北朝鮮の名門幼稚園「汚れたお受験」に見るあの国の本当の姿
北朝鮮では、毎年3月が新学期だ。幼稚園の入園時期も同じだが、ある幼稚園では熾烈な「お受験競争」が繰り広げられている。
その幼稚園とは、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)の本部洞(ポンブドン)にある本部幼稚園。外国人観光客も見学に訪れる特別な幼稚園だ。北朝鮮版お受験の実態を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋によると、幼稚園には幹部や「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層が自分の子どもを入学させようと殺到している。
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この幼稚園は子どもの素質と才能を探し当て、英才教育を行う幼稚園として評判が高い。卒業後には金正恩党委員長の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏が卒業した金星学院など、名門校への進学の道が開かれている。
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日本でのお受験と言えば、入園試験に備えて塾に通わせるものだが、北朝鮮版お受験はかなり様子が違う。
「本部幼稚園への入学は、ワイロの額で決まるだけあって、いくら才能に恵まれた子どもでも、カネがなければ『貧乏罪』で入学対象から押し出されてしまう」(情報筋)
平安南道(ピョンアンナムド)の別の情報筋によると、本部幼稚園は各分野の専門技術を持った功勲教員と教養員(幼稚園教諭)が教師として配置され早期教育を行っているが、米ドル札の枚数で入学が認められることから、今では不正腐敗の象徴となってしまっている。
父兄には、ワイロ以外にも幼稚園の運営費の支払いが求められる。その額に応じて成績を上げてもらえるなどの特典が与えられる。その中の最たるものが、金正恩党委員長との面会に選抜されるというものだ。
北朝鮮では、最高指導者に会った経験を持つ人は「接見者」と呼ばれ、社会的に特別扱いされる。就職や昇進に有利に働くのだ。最高指導者とは誰でも会えるわけではないため、政府に「出身成分がいい」と認められたことにもなる。それで大喜びするわけだ。
山奥の村で貧しい暮らしをしている人でも、何かのきっかけで金正恩氏に会うこととなれば、突如としてバラ色の未来が開けることもある。そんな未来を、親がカネを積んで子どもに買い与えようとしているのだ。
例えば、昨年に平壌で行われた「輝く朝」という大集団体操(マスゲーム)で、体操とゴム跳びを披露したのは、まさにこの本部幼稚園の園児たちだった。もちろん全員が特権層の子女だ。
当局は「地方の平凡な幼稚園で前途有望な天才児を育て上げたのは、わが国の優れた社会主義教育の結果」などと宣伝しているが、幼稚園の父兄の間ですら「国の幼稚園が子どもをエサにして商売をしている」「ワイロ漬けの幼稚園をお上が宣伝している」という批判の声が上がっている。
とにかく、最近の北朝鮮は何でも「ワイロ」だ。
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陰口を叩かれてまで子どもを名門幼稚園に入れたとしても、それですべてが解決するわけではない。小・中・高校でもワイロが必要で、名門大学に入るとなると数万ドル単位のワイロを準備せねばならない。社会に出ても、ありとあらゆる場面でワイロが必要となる。それが共産主義ならぬ「拝金主義国家」と化した北朝鮮の現実だ。
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