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北朝鮮 列車の転覆事故ではなく、バスの事故! 「RFA」の報道は「誤報」!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「列車ではなく、バスの転覆事故」と伝えた「チャンネルA」(「チャンネルAから)

 韓国のメディアは米政府系の「ラジオ・フリーアジア(RFA)」が1月16日に「北朝鮮で列車脱線事故が発生し、数百人が死亡した」と、配信したニュースをそのまま引用して報道し、一部日本のメディアもソウル発で後追いしていた。

 韓国メディアの中には「毎日経済」など「北 咸鏡南道で列車転覆し、数百人死亡 情報当局確認中」と、当局の発表を待つメディアもあったが、テレビも含め多くのメディアは「北 咸鏡南道で列車転覆し、数百人死亡」「北 電力難で列車転覆、400余人死亡・・・死体処理班も」「北 列車転覆事故で400人以上死亡・・・幹部だけ助かる」と事件をほぼ既成事実として伝えていた。

 珍しいことに、常日頃、北朝鮮に厳しい論調を取っている「朝鮮日報」だけが唯一「北 咸鏡道で列車転覆、数百人死亡説」(18日付)と「説」を付けていた。また、サブタイトルには「先月電力不足で脱線・・・政府当局者『把握していない』」との見出しも付けられていた。記事の最後には「韓国政府の当局者は現在、北朝鮮で大規模な鉄道事故や人命被害があったという情報は把握されていない」として「RFAの報道を否認した」となっていた。

 あの「朝鮮日報」が断定せず、慎重な姿勢だったことに違和感を抱いていたが、「朝鮮日報」のライバル紙である「東亜日報」系のケーブルテレビ「チャンネルA」は昨夜、政府高官の話として「RFA」の報道は事実ではなく、「バスの転覆事故で、死亡者も数百人ではく、僅かだった」との「特ダネ」を伝えていた。

 「チャンネルA」によると、この政府高官は情報機関「国情院」の幹部らしく、国情院は「RFA」の報道は事実でないことを確認したとのことだ。但し、「事故があった場所は端川の近郊であったことは間違いない」としている。この幹部によると、この地域は勾配が急で、過去にも事故が多発していたとのことである。

 バス事故だったならば、「RFA」が咸鏡南道の消息筋の話として「昨年12月26日、平壌を出発して咸鏡南道検徳に向かっていた列車が端川一帯で転覆した」との情報は誤報いうことになる。

 「RFA」の情報提供者である消息筋は「急傾斜の峠を越えようとしていたところ、列車の速度が遅くなり、機関車牽引機の電圧が弱く空回りして列車が後ろに押され始めた。押されていた列車に加速度がつき、山の曲がりを回る時に列車が脱線し、列車の後部の客車が山の下に転落し、幹部が乗っていた上級列車は脱線せず、残りの7つの列車に乗っていた住民はほとんど死亡した」と話していた。また、RFAは「今回の事故で転覆した7つの車両に乗っていた人員は400人を超える」として「死亡者を数百人」と報じていた。

 「RFA」の今回の報道については▲事故が起きた日時や場所などかなり詳細に報じられていること▲12月末に開催された党中央委員総会で鉄道相と該当地域の咸鏡北道の党書紀が更迭されていること▲金総書記の総会での演説の中で鉄道部門に触れ「鉄道が伸びている道・市・郡で線路の維持・補修につねに関心を払え」と発言していたことから列車の脱線・転覆はあったのではないかと推測しても不思議ではなかった。

 それでも、「当日は大雪だった」とされていたことや急斜面で真ん中の客車が脱線したためその勢いで後方の7車両が逆走し、次々に脱線して谷底に落ち、「上級列車」と呼ばれる幹部用の車両2両だけが脱線せずに端川駅まで逆走したとの記事の下りについては早くから疑問符が付いていた。

 気象庁の予報では当日は好天で雪は降っていなかったし、機関車がブレーキを掛けたままで2車両だけが端川駅までの45kmを脱線せずに無事でいられるのはあり得ないとの専門家の見方があったからだ。

 また偵察衛星が事故現場を捉えた写真がなかったことや「RFA」が続報を出さなかったことも信憑性が問われる要因となった。

 この件では「電子新聞」のソ・フィウオン記者がグーグルの地図を駆使し、現場を検証していたが、1月17日にオンラインに上げたオンラインの記事を読むと、様々な疑問が呈されていた。

 「RFA」の報道では「事件は鉄道省を通じて中央に報告されたが、当局は端川一帯を非常区域に宣言し、住民の世論統制に汲々としている」として、事件が3週間近くも公にならなかったのは、当局がかん口令を敷いていたからとしていたが、北朝鮮は死亡者が150人も出た2004年の龍川駅列車爆発事故では隠蔽せず、公表していた。

 また、金正恩(キム・ジョンウン)政権になってからは北朝鮮は恥部である筈のアパートの崩壊から欠陥建築や水害や干ばつの被害状況に至るまで赤裸々に公表し、写真や映像まで公開していた。

 北朝鮮の道路事情については金総書記が2018年に訪朝した文在寅(ムン・ジェイン)前大統領との会談で「恥ずかしいことに我々の道路事情が良くない」と認めていたし、実際に北朝鮮はこの発言の直後、即ち4月22日には黄海北道の豊山郡で中国人団体観光客が乗ったバスが交通事故にあい、中国人旅行客が32人を亡くなるという事件を引き起こしている。

 金総書記が翌23日に夜に負傷者を治療している病院を訪れ、さらに翌日には中国大使館を訪れ、弔意を表し、習主席に慰問の電文を送っていたのはまだ記憶に新しい。

 「RFA」は昨年2月にも「北朝鮮国内で金正恩総書記の娘「ジュエ」と同名の女性への改名強要が始まった」(2月10日付)と報じ、また11月にも「労働党組織指導部が後援会でジュエを『朝鮮の新星』と『女将軍』と呼んでいる」(30日付)と報じていたが、いずれも裏の取りようのない情報で韓国当局は今もって確認できていない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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