人手不足時代の有力な採用手法「リファラル採用」のメリットと、実現するために越えなければならないこと。
■人事の世界のバズワード「リファラル」
世の中には浸透しているわけではないのですが、「リファラル採用」(リファラルリクルーティング)という言葉が、人事や採用の世界においては数年前から1つのバズワード(流行語)となっています。
「リファラル(referral)」を日本語に訳すと、「紹介」という意味になります。英語で言うと、新しいことのように聞こえますが、要は昔からある「コネクションを用いた採用」です。しかし、最近、人手不足で採用に苦しむ企業にとって同手法がとても効果があることがわかってきたので、新しく名前をつけて推進しようとしているわけです。
■昔の「コネ採用」とは違う攻めの採用の一種
ただ、この「リファラル採用」は、昔のコネ採用とは異なります。就職希望者のコネ自体が採用に有利に働くようなことはありません。あくまで企業が「コネクション」を使って、採用の候補者を集めるという、ただそれだけのことです。集めた候補者は通常の採用基準で他のルートの人と同様に普通に選考されます。コネクションがあるからといって、企業にゲタを履かせてもらうようなことはありません。
では、何を期待して、「コネ採用」=「リファラル採用」をさまざまな会社が取り入れているのでしょうか。それは、これまでかなり長い間、当たり前となってきていた「採用広告を出したり、人材紹介会社依頼したりして、応募してくる人を選考する」という「待ちの採用」の効果がどんどん薄れていることが背景にあります。
「広告を出しても人が来ない」なら、「こちらから攻めていく」必要があります。その1つの手法として「じゃあ、まずはうちの社員や内定者の周りの人を紹介してもらってはどうか」となったところ、「リファラル採用」が意外に効果があることが判明したため、さまざまな企業が導入し始めているのです。
■なぜ再び「効く」ようになってきたのか
一時期忘れられていた昔ながらの手法である「コネ採用」=「リファラル採用」が、現代に復活して効果が出ているのはなぜなのでしょうか。
その要因は、LINEやFacebookなどのSNSによって、個人が大勢の人と「つながったまま」の状態になったことです。それまでは同窓会など何十年ぶりかでしか会えなかった人同士が、つねに「つながったまま」でいることによって、紹介できる人の範囲が広がりました。
同窓会で再会した中学時代の同級生を紹介することもできるようになりました。実際、「リファラル採用」に成功しているケースでは、日々顔を合わせている人では「ない」人まで紹介してもらっていることが大変多いのです。
■リファラル採用はいいことずくめ
加えて、採用に困っているような知名度や人気がない企業ほど、この方法が「使える」ということも流行の理由でしょう。
従来の「広告や人材紹介会社」に依頼する「待ち」の手法は、考えてみれば、成果が企業のブランド力に比例する手法でした。つまり、ブランド力のない企業にとっては、その手法を取るのは極端な話「負けるための採用」です。
それを乗り越えるには、広告面で目立つためにいい場所を買ったりするか、いいクリエイターにすごい広告を作ってもらうか、お金で解決するしかありません。お金もなければどうしようもない。そこで再び「リファラル採用」に光が当てられたのです。
「リファラル採用」は、「待ちの採用」とは違って向こうから応募してもらうのではなく、こちらから誘うわけですからブランドはいりません。弱小タレント事務所がいい人材を獲得するために街中でスカウトをするようなものです。スカウト=紹介者の個人力さえあれば、どんな人にでもアプローチ可能です。
また、紹介される人は、紹介者とすでに長い間にわたって関係を持っており、どんな人となりであるかという情報の信憑性は抜群です。だから短い採用選考で会社がだまされてしまうこともありません。入社してからも、最初から知り合いが社内にいるというのは働きやすく、退職予防にもつながるなど双方にメリットがある採用手法です。
■「リファラル採用」の難点
そんないいことずくめの「コネ採用」=「リファラル採用」ですが、1つ難点があります。それは「お金やブランドがいらない採用」は「お金やブランドがあってもできない採用」でもあるということです。つまり、やれば誰でもできるわけではないのです。
攻めの採用である「コネ採用」=「リファラル採用」は、営業の仕事のような側面があり、売れる営業・売れない営業がいるように、人をたくさん紹介してもらえる採用担当者もいれば、似たようなことをしても全然紹介してもらえない採用担当者もいるということです。率直に言うと、担当者の対人影響力、コミュニケーション能力で成果に差が出るということです。
広告や人材紹介をメインとする「待ちの採用」は、お金やブランド、および戦略の正しさがあれば、一定の成果が出ていました。ところが、現代の「コネ採用」は、担当する個人の能力に依存する手法です。いい採用担当者さえいえれば中小でもベンチャーでもいい採用ができます。そういう人がいなければ大企業でもできません。
いい採用担当者がいても、転職や異動でいなくなれば、それだけで会社の採用力はガタ落ちです。コネ採用は「安定感のない手法」とも言えるのです。実際、ある会社では実力のある採用担当者が転職してから、まったく人が採れなくなってしまいました。
■求められるのは「優秀な採用担当者」の確保
結局、現代の「コネ採用」である「リファラル採用」を安定的に実現するためには、プロの採用担当者をいかに継続的に確保できるかが勝負になります。
1つの方法は、外部に求める採用アウトソーシング(RPO:Recruitment Process Outsourcing)です。例えばヘッドハンターをヘッドハントして自社だけのためにヘッドハントをしてもらうようなことです。
もう1つの方法は継続的にすごい採用担当者が出現するような人材育成体制や、人事ローテーション(トップ営業マンを採用に異動させるなど)を確立することです。このように「コネ採用」は簡単なものではなく、「できる人がやらないとできない」というシビアな採用でもあるのです。
しかし、それが実現できれば、この人手不足時代、「War for talent」の時代において、採用競合他社に勝つことができるのではないでしょうか。