北朝鮮入り米兵の運命は…「歯がズレて」死亡の前例も
元駐英北朝鮮公使で、韓国に亡命して国会議員になった太永浩(テ・ヨンホ)氏が19日、板門店(パンムンジョム)で北朝鮮に越境した米軍兵士について「今日から『地獄の不時着』が始まるだろう」とフェイスブックに書き込んだ。
大ヒットした韓流ドラマ『愛の不時着』のタイトルに引っ掛けた言葉だ。ドラマでは美男美女のロマンスが始まるが、現実の北朝鮮がそういうところではないのは言うまでもない。
太永浩氏によれば、仮に米軍兵士が帰国を望んでいたとしても、西側各国の領事業務を代行していたスウェーデン大使館がコロナ禍で臨時閉鎖されているため、意思の確認すら難しいという。
また「北朝鮮としても今回の越境事件が韓米核協議グループ(NCG)初会合が開かれて米国戦略原子力潜水艦(SSBN)が訪韓した日に起こり、米軍の体面を汚す好材料が生じたと喜ぶはず」とした。
その一方、「越北米兵の存在は北にも長期的に効果が低く、悩みになるしかない」とも指摘している。たしかに、米兵を利用して何らかの宣伝を行ったとしても効果は一時的で、いずれ帰国した彼が、「人権侵害を受けた」などと騒ぎだすリスクもある。
しかしより懸念されるのは、彼が本物の人権侵害の被害者になることだ。越境は、軍での懲罰回避のため「突発行動」だった可能性も囁かれているが、そんな人物なら北朝鮮でタブーに触れる行動に出かねない。
北朝鮮で約1年半にわたり拘束され、昏睡状態で解放された直後に死亡した米バージニア大学生、オットー・ワームビアさん(当時22)は、平壌のホテルで政治スローガンが書かれたポスターを盗んだとして捕まった。
この件ではワームビアさんの両親が北朝鮮に賠償を求めていた訴訟で、米ワシントンDCの連邦地方裁判所は2018年12月24日、北朝鮮に対し5億100万ドル(約552億円)の支払いを命じた。
両親側は、北朝鮮から帰国したワームビアさんの歯列が大きく変形していたことなどを根拠に、ワームビアさんが北朝鮮で拷問を受けたと主張していた。上の写真は北朝鮮に行く前のワームビアさんのエックス線写真だ。問題は下の歯列の中央の2本の歯なのだが、この写真ではきれいな歯並びであることがわかる。
しかし、ワームビアさんの主治医が陳述書に添付して連邦地裁に提出したスキャン写真(下)を見ると、この2本の歯が、不自然に口の内側に移動しているのだ。
判決文と付属の意見書(memorandum opinion)に基づく米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の報道によれば、地裁のベリル・ハウェル判事は判決文で「北朝鮮はワームビア氏の拷問、人質、超法規的な殺人に責任がある」としている。
(参考記事:北朝鮮の女子高生が「骨と皮だけ」にされた禁断の行為)
本人は「ジョーク」のつもりでも、北朝鮮ではそれが通じないどころか、文字通り命取りになることもある。件の米兵が、それを知っていることを願いたい。
上の2枚は北朝鮮行き前、最下段は帰国後(VOAなどから)