「一握りのコメも買えない」飢える北朝鮮、食糧難が加速
通貨安、物価高騰の続く北朝鮮で、市場でのコメ価格が史上最高タイを記録した。
デイリーNKが定期的に行っている物価調査で、今月13日のコメ1キロの価格は平壌で6530北朝鮮ウォン、新義州(シニジュ)6580北朝鮮ウォン、恵山(ヘサン)7000北朝鮮ウォンに達した。(1万北朝鮮ウォンは約100円)
デイリーNKは2009年8月15日からこの3都市での物価調査を行っており、現在の価格と比較可能な2009年11月30日の貨幣改革(デノミネーション)直後に行われた調査では、1キロ44北朝鮮ウォンだった。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も"残酷な夜")
7000北朝鮮ウォンに達したのは、2023年10月1日以来のことだ。これは、コロナによるブロックアウトで市内への物資の流入が止まっていた2021年6月16日の価格とも同じだ。庶民の窮状が深まっている。
北朝鮮の米価は、端境期を迎える春に最も高くなり、10月の収穫期を迎え一気に下降線を描く。収穫が終わり新米が出回る直前のこの時期が最も高い。
北朝鮮当局は、穀物流通を国の統制下に置くシステムの復活を狙っており、開店休業状態だった糧穀販売所(国営米屋)を再オープンさせ、農場で買い取ったコメなどの穀物を、市場より安く販売している。
だが、国の買取価格は、市場のそれより2〜3割安く、農民が損をするまいと穀物を隠匿した。さらには、市場にも売りに出さなかったことも加わり、供給量が減ったため価格の上昇につながったというのが、韓国の北朝鮮農業の専門家の分析だった。
今年また最高価格タイを記録した背景については、明らかになっていない。
なお現在、北朝鮮ウォンの対米ドルの闇レートも、1ドル(約149円)が16000北朝鮮ウォン前後で、若干ウォン高に戻したものの、依然として深刻なウォン安が続いている。輸入品の価格は高騰し、原材料を中国やロシアからの輸入に頼る国産品の価格上昇をもたらしているようだ。
さらに今年に入って、工場、企業、機関の従業員の月給が20倍から35倍引き上げられ、3万北朝鮮ウォンから5万ウォンとなった。マネーサプライ(通貨供給量)が急激に増えたことで、インフレ傾向が強まっている可能性も考えられる。
一方、救荒作物であるトウモロコシ1キロの価格は、平壌で3100北朝鮮ウォン、新義州で3120北朝鮮ウォン、恵山で3200北朝鮮ウォンと、この2週間でほぼ横ばいだが、依然として普段より高い。
例年は、9月中旬から10月初旬にトウモロコシが市場に供給され、価格が下がり、その影響で米価も下がる傾向にあった。今年は既にトウモロコシが市場に出回っているが、価格は下がっていない。昨年同期比でコメは33.1%、トウモロコシは17%高値となっている。
ただでさえ困窮している北朝鮮庶民の暮らしは、まずます苦しくなっている。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、コメとトウモロコシの価格上昇に伴い、コメを食べる量を減らし、トウモロコシの粉と乾燥しすぎて例年なら売り物にならないシレギ(乾燥した大根の葉)を煮込んで作った粥をすすり飢えをしのぐ人が大幅に増えた。
食糧難は都市部も農村部も同じで、「銃を持った兵士たちが昼夜を問わず倉庫を守っており、農家の人たちが一握りの米を手に入れるのも難しい」(情報筋)状況だ。
当局は、無人機飛来事件をネタにして反韓感情を煽る大々的なキャンペーンを繰り広げているが、多くの庶民の最大の関心事は、「韓国との戦争」ではなく、「物価高、食糧難との戦争」だ。