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「悲しみは簡単に癒えない。心の復興を」。漂流ポスト管理人の赤川勇治さんに訊く #あれから私は

水上賢治映画ライター
「漂流ポスト」より

 「手紙を書くことで心に閉じ込められた悲しみが少しでも和らぎ、新たな一歩を踏み出す助けになるなら」との思いから東日本大震災の後、開設された「漂流ポスト」。

 被災地である岩手県陸前高田市の山奥にあるこのポストには、全国各地から亡き人への思いが綴られた手紙が届く。

 このポストを開設し、現在は管理する赤川勇治さんに聞くインタビューの後編。前回は漂流ポスト誕生までのエピソードを語っていただいたが、ここからは誕生後から現在、そして全面協力をした映画「漂流ポスト」について。

大切な人を失った悲しみは、どの人も一緒。悲しみに違いはない

 東日本大震災から3年が過ぎ、4年目となる2014年3月11日に「漂流ポスト」は開設。これまでに約800通の手紙が届いている。

「はじめたときから、東日本大震災の被災者ではない人から手紙が届きました。

 はじめは、戸惑いました。やはり、被災者のみなさんから届くものだと想像していましたから。

 ただ、よくよく考えると、大切な人を失った悲しみは、どの人も一緒。悲しみに違いはない。そこで分ける必要はないと思いました。

 それで、『漂流ポスト』も当初は、『漂流ポスト3・11』としていたんです。でも、これも『3・11』と限定しないことにした。『3・11』としてしまうと、被災者でないと手紙を書いて心の整理をすることをためらって書かずに終わってしまうかもしれない。それで『3・11』を外して『漂流ポスト』となりました」

「漂流ポスト」の管理人、赤川勇治さん 筆者撮影
「漂流ポスト」の管理人、赤川勇治さん 筆者撮影

最初の1年はほんとうにつらかった

 はじめたころは、苦しい日々が続いたと明かす。

「覚悟はしていたんですけど、苦しかったですね。

 ほんとうにどの手紙も、苦しい胸の内が明かされていて、受けとめきれない。自分で始めたことでしたけど、自身を恨んだというか。『なんで、こんな重責を引き受けたんだ』と思いました。妻からは『自分で始めたこと、責任をもってまっとうしなさい』といわれますし(苦笑)。

 ほんとうにやりきれない気持ちで。周囲になにもない山の中で夜になると真っ暗になって、さらに気が滅入る。なので、毎日『夜よ、こないでくれ』と空に願っていました(苦笑)。

 最初の1年はほんとうにつらかったです。でも、いまはうれしさに変わってきています。

 というのも、徐々に、『あのとき、手紙を書いたことで一歩前に踏み出すことができました』『手紙を出したことで元気になりました』といった、元気に立ち直られた方からの声が届くようになったからです。漂流ポストにある小舎で知り合った方もいらっしゃいます。

 みなさんからお預かりした大切な手紙なので、1年に1度、お寺で供養しているのですが、そちらに参列したいという方もいらっしゃいます。

 このご縁はわたしにとってかけがえのない財産になっています」

「漂流ポスト」より
「漂流ポスト」より

手紙を原則、公開とした理由

 届いた手紙は公開が原則。手紙は閲覧することができる。きわめてプライベートな手紙を公開することにした理由を赤川さんはこう説明する。

「最初に漂流ポストをはじめたときに、但し書きでこう添えました。『ぜひ公開させてほしい』と。なぜなら、まだ手紙を書くところにたどりついていない人のために、同じ苦しみにいる人が自分だけではないことに、手紙を読んでもらうことで気づいてほしかった。

 震災直後から、被災して大切な人を失った方の話をきいて気づいたのは、そういう方たちが一歩踏み出すには、その想いを共有してくれるものが必要ということ。みなさんから届いた手紙は、まだ手紙を書けないでいる人をきっと勇気づけてくれると思いました。

 それで手紙の公開をお願いしました。

 正式に数えたことはないのですが、閲覧できるものと、できないものは半々ぐらいだと思います。閲覧室を作りまして、そちらでどなたでも見られるようにしてあります」

 現在公開中の映画「漂流ポスト」は、赤川さんの全面協力のもと、実際にポストのある「森の小舎」で撮影を行った。

「清水(健斗)監督から直接、漂流ポストを映画にしたいとの話をいただきました。

 正直、映画制作のことはよくわかりません。ですが、清水監督からものすごい熱意を感じました。聞くと、震災直後から、被災地に入って長期でボランティアをしていたという。被災者心理に寄り添った作品で風化を止めたいと考えていること、若い世代に震災の記憶を伝えたいという想いがあることがわかりました。

 それを聞いたら、わたしの返事はひとつ。『お任せします』とお願いしました」

「漂流ポスト」より
「漂流ポスト」より

 映画「漂流ポスト」は、2011年3月12日に仕事で岩手県に訪れる予定で、東日本大震災が他人事と思えず、被災地で長期ボランティアをした清水健斗監督が、ポストの存在を知り、被災地で実際に見聞きしたことと漂流ポストへ届く思いをひとつの物語にしたためた1作。

 東日本大震災で無二の友人を失ったひとりの女性の消えない悲しみと、心の再生を描いた作品は、フランスのニース国際映画祭で最優秀外国語短編映画グランプリに輝くなど、主に海外の映画祭で大きな反響を呼んだ。

「作品ができるまではあまり気にしていなかったんですよ(笑)。もうお任せしましたから、自由にやってくれればいい。

 だから、完成してはじめてみせていただいたんですけど、お世辞ではなく感激しました。

 わたしが漂流ポストに込めた想い、漂流ポストへ手紙を届けてくださったみなさんの想いが、きちんと反映されている。大切な人を失った者の悲しみや苦しみが伝わってくる。そして、そこから新たな一歩を踏み出す心の再生をみつめている。

 まだまだ心の傷が癒えていない人はたくさんいらっしゃる。そういう方に届いてくれたらと思いました」

悲しみや苦しみは10年が経ったからといって一区切りつくものではない

 震災から10年という今、公開されることについてはこう受けとめている。

「こういう映画を通して、東日本大震災のことを思い出してほしい。忘れないでほしい。

 震災から5年、7年、10年というのは時間的な区切りに過ぎない。悲しみや苦しみというのは10年が経ったからといって一区切りつくものではないんです。新しく整備・建設されて町や家は再興されたように目に映るかもしれない。でも、人の負った心の傷というのは、そう簡単には癒えない。

 震災から5年、10年と区切られて、そのときだけ触れて、あとは知らん顔になってしまっては困る。まだまだ立ち直れないでいる人がどれだけいらっしゃるか。それを思うと、忘れないでほしいし、日本にいるみなさんに支えてほしい。だから、こういう映画で、繰り返し震災のことを伝えていくことが重要だと思っています

 また、まだ苦境にいる人がその苦しみを乗り越えていく一つの支えになってくれればと願っています」

悲しみの中にいる人を支える一助になれれば

 今後も、漂流ポストを守っていくという。

「現実には、まだご遺体さえ見つからない方がたくさんいらっしゃる。時の経過とともに、震災のことは世間では薄れていく。それは仕方がないことかもしれない。でも、当事者である方たちは忘れられない。忘れられるわけがない。

 そうした想いを吐き出せないまままだ生きている方がたくさんいらっしゃる。その受け口として、『漂流ポスト』を守っていきたい。悲しみの中にいる人を支える一助になれればと思っています」

「漂流ポスト」より
「漂流ポスト」より

「漂流ポスト」

監督・脚本・編集・プロデュース:清水健斗

出演:雪中梨世 神岡実希 中尾百合音 藤公太 永倉大輔

公式サイト:https://www.hyouryupost-driftingpost.com/

筆者撮影以外の写真はすべて(c) Kento Shimizu

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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