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韓国のメディアはメダル総数でも金メダルの数でも順位でも日本に大きく引き離されたことをどう伝えたのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
閉会した東京オリンピック(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 東京五輪が閉幕した。開催国・日本のメダル獲得数は五輪史上最多の58個。金メダル数も史上最多の27個と、スポーツ大国の米国、中国に続いて3位だった。

 日本は前回(リオ五輪)のメダルが41個(金12個、銀8個、銅21個)、総合順位6位だったので目覚ましい躍進を遂げたことになる。

 一方、日本をライバル視している韓国はリオ五輪(金9個、銀3個、銅9個)よりも1個少ない20個(金6個、銀4個、銅10個)に終わった。

 金メダルの数は2000年のシドニー五輪で正式種目に選ばれて以来初めてゼロに終わったお家芸のテコンドーの不振などもたたり、前回よりも3個減らし、6個と、実に1984年のロス五輪(金6個)以来の最小となった。その結果、総合順位は目標の10位内に入れず、前回のリオの8位から大きく後退し、16位に終わった。

 韓国は日本に総メダル数で38個、金メダルに限っては21個も差を付けられ、リオ五輪からさらに水を開けられる結果となった。ちなみに前々回のロンドン五輪(2012年)では韓国は金13個、銀9個、銅8個の30個を獲得し、5位にランクされ、11位の日本(金7個、銀14個、銅17個)よりも上回っていた。

 韓国のメディアはこの「惨状」をどう伝えたのだろうか?

 日韓の結果を比較して伝えたのは大手紙「中央日報」。「37年前に後退した韓国の『スポーツ』国力・・・メダル20個で総合16位は1984年のロス五輪の19個の線」の見出しを掲げ、以下のように報じていた。

 「開催国の日本は金27個、銀14個、銅17個で合計58個のメダルを獲得し、米国(金39個、銀41個、銅33個)、中国(金38個、銀32個、銅18個)に続いて3位に立った。韓国は1984年のロス五輪では今回より1個少ない19個だったが、総合順位では10位だった。ロス五輪で日本とのメダル争いで優位に立って以来韓国は2012年のロンドン五輪に至るまで一度も後塵を拝したことはなかった。しかし、日本が東京五輪を誘致した後、総力を挙げたことでリオ五輪から形勢が逆転した。韓国は総合順位8位で、日本は6位を記録した。東京五輪では韓国はアーチェリーで4個の金を獲得し、体面を保ったが、レスリングや柔道など過去に金メダルを取った格闘技種目では最近は劣勢である」

 同じく大手紙の「東亜日報」は「韓国はテコンドーや射撃、柔道で不振を極め、当初の目標である金メダル7個と5回連続総合10位の目標を達成できなかったのに対して開催国の日本は総合3位と歴代最高の成績を収めた」と、日本と比較して伝えたものの見出しは「韓国総合16位で五輪を終える・・・1位は米国」となっていた。

 メダル獲得数でも金メダルの数でもダブルスコアどころか3倍も差を付けられたことからこれまでの韓国ならば「屈辱」あるいは「自尊心を傷つけられた」と真っ先に成績不振を叩くのだが、今回はその種の記事はほとんど見当たらず、これまでとは違った論調が見られた。

 例えば、最大部数を誇る「朝鮮日報」は「エッフェル塔よ、私たちはより強くなるだろう」の見出しを掲げ、以下のように伝えていた。

 「東京五輪では韓国は金6、銀4、銅10個を獲得し、16位の順位だった。1976年モントリオール五輪(19位)以来の最低ランキングだったが、希望を見出した大会でもあった。シン・チヨン選手団団長は『若いアスリートが好成績を残したので韓国のエリートスポーツは再び上昇するだろう』と閉会記者会見で語っていた。(中略)今回メダルを手にすることはできなかったが、10代選手らが世界最高のスターらに気後れすることなく器量を発揮したことで3年後のパリ五輪は期待が持てる」

 「国民日報」(「成績よりも『闘士』に拍手・・・変化する韓国のスポーツ」)もこのように記していた。

 「五輪の舞台での成績はあまり重要ではない。何年もの間、血と汗を流し、準備をしていたアスリートたちは全世界のスポーツ人の祝祭を共に楽しみ、チャレンジすること自体に意味を置いている。選手らのチャレンジを見る国民の視線も同じだ。自らの限界を超え、最後まで闘士を見せる選手らに賛辞と拍手を送る。但し、五輪に望む態度で物議を呼んだ選手らには批判が殺到した」と、韓国メディアが今回、問題にしたのはメダルを逃したことではなく、選手らのマナーや態度であったことを強調していた。

 「京郷新聞」もまた、「東京五輪閉幕・・・女子バレーと近代5種の闘魂が残したもの」の見出しの下、次のように書いていた。

 「韓国の目標は達成されなかったが、市民はメダルの色、数、順位にはこだわってはいない。表彰台に上がった選手たちに熱い喝采を送るのと同じぐらいメダルを取らなくても最善を尽くしたアスリートたちに熱烈な声援を送った。選手たちは試合自体を楽しみ、公正に競い合い、相手をリスペクトしていた。ファンは結果よりもプロセスに注目していた。選手もファンも変わったスポーツ文化が今回のオリンピックでは際立った」

 この他にも一般紙では「ハンギョレ」「ソウル新聞」も取り上げていたが、見出しは「日本 最高の成績にもかからず大規模赤字とコロナ爆発に世論は冷やか」と、五輪後の日本を憂う内容となっていた。

 「8日に閉幕した東京五輪で日本は3位(金メダル基準)と歴代最高の成績を残したが、コロナの爆発的な感染と最悪の赤字憂慮で菅政権に対する日本の世論は冷めている」と書かれ、五輪の成績よりも赤字を問題にしていた。

 スポーツ紙では「スポーツ東亜」「スポーツソウル」の記事が目立ったが、「スポーツ東亜」も「コロナ非常で色褪せた東京五輪閉幕」の見出しでも明らかなように「日本は五輪を強行したことで赤字を免れることはできないだろう。米国経済誌フォーブスは『日本のコストは最大280億ドルに達する可能性がある』と報じていた。これは2016年のリオ五輪の2倍のレベルであり、歴代五輪では最高水準である」と書いていたが、「スポーツソウル」は総合10位内の目標を達成できなかったことについて以下のように記していた。

 「もちろん金メダルが全てではない。銀メダルも銅メダルも価値がある。しかし、五輪の本質は国家間競争である。総合順位がそれぞれの国のスポーツの位相を示すバロメーターとなっていることを勘案すると、今回の東京五輪の成績は心残りが大きい」

 これが、おそらく韓国国民の本音のような気もするが、韓国にもメダルや成績に固執しないスポーツ文化が育まれているならば、成熟の証として大いに歓迎すべきことである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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