ロシアと南アが模索する「プラチナ版OPEC」という価格カルテル
南アフリカのダーバンでは、3月26~27日の日程で、BRICsの第5回首脳会議が開催されている。今回のテーマは、「BRICs諸国とアフリカ-発展、一体化と工業化のパートナーシップに力を尽くす」となっているが、ここで無関係と思われていたプラチナ系貴金属市場(プラチナ、パラジウム、ロジウムなど)に衝撃を与えかねない発言が聞かれた。
すなわち、ロシアのSergey Donskoy天然資源相が、プラチナ版の石油輸出国機構(OPEC)とも言えるような価格カルテルを形成する可能性に言及したのである。具体的には、ロシアと南アフリカ共和国が共同で輸出量をコントロールすることで、プラチナ市場への支配力を強化するという計画である。
米地質調査所(USGS)の最新報告によると、プラチナ系貴金属の埋蔵量は世界全体で6万6,000トンとなっているが、その内の6万3,000トンが南アフリカ一カ国に集中しており、それに次ぐロシアが1,100トン、米国が900トンとなっている。このため、南アフリカとロシアが協調すれば、供給量のほぼ完全なコントロールが可能な状況にある。
2012年の生産実績でみても、プラチナの総生産高は179トンとなっているが、南アフリカが128トン、ロシアが26トンとなっており、南アフリカとロシアの2カ国で概ね8~9割の市場シェアを確保している。パラジウムでも、総生産高が200トンに対して、南アフリカが72トン、ロシアが82トンとなっており、こちらも8割前後の市場シェアを有している。その意味では、市場シェアが4割前後のOPECとは比較にならない程に強力な価格カルテルが誕生しかねない状況と言えるだろう。
■プラチナは工業用金属
プラチナというと、一般的には宝飾品用貴金属のイメージが強いかもしれない。実際に、金(Gold)とは違う白色でしかも酸化しづらいという特色が高く評価されており、近年では特に中国での需要が伸びている。パラジウムに関しても、パラジウム単独の宝飾品の他に、ホワイトゴールドなどの合金分野で大きな需要が存在する。
しかし、実際にはプラチナ総需要の4割程度が自動車の排ガス触媒として使用されており、工業用金属としての性格の方が強い。プラチナ触媒には、窒素酸化物(NOX)の排出抑制に大きな効果が認められており、従来の日米欧といった先進国に加え、環境意識が高まり始めている中国といった新興国でも需要増が促されている。それ以外でも、化学業界でシリコン製造触媒、電気製品ではハードディスクの容量増加目的などでも使用されており、これらも合計すると6割程度が工業分野で消費されている。
宝飾需要に関しては、供給不足や価格高騰があれば簡単に消費需要が減少するが、工業需要に関しては代替金属への切り替えに時間が必要なこともあり、仮にプラチナ版OPECが誕生すると、自動車業界を中心に大きな混乱が生じる可能性もある。
■今夏に具体的な協議を予定
では、具体的にロシアのSergey Donskoy天然資源相はどのような発言を行っているのだろうか?
現段階では特に具体的なタイムスケジュール等は提示されておらず、ただ単純に「我々の目標は、協調してこれらの貴金属市場から得られる収益を拡大することだ」と述べたのみである。「価格は市場構造に依存し、我々は市場構造を整備する」として、貴金属売却収入を最大化させるために、供給量のコントロールを志向していることを示唆するに留まっている。
また、これに呼応する形で南アフリカのSusan Shabangu鉱業相は、「我々はカルテル形成は望んでいないが、マーケットに影響を及ぼすことは望んでいる」として、「プラチナ版OPEC」とは一定の距離を保ちながらも、何らかの市場介入を行う可能性については魅力を感じていることを示唆している。
今回のBRICs首脳会合では、この分野での協力についての覚書に書名したのみであり、具体的な協議は行われていない。しかし、ロシア側は「(協力して輸出量を調整するために)ワーキンググループを作っている」、「夏にも詳細なメカニズムを議論するための協議を行う」と前のめり気味の方針も示しているため、今後の展開には十分な注意が必要である。
現実問題としては、世界貿易機関(WTO)協定との関係など、この計画を実現するためのハードルは高い。実際、中国のレアアース輸出制限については、日本と米国、欧州連合(EU)がWTOに提訴するなど、国際的に大きな批判を浴びている。このため、マーケットはこの「プラチナ版OPEC」構想を必ずしも真剣に捉えていないが、昨年に南アフリカで多数の死者を出した大規模な労使トラブルが発生したのに続き、今年は政治的な供給リスクも抱えつつあるのは間違いが無さそうだ。