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鳥山明さん、TARAKOさん死去にも「インプ稼ぎ」 なお続く便乗型コピー投稿の氾濫

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
ニューヨークの感謝祭のパレードに登場した「ドラゴンボール」のバルーン=2018年(写真:ロイター/アフロ)

鳥山明さん、TARAKOさん死去にも「インプ稼ぎ」の投稿が次々――。

注目を集めるニュースに便乗して氾濫する、広告収益狙いと見られるソーシャルメディアのインプレッション(表示数)稼ぎの投稿「インプ稼ぎ」が止まらない。

3月8日には「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」の人気漫画家、鳥山明さんの死去、翌9日には人気アニメ「ちびまる子ちゃん」の声優、TARAKOさん死去のニュースが続くと、ソーシャルメディアには、追悼の投稿が相次いだ。

だがその中で、中東や南アジアのユーザーと見られるアカウントが、日本語の追悼投稿をコピー&ペーストして投稿。同種のアカウントが、それをさらにコピー&ペーストして次々に再投稿していく動きが見られた。

日本国内での「インプ稼ぎ」が関心を集めたのは、元日に発生した能登半島地震でのフェイク(偽情報・誤情報)投稿拡散だった。人命救助など震災対応の障害となることが懸念された。

それから2ケ月。政府は偽情報・誤情報問題への対応を掲げ、ソーシャルメディアにも対処を要請。総務省の有識者会議でも対策を検討中だ。

情報空間の汚染はなお続いている。

●「鳥山明氏に続いて、TARAKOさんも」

「鳥山明氏に続いて、TARAKOさんも…まる子どうなるんだ...」

3月8日昼過ぎに明らかになった鳥山明さんの死去のニュースに続いて、翌9日未明にTARAKOさん死去のニュースが流れ、ソーシャルメディアのXには、追悼の投稿があふれた。

ただその中で、上記の文言とまったく同じ内容をコピー&ペーストした投稿が次々に投稿された。それぞれのアカウントのプロフィールやその他の投稿を見ると、外国語、特にアラビア語やヒンディー語が目立った。

その一つは3月9日午前4時20分過ぎに投稿され、約190万回の表示数を集めていた。投稿には、アニメ「ドラゴンボール」で主人公、孫悟空を演じる野沢雅子さんら、人気声優による鼎談動画がついていた。

プロフィールは日本語表記だが、2023年の大半の投稿はアラビア語で、イエメンの国旗や革命記念日(9月26日)、反政府武装組織「フーシ」などについての記述があった。

投稿の内容は、先行する複数の日本語投稿をコピー&ペーストし、組み合わせたように見える。1月2日に羽田空港で起きた日本航空機と海上保安庁機の衝突事故の際にも、コピー&ペーストと見られる書き込みと動画の投稿で、270万回近い表示数を集めている。

アカウントは課金ユーザーを示す青いチェックマークがついている。今回の投稿に対する返信コメントには、日本語に加えて、アラビア語やヒンディーも目立つ。

その投稿には、国内大手ビデオ・オン・デマンドサービスによる人気アニメ配信開始の広告、大手玩具メーカーの「ドラゴンボール」のカードゲームの広告、オンラインプログラミングスクールの広告、建設業課向けメディアの広告、電子書籍レンタルサービスの広告、と5件の広告が掲載されていた。Xの広告収益分配の対象になっているようだ。

この投稿を、さらにコピー&ペーストして投稿するアカウントが、次々と後に続いた。やはりアラビア語などのユーザーと見られるアカウントが目立つ。

この他にも、アラビア語、ヒンディー語のユーザーらによる、「TARAKOさんのさくらももこさんへの追悼のメッセージ泣ける」といった日本語の投稿が、次々にコピー&ペーストで再投稿されていた。

●能登半島地震から2カ月

「インプ稼ぎ」が大きな関心を集めたきっかけは、2024年元日の能登半島地震での偽情報・誤情報の氾濫だった。

※参照:能登半島地震でXトレンド入り、フェイクとコピペの「インプ稼ぎ」とは?(01/02/2024 新聞紙学的

2011年3月11日の東日本大震災の際に岩手県宮古市で撮影された、津波が堤防を乗り越えて押し寄せる動画とともに、「北陸新潟能登半島の方逃げてください」という文言の投稿が、コピー&ペーストで繰り返し投稿された。

また、架空の住所による「救助要請」や、詐欺の疑いもある「寄付要請」の投稿が、コピー&ペーストで繰り返し投稿されていた。

このような「インプ稼ぎ」の背景として、Xが2023年7月(日本は8月)から導入した、フォロワー500人以上、過去3カ月の投稿の総表示数500万回以上の課金ユーザーを対象とした「広告収益分配」の仕組みが指摘されてきた。

※参照:電機メーカー、Eコマース…能登半島地震で「インプ稼ぎ」投稿に大手が広告(01/03/2024 新聞紙学的

※参照:地震後 SNSに偽「救助要請」多数 収益目的 “インプ稼ぎ”か(NHK NEWS WEB

それらのアカウントページの投稿は、インド・パキスタンなどで使われるウルドゥー語や、中東のアラビア語などが目立った。

NHKが2月初めに報じたXに関する調査では、石川県珠洲市の住所を挙げ、違う場所の動画をつけて救助を求める偽情報を投稿していた24のアカウントのうち、12アカウントは居住地がパキスタンとなっていた。また、アラビア語やウルドゥー語による日常的な投稿をしているアカウントが、少なくとも9つあった。

これらのアカウントでは2023年10月以降、日本に関する投稿が計3,000件近くあった。能登半島地震に関する投稿は約160で、表示数は合わせて1,100万回以上に上ったという。

※参照:能登半島地震の偽情報 海外から多く “インプレゾンビ”が(NHK NEWS WEB

東京大学准教授、澁谷遊野氏らは、総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」の2月27日の会合に、能登半島地震に関する230万件のX投稿などを対象とした調査結果を報告している。

それによると、Xへの投稿全体の83.2%は日本語使用者と推定されるユーザーによる投稿だったが、コピー&ペーストによる投稿(54パターン3,938件)では、91.9%が日本語以外のユーザーによると見られるという。

●2カ月が過ぎ、閲覧数70万件超の偽情報

能登半島地震を巡る偽情報・誤情報の氾濫を受け、岸田文雄首相は1月2日の会見で「被害状況などについての悪質な虚偽情報の流布は、決して許されるものではありません」と述べた

総務省も同日、プラットフォーム各社に対応を要請。また、上記の有識者会議に作業部会を設置し、対策の検討を進めている。

地震発生当初、偽情報・誤情報をコピー&ペーストして拡散させていたアカウントは、2カ月たってどうなっているか。

アラビア語のユーザーは、地震発生から約2時間後の1月1日午後6時19分に「北陸新潟能登半島の方逃げてください」などとする書き込みとともに、東日本大震災時の岩手県宮古市の津波被害の動画をXに投稿した。

本稿執筆時点(3月11日朝)で表示回数は317万回。投稿には「コミュニティノート」が表示され、動画が東日本大震災時のものであることを指摘している。地震発生当初は、アカウントには課金ユーザーであることを示す青いチェックマークがついていたが、現在は外れている。

「コミュニティノート」は、疑わしい内容を含む投稿に対してボランティアユーザーが背景情報を追加する機能で、これが表示された投稿は広告収益分配の対象にならない、という。

アカウントの居住地欄を「バーレーン」とし、アラビア語で自己紹介をしているユーザーは、その2時間後の同日午後8時18分に、文言、動画とも同じ内容の投稿をした。

これまでに73万回の表示回数を集めている。また、投稿への返信の形で、大手ビデオ・オン・デマンドサービスによる民放のタイムスリップコメディドラマの広告や、大手玩具メーカーのユーチューブ番組の広告、大手飲料メーカーのギャラリー見学ツアーの広告、電子書籍やソフトのダウンロードサイトの広告、と4件の広告が現在も掲載されている。

上記の投稿には、返信の形で偽情報であることの指摘が多数ついているが、「コミュニティノート」の表示はない。

また、居住地を「米国」とし、日常的な投稿ではウルドゥー語を使うユーザーは、同じ宮古市の津波被害動画、ほぼ同じ文言の投稿を上記投稿の1時間後にしており、やはり本稿執筆時点で33万回近い表示数を集めている。

この投稿には、大手出版社が運営するオンラインサイトの事件簿記事の広告が1件、掲載されている。返信コメントには「インプ稼ぎ」との指摘もあるが、「コミュニティノート」の表示はない。

居住地を「パキスタン」としているユーザーは、同様の投稿で31万回の表示数を集めている。

上記の大手玩具メーカーの「ドラゴンボール」のカードゲームの広告、すでにファクトチェック行われている「日銀が宮崎駿監督を提訴」という偽情報にリンクする投資詐欺の疑いがあるフェイク広告、大手動画配信サイトのゲームサービスの広告、東北の自治体による震災復興事業サイトの広告、関西の音楽フェスの広告、と5件の広告が表示されていた。地震発生当初は課金ユーザーの青いチェックマークがついていたが、現在はついていない。

この投稿は、もともとは別アカウント(英語)による宮古市の津波被害動画の投稿を共有し、「逃げてください」という日本語のコピー&ペーストの文言を加えたものだったが、元の動画投稿はアカウントが凍結され、動画は表示されなくなっている。

●さらなる取り組みが必要

能登半島地震発生から2カ月以上が経過したが、ソーシャルメディア上の偽情報・誤情報問題は、さらなる取り組みが必要のようだ。

(※2024年3月11日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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