賞。開発担当の日野朱夏さんの涙のスピーチは、その場にいた多くの人たちの心を打ち、もらい泣きする人もいたほど。

「新東北みやげコンテスト」で最優秀賞を受賞した「kitaha-纏-」
「新東北みやげコンテスト」で最優秀賞を受賞した「kitaha-纏-」

このkitahaを開発することになったきっかけは、東日本大震災でした。日野家は、震災による津波で店舗も自宅も全壊。

「新東北みやげコンテスト」の授賞式で喜びのハグを交わす朱夏さんと父の雅晴さん
「新東北みやげコンテスト」の授賞式で喜びのハグを交わす朱夏さんと父の雅晴さん

朱夏さんは「父である社長が『やりたい』と。石巻というと震災というイメージがあると思いますし、実際に私たちの店も津波の被害を受けました。そんな中、私たち石巻の人間が元気に頑張っているということを発信したかったようです。でも、私たちにとってもゼロから商品をつくるなんて初めてのこと。そもそも、和紅茶ってどうやってつくったらいいのか分からないし、どこに、誰に、何を頼めばいいのかもわからなくて。それでも『紅茶をつくりたい、つくりたい』と言っているうちに、村松さんとつながることができたんです」。

ふんわりとした甘味が特長の「kitaha」。すべてはこの商品から始まりました
ふんわりとした甘味が特長の「kitaha」。すべてはこの商品から始まりました

“村松さん”とは、“日本の紅茶の第一人者”である村松二六さん。桃生茶の茶畑を観察した際「これは紅茶にも合う」とお墨付きをくれたのだそうで、村松さんの丸子紅茶で桃生茶を使用した和紅茶の製造が始まりました。

「クール便で送ってもすぐに発酵してしまうため、茶葉を積んだ後、12時間以内に静岡県にある村松さんのところにハイエースで運んでいたんですよ」と、朱夏さんは当時を振り返ります。

夫の優介さんは、頼りになるビジネスパートナーでもあります
夫の優介さんは、頼りになるビジネスパートナーでもあります

2022年には石巻に自社工場「kitahanone」を設立。工場の名前には、「東北のお茶文化の根っこになりたい。みんなが集える場所でありたい」との願いを込め、朱夏さんの夫である優介さんが工場長としてお茶の製造に従事しています。それだけでなく優介さんは、桃生茶の茶畑の手伝いにも行っているそう。

というのも、400年以上の歴史を持つ桃生茶の生産農家はただ一軒。生産者1.5ヘクタールの茶畑を管理しているのは、鹿島茶園の佐々木浩さんおひとりだからです。

「2016年ころから和紅茶をつくりたいといったときは、きっと『なんだこの人たち?』みたいな感じではあったと思うんですけれど、時間をかけて信頼関係を築いていくことができました。石巻の宝であるこの素晴らしい桃生茶をずっと残していきたいから、私たちは今できることをするだけです」と、朱夏さんは話します。

5月末から桃生茶の収穫が始まります
5月末から桃生茶の収穫が始まります

さらに朱夏さんは、「伊達政宗公がお茶を愛したこともあり、宮城県はかつてお茶の全国生産4位になったこともあるんです。お茶の文化をなくさないためにも、同じお茶屋さん同士リスペクトし合える関係になって、一緒に登っていきたいと考えています。なので、今年から富谷市、加美町、川崎町でお茶を作られている方を呼んで勉強会を1ヶ月に1回する予定です。また、お茶だけでなく、石巻から東北へ、全国へ、世界へと発信していきたいんです。たとえば、能登などの被災地で今苦しい思いをされている方も『石巻でできたんだから、ここでもできる』って思ってもらえたらうれしいなって」と話します。

朱夏さんの熱意とその純粋さは、多くの人たちを動かし続けます
朱夏さんの熱意とその純粋さは、多くの人たちを動かし続けます

お茶の話、石巻の話になると、目をキラキラと輝かせる朱夏さん。
「夫には、『熱すぎて焦げる』っていわれました(笑)。でも、私の究極の目標は、私たちの物語が朝ドラになることなんです。私が死んだ後でもいいから、なったらいいなぁ」と、少女のように無垢な笑顔で語ってくれました。

和紅茶「kitaha」フレーバーティー「kitaha-纏-」、お茶でつくったお菓子「kitaha-稔-」のものがたりは、「暮らす仙台」でもご紹介しています。ぜひ、ご覧ください。

お茶のあさひ園(有限会社ファームソレイユ東北)
宮城県石巻市旭町10番8号
0225-22-2887
info@kitaha.jp
オンラインショップはこちら

写真:渡邉樹恵子、堀田祐介

フリーランスライター/編集者/翻訳者

大学卒業後、株式会社東京ニュース通信社に入社。編集局でテレビ誌の制作に携わり、その後仙台でフリーランスに。雑誌、新聞、ウェブでエンターテインメント、スポーツ、広告、ビジネスなど幅広いジャンルの執筆活動を行う。2016年よりウェブメディア「暮らす仙台」で東北のよいもの・よいことを発信。ローカルビジネスの発展に注力している。好きなものは、旅、おいしいものを食べること、筋トレ、お酒、こけし、猫と犬。夢は、クリスマスのニューヨーク・セントラルパークでスケートをすること。妄想は、そのスケートのお相手がジム・カヴィーゼルだということ。

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