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【東京迷防条例改正】「正当な理由」あれば報道・表現活動は規制されない、と安心し納得する委員会

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

■はじめに

 昨日(3月22日)、「悪意によるつきまとい」の中に「みだりにうろつく」行為を追加するなどの規制強化を盛り込んだ、東京都の迷惑防止条例の改正案が「警察・消防委員会」で審議され、賛成多数で可決されました。3月29日の本会議で成立する見通しだということです。

都迷惑防止条例改正案委員会可決(NHK)

市民活動や報道への規制、懸念も 都迷惑防止条例改正へ(朝日新聞)

<都議会>つきまとい行為の規制強化 委員会で改正案可決(毎日新聞)

 この改正論議の中で気になるのは、委員会で賛成を表明した民進党の都議会議員中村ひろし氏がツイッターで、22日に次のような発言をされていることです。

都議会議員 中村ひろし(三鷹市)@Nakamura_Mitaka

都議会委員会で迷惑防止条例改正案に賛成しました。暴力的行為から都民を守るのが目的の条例です。解釈次第で市民活動が規制されうると懸念がありました。濫用禁止条項もあり、質問で「正当な理由による政治活動、労働運動、市民運動、取材活動等は規制対象とならない」と警視庁の明確な言質を得ました

出典:https://twitter.com/Nakamura_Mitaka

 委員会の審議時間は実質1時間ほどだったということですが、警視庁からの「正当な理由のある」政治活動等は取締まり対象になりませんとの回答で、中村氏をはじめ、委員の多数が納得し、安心したとするならば、これはどうも司法の実務に対する認識不足ではないかと思われ、本当に大丈夫かと心配になります。

 犯罪を処罰することを目的としたさまざまな法律には、よく「正当な理由なく~した者は、~に処する」といったような表現があります。この「正当な理由なく」という文言は、一般に処罰される行為を限定する意味をもっています。確かに、処罰するに当たっては、その行為に「正当な理由」がなかったということをいちいち説明しなければならず、その意味では、処罰を限定する効果はあるといえます。しかし、実際の刑事実務を見ていると、この文言は、それほど強い限定効果をもっているとはいえないのです。

 そのことを住居侵入罪を例に、説明したいと思います。

■「正当な理由のない」立ち入りが犯罪なんだけど

 まず、条文です。

刑法130条(住居侵入等)

 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

 前段の方は、「侵入する」という積極的な行為(作為)が、後段の方では、「退去しない」という消極的な行為(不作為)が処罰の対象となっていますが、ともに「正当な理由なく」なされることが必要です。そして、裁判では、その立入りに「正当な理由」があったのかどうかがよく問題になります。

 「正当な理由なく」というのは、端的に「違法に」という意味ですが、何が違法かについて、現在の判例は、住居や建物の管理権者の意思に反することが違法だと理解しています。

 たとえば、自衛隊のイラク派遣に反対するビラを、防衛庁宿舎各室の玄関ドア新聞受けに投函する目的で、宿舎の敷地に立入り、それぞれの玄関前まで行った行為について建造物侵入罪が成立するかどうかが問題になったケースがあります。

 一審は、本件行為は、憲法21条1項が保障する政治的表現活動の一つであるとして、違法ではないとしましたが、最高裁は、本件行為は、同宿舎の管理権者の意思に反するものであり、立入りの態様、程度等に照らして法益侵害の程度が極めて軽微なものであったとはいえないし、たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、管理権者の管理権を侵害するのみならず、私生活の平穏をも侵害するものであるとして、建造物侵入罪の成立を認めました(最高裁平成20年4月11日判決)。

 また、分譲マンションの各住戸のドアポストに政党のビラを配布する目的で、そのマンシヨンの玄関出入口から中に入って、エレベーターに乗って7階まで行き、順次3階まで降りて多くの居室のドアポストにビラを投函したという行為についても、そのような行為が、たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、管理組合の意思に反して立ち入ることは、管理組合の管理権を侵害するのみならず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものであるとして、「正当な理由」はなかったとされました(最高裁平成21年11月30日判決)。

 この二つのケースに共通することですが、かりに不動産の広告やダイレクトメールなどを投函する目的であったならば何も犯罪の問題は生じないのに、上のような政治的な目的があった場合に、(管理権者が認めない限り)その立入りは「正当な理由」のある立入りとはいえないと判断されています。

 率直にいって、夜中や、不審な恰好、大声を上げて大勢で立入ったというわけではなく、反戦ビラや政党のビラを単にポストに投函する目的だったということが、なぜそのような行為を犯罪だと評価して、立入った者を被疑者として扱うことに合理性を与えることになるのか、どうも納得できない点があります。

■まとめ

 上の例は、住居侵入罪に関するものですが、「正当な理由なく」という文言は、その条文の解釈によって左右される伸縮自在な物差しのようなものであって、裁判実務を見ていると、迷惑防止条例の適用に関しても「正当な理由」の有無が基準ですといわれたからといって、「政治活動、労働運動、市民運動、取材活動等」に対する制約や萎縮効果は絶対にないのだとは断言できないと思います。要するに、この文言は「ないよりはまし」といった程度に考えておくことが重要ではないかと思います。(了)

拙稿:知らなかった! 森友の影に隠れて、東京都迷惑防止条例のとんでもない改正が進行中

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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