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『肝臓を奪われた妻』でセクシーに変身しながら騙した一家へ復讐。伊原六花の演技に活きるダンスのセンス

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)日本テレビ

結婚した男の目的は病気の母親に肝臓を提供させることだった……。移植手術のあとに離婚を強いられてから5年、1人で子どもを育てていた主人公の復讐劇を描くドラマ『肝臓を奪われた妻』。TVerでの再生回数が100万超えを続けるなど話題を呼んでいる。地上波の連続ドラマでは初となる主演を務めるのは伊原六花。「バブリーダンス」の登美丘高校ダンス部のキャプテンからデビューし、朝ドラ『ブギウギ』出演など順調にキャリアを重ねてきた。鮮烈なインパクトを残す今回の役にはどう取り組んでいるのか?

楽しいだけでやってはいません

――TVerの再生数も好調な『肝臓を奪われた妻』ですが、身近でも反響は感じますか?

伊原 本当に今までのドラマの中で一番、「観てるよ」と言っていただいてます。友だちからも、現場で会った方からも。とっても嬉しいです。

――こんな観方をされているんだ、と思ったりは?

伊原 考える暇がないくらいテンポ良く展開して、次が気になるとよく聞きます。

――地上波の連続ドラマでは初主演なんですよね。映画や配信ドラマで主演したときとは、また違いますか?

伊原 緊張してしまうので、あまりそういうことは考えないようにしています。引っ張っていこうという気持ちはありますけど、「主役だからこうする」ということはなく、目の前のお芝居をていねいにやっていけたらと。

――とはいえ、デビュー早々の頃より、重みも感じていませんか?

伊原 作品に対する愛は昔から変わりません。原作にリスペクトを持ちつつ、ドラマだからできる表現や見せ方をどう楽しんでもらえるか、すごく考えています。

――逆に、そういうプロ意識を最初から持っていたんですね。

伊原 プロ意識かわかりませんけど、私はマンガが好きなので、ファン側として実写化されたときの気持ちは、何となくわかるんです。だから、ガッカリされないようにしたくて。お芝居は楽しくても、それだけでやってはいませんでした。

生活も描かれているのが面白いです

――こういう復讐ものに馴染みはありました?

伊原 観てました。復讐ものでしか味わえない、ハラハラしてスカッとする感じがあると思っていて。この「ドラマDEEP」の枠でも、前作の『消せない「私」-復讐の連鎖-』とか楽しみにしていました。

――よくあるパターンとしては、最初は1人ずつ復讐を遂げていって、ラスボス的な相手に近づくにつれて壁が高くなっていきます。でも、『肝臓を奪われた妻』では初めから、一進一退が続いていて。

伊原 今回の中村家は手ごわくて、夫だった光星という大きなターゲットは1コ上手。やり返されたりもします。すごく面白いのは、復讐しながら優香自身の生活も描かれていて。復讐を続けていいのか葛藤しますし、働いているお花屋さんでは、別のドラマくらいの展開がある。それが交じり合っていくのが、定番とは違う要素かなと思います。

自分ならイヤなことをされたら遠ざけます

――六花さんは、優香の「絶対に許さない!」という復讐心の何分の1かくらいの感情は、抱いた覚えはありますか?

伊原 私は意外とすぐ忘れてしまいます。めちゃくちゃイヤなことをされたとしたら、その人がいない世界に逃げてしまうので。優香みたいになることはないですね。でも、自分だけの理由でなく、守るべきもののためだったりすれば、立ち向かえるかもしれません。今のところは、何かあっても遠ざけるだけです。

――人間ができているんですかね。

伊原 人間は全然できていません。置いていたお菓子を食べられたら、「エーッ⁉」と思います(笑)。

――自分も相手のお菓子を食べてやろうと思ったり?

伊原 いえ、次の現場にある差し入れを、いっぱいもらうくらいです(笑)。

大切にしていたものが理由になって

――それだけに、復讐に走る優香を演じるには、感情を高めているわけですか?

伊原 優香は大切にしていた母親のことまで調べられて、息子の結人のこともあって、それこそ自分以外の要因が大きかったりもするんです。復讐を始める理由になっていたと思います。

――自分が義母に肝臓を移植するだけの道具として扱われたことにも、怒りは大きかったでしょうし。

伊原 そうですね。信じていた人と、ここにしか幸せがないと思っていたところから、大きな傷だけをつけられたのは悔しかったですよね。

――肝臓を移植すると、肉体的にどうなるかも調べたんですか?

伊原 どんな傷がつくのか、どれくらい入院するのか、機能がどれくらいで戻ってくるのか。そういうことは調べました。やっぱりリスクがゼロではなくて。傷は作品の中にも出てきて結構大きいですし、取る量にもよりますけど、今までと何も変わらず生活できるわけでもない。それを優香は理解したうえで、光星の家族のためにドナーになることを決心したんです。なのに裏切られた怒りは大きかったと思います。

振り切ってガラッと変えようと

――復讐の過程で、優香は光星の妹の弘子の婚約者、妻のるり子の浮気相手に誘惑を仕掛けました。そういう場面では、男がなびくセクシーさも見せていて。

伊原 どこまでやるべきか考えましたけど、振り切ってガラッと変わったほうが優香の決心、覚悟の強さが伝わるかなと。普段の優香からすれば難しいところもありつつ、「やってやる!」という気持ちで変えられたらと思っています。

――男が心を奪われるのも納得できる色気を醸し出すのは、六花さんにとって高いハードルではなかったですか?

伊原 ここまで大人っぽい役は、あまりやったことはありませんでした。でも、私はダンスもそういうことだと思っています。ポップなダンスなら笑顔で踊り方もかわいくしますし、セクシーに踊るなら表情や衣装も変わってくる。どういう仕草が女性らしく見えるか考えながら、普段の優香とは別ものとして、わかりやすくセクシーな女性を演じました。

女性が見ても品のある色気を

――六花さんがダンスに例えると説得力がありますね。セクシーな仕草は考えたわけですか?

伊原 優香は元から、色っぽい仕草をしているタイプではなくて。どういうことをしたら男性がドキッとするのか。女性から見て品のあるセクシーさはどういうものか。いろいろな動画を観て考えました。

――どんな動画を観たんですか?

伊原 YOUさんや吉高由里子さんのしゃべり方や姿勢を、バラエティやお話しされている映像で観て、参考にしました。お2人だけではないですけど、私の中では品があって色っぽいイメージだったので。

――弘子の婚約者の井川とバーに行ったときは、背中のざっくり開いたドレスを着ていましたが、ただ露出すればいいわけではなくて。

伊原 私は色気とエロは違うと思っています。

――普段ああいうシャレたバーに行くことは?

伊原 ないですね。ちょうどお酒を飲めるようになった頃にコロナがあったので、打ち上げや居酒屋に行くタイミングがなくて。もうすぐ25歳になりますけど、バーはまだ1~2回しか行っていません。

――弘子の婚約発表を潰すところから始まり、復讐のたびにほくそ笑む表情も、だんだんギラついてきた感じですね。

伊原 スカッとする部分はあると思いますけど、優香にも感情の段階があるので。「もうちょっと行く」「少し抑える」というのは、監督と相談しながら撮っています。

子どもは大好きで母親役に苦労はしません

――一方で、先ほど出た花屋での息子の結人とのシーンは楽しげです。

伊原 めちゃくちゃ楽しいです。結人役の(近江)晃成くんがすごくかわいくて、合間に駄菓子を一緒に買いに行ったり、持ってきたゲームを教えてもらいながらやったりしています。

――親子感を出すために、意識的に合間も一緒にいたり?

伊原 最初は一緒の時間を増やせたらいいなと思っていましたけど、晃成くんがすごくオープンな子で、人見知りを全然せずに話し掛けてくれて。そこで苦労することはなかったです。

――母親役は初めてなんですよね。

伊原 そうです。24歳でやらせてもらえるのは、早いなと思いました。子どもはもともと大好きなんです。姉の2人の子どもと遊んだりもしていました。

情緒がジェットコースターでした

――前半では他に、どんなことが印象深かったですか?

伊原 1話は本当にいろいろなシーンを断片的に撮っていく感じで、濃かったです。5年前の回想シーンから、復讐を決意するところ……みたいに撮って、情緒がジェットコースター(笑)。「ここは光星が好き」「今は憎んでる」とか怒涛でした。

――結人を轢きそうになった車から出てきた光星と再会して、「良かった。(車が)傷ついてない」と言われたり。

伊原 あれは冷たいですよね。台本を読んで「エーッ⁉」となりました。「そっちかい!」みたいな(笑)。その後も言われた言葉を思い出して、復讐をやれたので良かったです。光星のほうも今後、優香と出会ってから今に至るまで、どんな感情を抱いていたか描かれていくので、見る目が変わるか、楽しみにしてもらいたいです。私も中村家のシーンは出来上がって初めて観て、面白いなと思っています。

――弘子が1人で荒れているところとか?

伊原 そうですね。弘子役の(加藤)千尋さん(セントチヒロ・チッチ/元BiSH)は普段、アーティスト活動のためにノドをすごくケアされていて。あんなにワーッと叫ぶと、ご本人と全然違うキャラクターになって素敵です。

10分間の涙のシーンはシビれました

――回想では、赤ん坊の結人を抱えて電車に飛び込もうとして、花屋の春美さんに声を掛けられて救われました。TVerオリジナルのスピンオフでは、春美さんを前に涙のシーンが続きます。自然に感情が溢れた感じでした?

伊原 台本に「涙が流れる」と書いてあったら、1回パタンと閉じます(笑)。泣かないといけないのか……と。でも、あのスピンオフは監督が役者に寄り添ってくださって、2テイクで撮れました。私側で最初から最後まで1回で全部撮って、春美さん側でもう1回。

――カメラが回れば涙も流れて?

伊原 春美さん役の猫背椿さんのおかげですかね。私は猫さんが大好きで、お芝居をしていても楽しいので。10分間、2人で動きのないシーンでシビれました。

――普段の六花さんは泣くことはありますか?

伊原 映画とかを観ていて全然泣くので、涙もろいほうだと思います。役作りのために観たドキュメンタリーで、苦しくなってしまったり、パワフルな方々に感情移入したり。

――ちょっとしたことだと、ジムでのトレーニングシーンでの六花さんの体の柔らかさも目につきました。今もバラエティなどでダンスを披露されることはありますが、日常的にトレーニングもしているんですか?

伊原 ストレッチや筋トレは好きでやっています。YouTubeで踊ったりもするので、意外と体は動かしています。

後半にグッとくるようなシーンが出てきます

――『肝臓を奪われた妻』はクライマックスに入っていきます。

伊原 最後の11、12、13話の台本を読んだとき、「おもろっ!」と声が出ました(笑)。30分で観やすくて展開も速い中で、後半に行くにつれて、グッとくるようなシーンがそれぞれのキャラクターに出てきます。

――優香だけでなく?

伊原 こういうドラマはだいたい、復讐を遂げた相手はいなくなりますよね。今回はずっと出続けていて、登場人物の1人1人に物語があって、ハラハラするシーンも盛りだくさん。最後まで楽しんでもらえると感じました。

――驚きの展開もありますか?

伊原 「こうなるんだ! どうして?」みたいなことがありますので、ぜひ観ていただけたら。

任せてもらった役に最大限を注ごうと

――最初の話に戻りますが、デビューから出演作が途切れず、今回の地上波初主演まで、順調に歩んできている感覚ですか?

伊原 そういう気持ちはまったくないです。毎回素敵な作品に出合えて、役を任せてもらえたからには、自分のできる最大限を注ごうとしているだけ。順調だと思ったことはありません。ただ、本当に良い作品やスタッフさんには出会えています。今回も朝ドラの『ブギウギ』や『マイ・セカンド・アオハル』を観て声を掛けてくださって、すごくやり甲斐があります。伊原六花で良かったと思ってもらえるように、全力を尽くすだけです。

――バブリーダンスのキャプテンとして注目されてデビューして、早々に配信ドラマや映画で主演も務めて。その時点では、地上波の連ドラ主演にも、もっと早く手が届きそうな気もしていませんでした?

伊原 1回もそんなふうに思ったことはありません。毎回壁にぶち当たりまくっていますし、素敵だと思う人を見て「何で私はできないんだろう?」とか、いろいろな知識を持っている人を見て「私は何も知らない……」と思います。刺激を受けながら、自分に足りないものを痛感もしていて。毎回まだまだと思いながら挑んでいます。

どう編集されるか考えて演じるのが好きです

――『肝臓を奪われた妻』でも、自分に足りないと感じたものはありました?

伊原 新しく得た感情や表現方法はたくさんありました。素晴らしいと思う方たちとご一緒して、また頑張ろうと思えた現場でした。自分のお芝居に満足してはいませんけど、TVerとかでたくさん観ていただいたり、声を掛けてもらえるのを励みに、より良いものを届けたいと思っています。

――自分でオンエアを観ると、優香はイメージ通りになっていますか?

伊原 この作品に限らず、撮影していたときと音楽も入って編集されて上がってきたものには、いい意味で驚きが毎回あります。私は現場で「こう繋がるのかな」とか考えながら、お芝居するのが好きなんです。モノローグだと、どの言葉にどの映像が付くのか想像したり。それがどうなったか、何回も観返してしまうくらい楽しんでいます。

年齢を重ねて新しい世界を見るのが楽しみ

――そんな最中の6月2日に25歳を迎えます。誕生日はまだ嬉しいですか?

伊原 嬉しいです! 当日は服に「BIRTHDAY GIRL」と書いて歩きたいくらいです(笑)。

――そろそろ年を取るのは……とは思わず?

伊原 全然思いません。年齢を重ねるごとに素敵な出会いが増えて、発見もたくさんありますから。大人になったからこそ、話せることもあると思うので、25歳ではどんな人と出会って、新しい世界を見られるか。楽しみでルンルンです(笑)。

――20代後半をどう過ごしたいとかは?

伊原 何もないです。やりたいことはあっても、30歳までにとか決めてなくて。目の前のことを大切に、幸せに生きていきたいです。

Profile

伊原六花(いはら・りっか)

1999年6月2日生まれ、大阪府出身。2017年に出場した日本高校ダンス部選手権での「バブリーダンス」で注目される。2018年にドラマ『チア☆ダン』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『どんぶり委員長』、『シコふんじゃった!』、『ブギウギ』、『マイ・セカンド・アオハル』、映画『リゾートバイト』、舞台『ロミオ&ジュリエット』など。ドラマ『肝臓を奪われた妻』(日本テレビ)に出演中。ミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』に出演。7月3~10日/東京国際フォーラム ホールC、7月20~29日/COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール。

ドラマDEEP『肝臓を奪われた妻』

日本テレビ・火曜24:24~

公式HP

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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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